9話「エンターテイメントはトラブル歓迎」

 SNSの発展は、メディアの進化とすい退たいを招いた。

 だれでも、いつでも、手の中にカメラがある。配信さえ指先一つ。

 アイドルはたかはなではなく画面向こうの身近ないっぱんじん。劇的なニュースさえ素人しろうとの視線から生まれる。

 

 テレビ業界に入ってすぐにわかったのは、自分たちは「演出家」ということだった。

 うそも真実もかき混ぜて、だますぎりぎりをめる。ぐうぜんさえも必然で、運命だって作り上げるもの。

 世の中にあるせきということさえ信じられないほど、模造品だらけなのだ。

 

 自分はつまらない人間だと――さいとうマサルは自覚していた。

 この業界を志望したのも、ばくぼんもうけたいとか、気に食わないおえらいさんをドッキリでひどい目に合わせたいとか。

 まあしょうもない理由で、ADの役職にいた。人手不足と、しっ切り要員だというのも、み済みだ。

 

 夜の生放送に向けて準備が進むスタジオのすみっこで、固いパイプしんだいに横たわる。

 SNSで放送番組名をエゴサして、どうでもいい人間達の意見から自分にとって好都合な言葉だけを拾う。

 ホットワードにも上がらない生放送番組に時代おくれを感じ、放送事故くらい起きないかといきく。

 

「こーら、斉藤。みん取らねぇなら働け」

 

 番組プロデューサーの竹本たけもとアヤカの手刀が、あおけで見ていたけいたい電話の底面を打つ。

 顔面ちょくげきした画面にはあとがつき、仕方がないのでうすよごれたシャツのすそく。画面がより汚れた気がする。

 

 くっちゃくっちゃとスルメをむ竹本は、きんえん生活三ヶ月が相当ひびいているらしい。

 れいげたくろかみも、少しきつめな印象をあたえる眼鏡も、着こなしたウーマンスーツさえ、仕事中にスルメを食べているという事実で台無しだ。

 三十代独身キャリアウーマンみたいな容姿で、きつめの美人。けれど芸能人と比べられたら絶対勝てないタイプ。

 

「番組広報アカウントが注目浴びてるかチェック中ですよー」

「そんなのは広報班に任せとけ。あと出演者が勝手に拡散するだろう」

 

 素人もみ乱入もだいかんげいな人材はっくつ番組。まあ聞こえはいい。シンデレラストーリーをもくげきしたいとか、いつの時代でもある話だ。

 しかしテレビ業界にとってはちがう。素人を使うというのは、SNSの力が増えることで意味がガラリと変わった。

 おうえんよろしく、という言葉だけで一万人が拡散に協力する。別に興味があるわけでもなく、本当に応援しているのでもなく、ただ「注目されているから」だ。

 

 公式の広報よりも、素人発言が上回る。業界が一般人に頭が上がらない。

 動画サイトで大人気な歌い手や、インディーズでいぶっているバンド、中には悪質なじっきょうちゅうけい者さえも。

 大勢の視点がふわふわと水面をただよみたいで、日光が当たる場所でぞうしょくする。

 

「ネット発のシンガーさいに、人気きゅうじょうしょう中のバンドDBOP、そんでストリート出身の白雪……まあつぶそろった」

「今時ストリートミュージシャンなんてるんですか?」

 

 テレビのカメラしで人物を眺めていると、現実のきたなさがりになる。

 年月を経た背景も、メイクのあまさも、かつぜつしも、スタジオで全て整えられるのを見てきた。

 そうするとスタジオから外へ買い出しに向かえば、全てがいろせているような気がする。

 

 字幕もない。カットも出ない。挙げ句の果てにみにくい顔面がそろみ。

 演出のないリアルに自分はうんざりしていた。こんな会社ブラック企業いつでもめてやると思っているのに、はなれられない理由の一つ。

 だから現実の中でどくに歌うストリートミュージシャンというものに、りょくを感じられなかった。

 

「流行っているかが重要ではない。あらゆる場所から拾い上げ、点数をつける。この番組はそういうものだ」

 

 誰が一番でも構わない。まあスポンサーの意向は少しだけるが。

 誰にでもチャンスはありますよ、といううたもんえさに集めたいけにえ達が、勝手に争うのを放送するだけ。

 デビューなどは音楽プロダクションの仕事で、次の機会につなげられるかどうかは本人達だいだ。

 

 テレビ業界はいわばたい装置だ。それを最大限活用できる者だけが、有名芸能人へとがる。

 

「今回のしんいんではさめじまが、すでに出演予定者全員にあらかじめ点数をつけてるくらいだ」

「げっ、あのこわい人……」

 

 グラサンつけた白スーツ。ほおの十字傷を話題に出してはいけないあの人。

 有名一流企業BlueBloodの子会社である、音楽プロダクションのブルーキングで名をせるびんわんスカウトマン。

 からくちな話術と外見のインパクトから、半ば芸能人あつかい。自分の中では「ドッキリけたら楽しそうだけど怖いからやりたくない」相手である。

 

「五十代とは思えないあのギラギラマン……なんで事前に点数を?」

「簡単なことだ。スカウトするかどうか、見定めるためだ」

 

