第4話 やってやる
■9
『えっ、どうしてそういう発想になるわけ?』
妖精が声をかけてくる。所詮はチュートリアル用妖精、この考えには思い至るまい。
『普通、この建物の中で起こることを体験する物では』
どう考えても体串刺しの未来しか見えないけど。今この場でか、未来でかは別として。
『そんないきなり攻撃してくる蛮族居ないでしょ。現に攻撃されてないわけだし』
蛮族のほうがまだ良いわ。こういう時に隠れて牙を隠せる理性と知識が有る方が、よっぽど冷静に詰めてくるじゃん。
どうしようもない状況に追い詰めてくるタイプじゃん。どうせ何か丸め込まれて、変な苦行させられることになんだろう!? おつかいクエストはやりたくない!
『お約束って物もありますし……』
メタ方向に鋭角で話を逸らすな。
しかしそうか、確かにそうだ。
『そうでしょうそうでしょう。なので、変に状況を打破しようとするのではなくてですねぇ――』
でも、イベント中に動いたり出来るよう設定してあるのが悪い。
心底悪い。
『えぇー……』
強制的に進めばいいんだ、そういうのは。メインイベントを実施させたいなら、そこは緩く強制するべきだった。
話を聞かないといけない気にさせるとか、報酬があるとか、そういう感じの流れ。
でも、ここまで来る間に、そういった物は感じなかった。むしろ脅されてた。
イベントが発生していて、ここに来ざるを得なかった。
というか、もっと言えば移動イベントなんて無くてもいいんだ。
草原で気配も察知させず背後に回ることができたんだから、その時に気絶させるとか簡単にできたはずだ。気絶中に村に運び込み、この家に放り込むことなんて簡単だろう。
そうやって移動イベントをすっ飛ばすのが一番安全。自由は想定外とイコールだ。
でも、実際には歩いてここまで来たし、所持品の重量過多で立ち止まったりもした。
『あれは、移動・マップ・アイテム取得とか倉庫周りなんかの体験チュートリアルで』
だったらこの包囲網イベントの後、強制的にメインイベントへと組み込まれてからやれば良かったんだ
でも、そうはなってない。順番を間違えている。
■10
まぁ、どうあっても完全武装に包囲なんて熱烈歓迎は不要です。
お引取り願いたい。
『まぁ、そう言わずにお話だけでも』
「誰が何を教えてくれるってんだよ。誰も居ないじゃないか」
妖精に答えるのと同時に、少し進めてみる。
ただそれは、この後どう動くか考えるための時間稼ぎみたいなもんだけど。
さて、今のうちに自分のことを整理しておこう。
「それでしたら、私から話させていただきます」
声が聞こえてくる。年取ったようなしわがれ声。ただ、どこから聞こえてくるのかあやふやだし、不鮮明だ。
声が全方位から聞こえてくる。
俺が声を出したときは普通に反響してたし、向こうの声の伝わり方だけが変なのか。
別の部屋から管でも使ってこの部屋に流してるのか?
なぜそこまでして姿を見せようとしないんだ。
ともあれ、このまま語らせておけば良いだろう。
「立ち話もなんです、そちらにお座りください」
スルーで。
「――まぁ、良いでしょう」
『鎧を3個獲得しました』
『剣を4個獲得しました』
警戒が有る。武装者が更に増えた。
人数が分からない。武器は複数持てる。鎧は着なくても問題ない。
人数の同定には中々使えない。
が、
『服を3個獲得しました』
これは別だろう。
『靴を3個獲得しました』
これも別だろう。
それぞれ7個。最初に居たのも含めて7人。どうしてこんな普通の人間を警戒する?
いや、こんなコピー能力持ってて、普通もなにもないか。
けど、どうしてそんな能力を持っていると皆が知っている? 知らない?
分からないことは怖い。
俺が何かを持っている事は知っている。
でも、その他の事は何も知らない。
つまり、それを教えた誰かが居る。
だから警戒される。警戒するのは、相手が敵か味方か中立かも分からないからだ。
だから、素直に話を聞いておけば少なくとも中立認定されるだろう。警戒は薄らぐ。自分と同じ方向性の人間はそう
という推測も有るだろう。
でも、とにかく捕まえてやるぞ武力だ武力。
みたいな結末の方も考えると、やっぱなぁ。
素直に聞いておくのはないな。
『完全にひねくれてる……』
怒涛のごとく畳み掛けてくれば良いのに、考える暇があるからいけない。
■11
ところで、2個聞きたいんだけど。
『このままストーリーを進めてくれるならね。素直に』
必要になったなー、でもよく分からないなー。
『うぐぐ、チュートリアル妖精としての方向性に負けてしまう』
システムには抗えぬなぁ、クックック。
ほらほら、困ってますよー。どうしたら良いのかなー。
『お前のほうが外道かなにかだろ』
うるせぇよ。とりあえず1個目。どうやったら取得した道具を使えるんだ。
『あぁ、それね。左上、赤い丸をタッチ』
してみよう。
あぁ、ウィンドウが出てきた。アイコンも分かる。道具袋みたいなのがアイテム欄か。
どうれどれ。土? 1、10……1万個!?
たかが数十分も歩いていただけで、どんだけ手に入るんだ。
でも、1個がどれぐらいの量なのかわからないな。
『1立法メートルだよ』
とんでもねぇ量だった。それが1万個?
『忘れてるだろうけど、倉庫に預けた分は含まれてないからね』
総量把握したくない量がありそうだな……。
『んじゃ、あとは実践のほうが早いだろうね。種もあるだろう。認識したかい? 認識したら、手の中に何かの種を想像するといい』
では、ひまわりの種を1粒、手の中に。
『ひまわりの種を1個獲得しました』
まじかよ、手の中に見たことのある種が出てきた。
見たことのある白と黒の種だ。手のひらを下に向けると、落ちない。
置いてみようとすると、落下していく……?
あっ、
「なので――おや、それは?」
饒舌に話していた老婆(だと思う。姿が見えないので分からないが聞いていた感覚として)が落とした種に気づいてしまった。こっちからは姿が見えない場所に居るはずだよなぁ。鋭い観察眼をお持ちで。
とりあえずスルーで。
『簡単にスルーするようになるな、聞け』
神様が何を。万能であれ、お前がゲームマスターだ。聞かせるように頑張れ。
さてもう一つだが、例えば今の落ちた種を道具として取得するには?
『マイペースしかない。取得する際には、触れた状態で格納したと認識すればいい』
試しましょう。
まずはもう1個ひまわりの種。
それを、自分のすぐ後ろに落とす。
ほぼ音はしない。だから見るしか気づくことはできないだろう。
「なので、」
これ以上不審がられず、行動できるだろう。
触れていればいいらしいので、足を踏み変えたフリで、種を踏む。
そのまま足裏の種を、
『ひまわりの種を1個獲得しました』
把握した。
■12
整った。
警戒されてしまい包囲され中。7人ぐらいが武装している。
包囲殲滅への助走。
切り抜けるには一撃全殺。もしくは包囲突破。
こっちだって相手が判らないんだ。一撃で終了するか、逃げてしまうかしなきゃならない。
けど、せっかくだ。
そっちが戦闘イベントを考慮してきてるんだからさ、やってやる。やってやるよこっちだってな。
これで永年、資材術 たかなん @takanan
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