第3話 そっちがそういう態度を取るんだったら

 ■6


 今更感ありまくり。いや、チュートリアルでもない。ただの警告文だ。

『重量過多です。規定値の100%を超えたため、移動はできません。家、倉庫の設定をし、アイテムを移して下さい』

 こいつぁダメだ。どうしてこういうシステムが表示されてるのか分からないけど、このままだと動くことは出来ないんだろう。

 よくあるシステムだ。ステータスに依存して持ち物の数や種類に制限を加えるタイプ。数の上限が決まってるタイプより柔軟だから良い。ステータスさえ伸びれば幾らでも持てるしな。

「おい」

「へい、もう少しお待ち下さい」

 後ろを見れば、杖を持て余した姿。一応こちらの待てを聞いてくれてるようだ。

 おとなしく待ってくれてる間に対策しよう。

 やらなきゃいけないことは分かっている。警告文の通りだとして、家と倉庫の設定と、アイテム移動。

 インベントリからアイテムを移動させて所持重量を減らせって事か。

 でも、どうやって設定するんだ。

「説明不足過ぎる。普通は、必要な場面になったタイミングで教えてくれるもんじゃないのか?」

『説明って?』

「もうちょっと待ってね」

 どうしたもんだ。コントローラーとかないんだぞ。

『コントローラー?』

「無いと選択できないでしょ」

『そんなもんでしたか』

「はい。そういう感じなんで、もう少々ね、待ってね」

 結構からんできますね。さっきまでは杖の方がうるさいぐらいでしたよ。

『取り敢えず、突っついてみましょう』

「えっ、やめて待ってって言ってるでしょ!」

 思わず手で背中をかばう。

「……何してるの?」

「守ってるの!」

「何を?」

「背中を、杖から!」

「別になにもしやしない。待てって言われたんだし」

 そう言ってから更に一歩後ろに下がる。おう、そのリアクションは結構傷つくぜ。どうして後ろに下がったのか説明して欲しい所だ。

 というか、さっきからの声はあなたでは無く?

『こっちです』

「そっちか!? って、あれ、どこ?」

『あぁ、いえ、居るという意味ではなく』

「そこはマスコット的なキャラ出て来る流れじゃなかったのかよ!」

『まだ姿は確定させないほうが、後々有利になるかなって』

「お前の利益なんかどうでもいいわ。というか、なんだこれ」

 気づけば、なにか頭の中に声が響いていた。お前はチュートリアル妖精か。どうして最初から出てこなかったんだ。

『何かあってから出てくる物では?』

「何かがある前に出てくる者だよ」

 誰だこんな変な設計にしてんの。そしてお前は誰だよ。


 ■7


『私は神ですぅ!』

「うるせぇ黙れ早く去れ、頭の中から去れ今去れ」

『そげなー』

「どこの地方の人なんですか」

『天上地方かなぁ』

「天井か。幽霊系だな」

『もう少し上の方に浮いても良いよね』

「霊魂的な」

『召されに来い』

「お前が召されろ」

 なんだこの応酬。

「一体、何を」

「あっ」

 忘れていた。いや、会話が楽しかったから忘れていたわけではない。頭の中のハエを追い出すのに必死だっただけだ。

「そろそろ良いか?」

 しまった、チュートリアルこなしてないから移動できねぇ。

「いや、この辺に警告文が出てて移動できなくて――あっ?」

 通じるかわからないが指差しして伝えようとしたところ、マップが出てきた。

 丁度、家という文字を触るかどうかぐらいで。

『そうそう、そうやってタッチ操作するんですよ』

「なにその次世代機能!」

 思わず大声を出すと、杖の人が一歩後ろへ。多分、チュートリアル妖精の声は俺にしか聞こえてないんだよね。ごめんね不思議ちゃんに見えちゃってで。したくてしてるわけじゃないんだけどね、革新的で脊髄反射してしまってね……。

