9話「エンターテイメントはトラブル歓迎」
SNSの発展は、メディアの進化と
アイドルは
テレビ業界に入ってすぐにわかったのは、自分
世の中にある
自分はつまらない人間だと――
この業界を志望したのも、
まあしょうもない理由で、ADの役職に
夜の生放送に向けて準備が進むスタジオのすみっこで、固いパイプ
SNSで放送番組名をエゴサして、どうでもいい人間達の意見から自分にとって好都合な言葉だけを拾う。
ホットワードにも上がらない生放送番組に時代
「こーら、斉藤。
番組プロデューサーの
顔面
くっちゃくっちゃとスルメを
三十代独身キャリアウーマンみたいな容姿で、きつめの美人。けれど芸能人と比べられたら絶対勝てないタイプ。
「番組広報アカウントが注目浴びてるかチェック中ですよー」
「そんなのは広報班に任せとけ。あと出演者が勝手に拡散するだろう」
素人も
しかしテレビ業界にとっては
公式の広報よりも、素人発言が上回る。業界が一般人に頭が上がらない。
動画サイトで大人気な歌い手や、インディーズで
大勢の視点がふわふわと水面を
「ネット発のシンガー
「今時ストリートミュージシャンなんて
テレビのカメラ
年月を経た背景も、メイクの
そうするとスタジオから外へ買い出しに向かえば、全てが
字幕もない。カットも出ない。挙げ句の果てに
演出のないリアルに自分はうんざりしていた。
だから現実の中で
「流行っているかが重要ではない。あらゆる場所から拾い上げ、点数をつける。この番組はそういうものだ」
誰が一番でも構わない。まあスポンサーの意向は少しだけ
誰にでもチャンスはありますよ、という
デビューなどは音楽プロダクションの仕事で、次の機会に
テレビ業界はいわば
「今回の
「げっ、あの
グラサンつけた白スーツ。
有名一流企業BlueBloodの子会社である、音楽プロダクションのブルーキングで名を
「五十代とは思えないあのギラギラマン……なんで事前に点数を?」
「簡単なことだ。スカウトするかどうか、見定めるためだ」
ブルーキングという音楽プロダクションは、いわゆる「売れる」者だけを拾う。
その保証は手厚く、少々がめついところはあるが、仕事に困ることは一生ないほどらしい。
代わりに
「少年
下積みという言葉の重さを、この業界は一番強く実感する。
だから演出する。普段の努力姿をカメラに映し、それを事前に流して印象付ける。
「特にネットのおかげで、事前調査の必要もない。
近い日付の動画やネット記事を
竹本が台本と
一度は聞いたことがある名前でも、点数は
「……え?」
その中で一人だけが
もちろん芸名だろうが、簡単なので覚えやすい。先ほども話題に出したからか、
歌っているのは外国の
名前も聞いたことがないバンドなんかよりは、確実に上。けれど点数差は三十点以上離れている。
「私、実は白雪の
「竹本さん、ミーハーなんすね」
「うるせぇ。童顔のハーフで可愛いだろがい!」
知りたくもなかった上司の好みは横に置き、動画の画面を広げて容姿を
確かに悪くない。むしろ
首筋に
「やっぱり人間老いるもんなんですかね。天下の鮫島マンも運が良かっただけか」
「他人を安いヒーローぽい名前で呼ぶんじゃねぇ」
背後からの声に
「い、いやー……あのー……」
「うちのアホがすいません!」
言い訳を考えている自分とは違い、竹本は綺麗な九十度お
それに
「白雪の点数は
「……理由は?」
頭を上げた竹本が、眼鏡の位置を直しながら
番組内で点数を低くつければ、カメラを回してその理由を放映しなくてはいけない。
もしも視聴者がクレームつけやすい内容の場合、事前打ち合わせでマイルドな言葉に方向修正をする必要がある。
「こいつは自分のためにしか歌ってねぇ」
床に落ちた携帯電話を拾い上げ、今も流れている動画を指さす鮫島。
グラサンのせいでわかりにくいが、
「才能はある。だから話題に上る。でもそれだけだ。誰のためにも歌わない、才能全てを自らで消費する
「それって悪いことなんですか?」
おそるおそる頭を上げて、自分も尋ねてみる。外見めっちゃ怖いけど、話は通じる。
野生の熊だと思っていたら、文化人並みに
「歌は『誰か』に聞かせるもんだろ」
そう言われると、まあ長年スカウトしているし説得力はあるのかな。
売れる音楽というのは、大勢の耳に
相乗効果もあるだろうが、音楽は一人だけのものではない。孤独でも、一人ぼっちはありえない。
「こういうのは早めに
そう言って、鮫島は打ち合わせに来たスタッフと一緒に去っていく。
――ミラー、ミラー。私の
こっそり音声を録音し、その音を
出てきた歌詞に思わず
ヒットしたのはインディーズのまま消えた歌手。よく検索できたなと思うくらい昔で、活動年数も三年ほど。
その歌手の名前は
一曲だけを歌い続けて、人知れずそっと消えたシンガー。ありきたりな話だ。
だから話題
「都内を走る化け物?」
ドローン
ビルの谷間を
「
商標登録の確認が大変そうな人物が、派手なバイクで二人乗り。
しかも後部座席に乗っているのが、ドレス姿の少女らしい。夕方のネットニュースは大盛り上がりだ。
そしてニュース写真の背景から、ようやく外が夕暮れなのだとわかる。
テレビスタジオは基本的に窓がない。
つまり夜の生放送まで時間が
そんな最中、つまらない自分でも
「出演予定の白雪さんが
テレビ業界を辞められない理由その二。
長々とした裏話とかは、
今の目的は
というわけで携帯電話で呼び出したのは、バイトを
なお
バイクで俺がいた場所へやってきた大和ヤマトは、予備のヘルメットを渡してくれた。
座席の後ろは荷物を入れるスペースがあり、その
「俺は地図の見方とかわかんねぇけど、ヤマトは?」
「バイトで身につけたっす。見せてください」
役に立つ筋肉アルバイター
ヘルメットの顔面保護グラスを上げ、ICカード並みに小さい画面を見て
「
「おう。安全運転で
「安心してください。
……それって若葉マーク外れてないのでは?
