第10話 パパ
街を覆いつくした影に誰もが空を仰いだ。
NYの大空を隠したものは巨大な、果てしなく巨大な宇宙船だった。
「俺、マタタビキメ過ぎたかな?」
イヨは両手を捥がれたタンクマンの頭の上に陣取り、機関銃を抱えたまま空を見上げて誰にでも無く訊く。
あまりに突然の事で驚くだろうが、説明するとタンクマンとの戦闘を始めて暫く後、ウォーヘッドが放った閃光に呼び寄せられる形でNY上空に件の宇宙船がワープアウトしてきたのだ。
遅れ馳せながら出動した軍隊が宇宙船へと攻撃を行ったが全ての攻撃は船体を覆うシールドに阻まれて効果を成さなかった。
逆に宇宙船が放った光の帯により戦闘機は次々撃墜されて行く始末。それを皮切りに宇宙船は街への攻撃を開始、破壊を始めた。
「どういう事なんだ、おいお前!」
「パパに近寄らないで!!」
「よしなさい、ミュール。良いんだ」
フルフェイスのヘルメットを脱ぎ捨てながら、疲弊し膝を付いたウォーヘッドへと詰め寄るスパイクの前に立ちはだかり魔法を放とうとするミュールをウォーヘッドは止めた。
「私はウォーヘッド、その名の通り、私は先触れなのだ。彼ら、”フォールン”の……」
ウォーヘッドは隕石として地球へと到達した後、ロシアの軍のネットワークと密かに同化し、そこから人類のことを観察し、全てを彼ら”フォールン”と呼ばれる破壊者に伝えていたのだという。
「パパは、わるい人……なの?」
「分からない、私が自我を獲得したのはミュール、君の力のお陰なのだ。それまでの私は与えられた命令を遂行するだけの、機械……」
「違うわ! パパはパパじゃない!! わたしのためにお星さまがつかわして下さったキセキなのっ、機械なんかじゃないんだから!!」
そう言って泣き付いたミュールをウォーヘッドは金属のその腕でそっと抱き締める。そして彼女が泣き止まない内に彼女を己から引き離し、立ち上がる。
「スパイク、君に頼みがある」
「嫌だね。てめえで何とかしろよ」
「いいや、私にはしなければならないことがある。だから、この子を、ミュールを、私の……娘を、どうか頼みたい。彼女の母親はまだ生きている。きっとミュールを狙うだろう。私には守ることが出来ない。だから、スパイク・A・ブルスケルトン……」
「パパ……い、いやよいやよいやよ!!」
ウォーヘッドは抵抗するミュールを強引にスパイクへと引き渡し、そして自らは彼女と彼から数歩ほど下がる。
そして一度空の宇宙船を見上げた後、再びスパイクを見る。彼の視線に気付いたスパイクは、躊躇いながらも最終的には頷いた。
「……私はこれまでデータとして蓄積した人間と言う生き物のことを、ミュールにより自我を与えられ理解した時、とても愛おしく感じた。過ちを繰り返しながらも、それでも歩み続けて行く君たち人間に……だから、私は人間を守りたい。
ウォーヘッドは片手を掲げ、宇宙船へとアクセスする。機械的な制御しかされていない宇宙船は彼をすぐに認識し、帰投を承認した。
すぐさまトラクタービームによるアブダクションが行われ、ウォーヘッドの巨体が宙に浮かび上がり始める。
ミュールはそれを見てスパイクを振り払おうとするが、彼は彼女を行かせない様に掴まえた。数回にも及ぶ魔法の衝撃波がスパイクを襲い、遂に耐え切れなくなっあスパイクが怯んだ隙にミュールは駆け出した。
「まってよパパぁ! 一人なんて、一人なんてわたしいやよ! わたしもパパといっしょがいい……っ!!」
「ミュール。強く、正しく生きるんだ。きっとこれからお前には様々な試練が訪れる。これまでの行いに、悩むことにもなるだろう。その力にも。だが、だがお前は決して一人では無い。皆が付いている。勿論私も、ずっと一緒だ――我が最愛の娘、ミュール」
やがてウォーヘッドは宇宙船へと格納された。魔法で浮かび上がろうとしていた所を追い付いたスパイクによって手を引かれ引き留められていたミュールは彼の姿が消えた事により、力無く降りてくる。
直後、宇宙船は内部から爆発を起こし始めた。ウォーヘッドが宇宙船の動力コアへと接続し、エネルギーをオーバーロードさせた事による暴走だった。
降り注ぐ破片を軍は総出になり迎撃。無論、NY中に居る力を持つ者たちもそれに協力していた。
空をイカレチワワことレオンが作製したロボット”バルチャー”と”パピー”が駆け抜け、同型のドローンを引き攣れ破片を次々と撃破。
火炎を纏った翼竜に似た異形”レッドドラゴン”も、稲妻を操る青年”アシュガル”と協力し巨大な船体の一部を破壊した。
落ちてくる小さな破片と、火の粉の中を、ミュールを抱きかかえたスパイクが走っていた。彼はヘルメットを脱ぎ捨てた事を酷く後悔しながらも、彼女を火の粉から庇いながら必死にPRIMEのベータ・チームが用意してくれた装甲車へと走って行く。
だが彼の真上に避け切れない巨大な破片が迫ると、咄嗟にミュールを腕の中に匿い、潰されるのを自分だけにしようとした。お終いだとスパイクが諦めかけた時、しかしその破片は空中で静止していた。
見てみるとスパイクの腕の中でミュールが魔法を行使していた。再び立ち上がりスパイクは駆けた。そして装甲車の後部座席から腕を伸ばしたナタリアと手を結び、二人は無事、危険区域を離脱したのであった。
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