「とりあえずマップが開いたってことは、もう今の位置でとりあえず設定して」

 家はマップの中心点を選択。タッチ便利だな狙ったところを選択しやすい。

 マップ中央をタッチすると、設定された事が視界端に表示された。

 倉庫も続けて選択出来るが、これはマップにある村アイコンの外側にしておきたい。

 家はホームポイント、セーブポイントみたいな復活地点の誤訳だろう。というか、そうだった。別に家が建ったりはしなかった。

 でも、物を保管する倉庫は物理的に建築されるかもしれない。そうだとしたらこんな村どまん中はやばかろう。

 で、その為にはもう少しマップを移動させて周りを見たいんだが、どうやりゃいいんだ。

 手でガッとマップに触ってみれば、触った感触はないがマップは動く。ただ、拡大縮小しかしないけど。拡大状態での移動はどうやるんだ。縮小状態で選択すると、変な所を指差ししそうでイヤなんだが。

『移動は一本指で』

「選択しそう」

 クソUIか?

『その辺は優秀なので、選択なのか移動するためのタッチなのかは賢い精霊ちゃんが判断してくれますよ』

 未来感あふれるな。空中に映像だしたり触れたり、初めてのゲーム体験だ。

「んじゃ、倉庫は村のアイコンより外側に。ほいタッチ」

 建設します。と出た。『10秒(初回の倉庫建築に限り時間短縮)』と視界端に表示される。

 初回ボーナス様々だな。今後になにか作ることがあるんだろうけど、どれぐらい時間がかかるんだろうか。とか考えてるうちに、完成。さてさて、

「移動は……よしよし、警告消えた。移動出来るってことかな?」

 試しに歩いてみると、おぉ、移動してる移動してる。

「おっけー、移動できるようになったぜ」

「――本当に?」

 やめてその疑いの目。まぁ、いきなり足踏みして移動しなくなり、いない誰かに話しかけたり、空中で指をフラフラ動かしてる人がいたら気味悪いもんな。俺もそ~思う。

 この後の信頼関係構築に、今回の出来事が影を落としそうだな。


 ■8


「そのままドアから入ればいい」

「あれ、お役御免やくごめんなの? というか、中には誰が?」

 もっとも、返答はなく杖で押されるだけ。分かったよ、入ればいいんだろう入れば。

 取り敢えず近づいてみる。数段の木造階段を上がると、

『丸太を14個獲得しました』

『ログハウスの設計図を獲得しました』

 そうきたか。

 家も分解されて材料だけ獲得なのかと思っていたが、それプラスで設計図とな。材料があれば、とりあえずこの家と同じ物は作れるのだろう。

 まぁ、作るのには相応の時間がかかるんだろうけど。

 さてドアは丸太ではなく木の板。取っ手とかがないので、とりあえず押せばいいか。

「お邪魔します……」

 入ると、何故か薄暗い。外はしっかり晴れていて、めちゃくちゃ明るい環境に慣れた目がより闇を際立たせる。

 というか、明かりがない。この世界の文明度合いはいかほどか。ロウソクとかも無いの?

 ぼんやりと見える室内に、さらに一歩踏み出すと、

『剣を1個獲得しました』

『鎧を1個獲得しました』

 えぇ……何か居るぅ。

 剣と鎧って、剣士か何かがいるぅ。

 他にも麻布とか杖とか水晶とか色々手に入ったが、この2点のが異彩を放っている。

 嫌だなぁ、怖いなぁと思いながらもう一歩。

『槍を1個獲得しました』

『鎧を3個獲得しました』

『盾を1個獲得しました』

『剣を2個獲得しました』

 俺は何か狙われるような事したっけ!?

 どう考えても完全武装が数名居る。声も物音もしないし、気配なんて察知できない。

 なんなんだ、ここまで拉致されるように連れてこられ、その上で完全武装複数名って、どういうイベントなの? 負けイベントとかやめてくれ、もうこの現状で十分負けてるわい。

 どうしよう、どうしたもんだ。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る