まあ細かいことを気にしても仕方ない。バイクのルールとかよくわからないし。
俺を後ろに乗せたバイクは、少しずつスピードを上げていく。車に乗っているよりも不安定で、速さを実感する。
大和ヤマトの
男も
しかしヘルメットって重いし、視界も悪い。よくこれで運転できるなと感心するぞ。
「多々良の
「慈愛の魔人と謎の生物追跡中」
「…………
簡潔に伝えたつもりだが、混乱させてしまったらしい。
しかしあの情報量の
「たまに止まって位置確認してもいいっすか?」
「むしろ頼む。俺は東京の道路はよくわからねぇ」
前に住んでた場所の、山まで続く道路の一本道が
なんで東京の道路って高低差が激しかったり、円状にぐるっと回ったりするんだろうな。
地図を見ているだけで頭が痛くなりそうだ。将来車を買う機会があったら、絶対ナビ付きにする。
しばらく走った後、道路
大和ヤマトはメーターの確認を行い、
「燃料が心
「あー、それは大問題だな」
ニュースには聞いていたが、普段から電車とか使ってると忘れがちなんだよな。
車とバイクでは馬力も、
「物流も値上げするし、外食も高値になるし……いいことないっす」
腹減ってんだろうな。話題が食べ物の方へシフトして来てるぞ。
地図上では相変わらず赤い点が高速で動いており、江東区から少し外れてきたらしい。
「なあ、ヤマト」
「なんすか?」
「お前の固有魔法、どれくらいの重さを持ち上げられる?」
まあ俺と大和ヤマトの固有魔法が揃えば、どうにかなる問題だ。
きらきらと、
UMA出現だの、都市伝説の空に映る
その鱗が一台の小型トラックを追いかける。半分くらいは自家用車で、後ろ部分が荷物を入れるような構造だ。
赤い海の中で、
ただの
白い小型トラックは
それ以前の別れ道は鱗の群れが全て邪魔をした。
突然人型の鱗の影が現れれば、
あと少しで大きめの道路へ
前輪
車体の後ろにバイクを
「よし! お
「ういっす、どうもっす。それで雑賀の兄貴」
「なんだ?」
「この先はどうするっす?」
……………………ノープランだった。
とりあえず車を止めてしまえば、なんとかなると思ってた。
しかしここで怖気ついては意味がない。とにかく
「まずは
そう言って指さした矢先、ガチャリと
頭で理解する前に、
まあ割れてないけど。俺の固有魔法【
だから
だが
大和ヤマトもバイクを引っ張って、反対側の壁に隠れた。まあ引火したら
二人して壁を背中にし、顔だけ曲がり角から出す。茨に気づいた運転手が小型の
両開きの扉
音だけでも心臓がありえない速度で動く。
「俺の茨は
「銃相手に対策できるか!」
冷静に告げてくる大和ヤマトには悪いが、近代武器はさすがに……。
どうしようかと
どごっ、と映画の中でしか聞けないような
ああ、なるほど。そういうことかと思った。
ベースは
ぎらぎら光る金色の瞳に、口から吐き出る
背は曲がっているが、二足歩行らしき体格。
「お前らが俺の家を
ボイスチェンジャーでも使っているのかと思うほど、不気味な重低音の声。
けれど聞き覚えがある。本当はもっと気さくで、人当たりのいい
青路シュウの固有魔法【
バシリス・クライム 文丸くじら @kujiramaru000
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