 ブルーキングという音楽プロダクションは、いわゆる「売れる」者だけを拾う。

 その保証は手厚く、少々がめついところはあるが、仕事に困ることは一生ないほどらしい。

 代わりにとうりゅうもんは高く、生半可な人物は目にもとどまらない。

 

「少年まんじゃねぇんだ。たんでメキメキ能力びるやつはいない」

 

 下積みという言葉の重さを、この業界は一番強く実感する。

 だんよりもくできた程度は、画面越しのちょうしゃは理解しない。

 だから演出する。普段の努力姿をカメラに映し、それを事前に流して印象付ける。

 

「特にネットのおかげで、事前調査の必要もない。けんさくすればあっさり見れる」

 

 近い日付の動画やネット記事をあされば、あっという間に実力をはかれる。

 竹本が台本といっしょわたしてきた資料には、参加予定者一覧に鮫島がメモを残していた。

 一度は聞いたことがある名前でも、点数はしんらつ。百点満点中、六十点をえればいい方だ。

 

「……え?」

 

 その中で一人だけがれいてんをつけられていた。名前は――白雪。

 もちろん芸名だろうが、簡単なので覚えやすい。先ほども話題に出したからか、みょうに印象に残っている。

 ためしに携帯電話でネット検索。有志のとくめい希望による動画を見つけ、ちょう

 

 歌っているのは外国のどうようで、三本指奏法など気になる点はいくつもあったが……才能だけならば、とっしゅつしている。

 名前も聞いたことがないバンドなんかよりは、確実に上。けれど点数差は三十点以上離れている。

 

「私、実は白雪のかくれファンでな。今回楽しみにしていたんだが……鮫島がその点数をつけては、今後の評価もあやういな」

「竹本さん、ミーハーなんすね」

「うるせぇ。童顔のハーフで可愛いだろがい!」

 

 知りたくもなかった上司の好みは横に置き、動画の画面を広げて容姿をかくにん

 確かに悪くない。むしろみがけば光るいつざい。今までテレビで取り上げられなかった方が不思議だ。

 首筋にりん型の赤いあざ。固有ほう所有者は確かに視聴者ウケが悪い時はあるが、それを差し引いてもスカウト対象だ。

 

「やっぱり人間老いるもんなんですかね。天下の鮫島マンも運が良かっただけか」

「他人を安いヒーローぽい名前で呼ぶんじゃねぇ」

 

 のうこう煙草たばこかおり。斉藤が普段愛用するコンビニ煙草の何倍も高級品。

 背後からの声におどろいて携帯電話をゆかに落とし、急いでく。間近で見るには心臓に悪い人相。

 あつ感とにらみだけでくまたおせそうな男、鮫島イナバが立っていた。

 

「い、いやー……あのー……」

「うちのアホがすいません!」

 

 言い訳を考えている自分とは違い、竹本は綺麗な九十度お

 それにならい頭を下げる。内心あせはだ表面はあぶらあせだ。スタジオてんじょうの照明が背中を照らし、熱く感じる。

 

「白雪の点数はとうだ。そいつは売れねぇ」

「……理由は?」

 

 頭を上げた竹本が、眼鏡の位置を直しながらたずねる。

 番組内で点数を低くつければ、カメラを回してその理由を放映しなくてはいけない。

 もしも視聴者がクレームつけやすい内容の場合、事前打ち合わせでマイルドな言葉に方向修正をする必要がある。

 

「こいつは自分のためにしか歌ってねぇ」

 

 床に落ちた携帯電話を拾い上げ、今も流れている動画を指さす鮫島。

 グラサンのせいでわかりにくいが、しんけんな表情をしている……ような気が。

 

「才能はある。だから話題に上る。でもそれだけだ。誰のためにも歌わない、才能全てを自らで消費するごうよくろうだ」

「それって悪いことなんですか?」

 

 おそるおそる頭を上げて、自分も尋ねてみる。外見めっちゃ怖いけど、話は通じる。

 野生の熊だと思っていたら、文化人並みにりゅうちょうだったみたいな、得体の知れない不気味さはあるけど。

 

「歌は『誰か』に聞かせるもんだろ」

 

 そう言われると、まあ長年スカウトしているし説得力はあるのかな。

 売れる音楽というのは、大勢の耳にれる。それを察知したテレビ業界が流しまくって、さらにヒット。

 相乗効果もあるだろうが、音楽は一人だけのものではない。孤独でも、一人ぼっちはありえない。

 

「こういうのは早めにつぶしてやるのがなんだよ」

 

 そう言って、鮫島は打ち合わせに来たスタッフと一緒に去っていく。

 いそがしいスタジオの中で、低い鼻歌が聞こえた。予想外にも、白スーツを着た熊みたいな男が歌っている。

 

 ――ミラー、ミラー。私のかがみに映る貴方あなた、愛してると笑ってね。

 

 こっそり音声を録音し、その音をたよりにネット検索。

 出てきた歌詞に思わずし笑い。辛口敏腕ヤクザ風男には、似合わない。

 ヒットしたのはインディーズのまま消えた歌手。よく検索できたなと思うくらい昔で、活動年数も三年ほど。

 

 その歌手の名前はかがみツグミ。黒髪が綺麗な女性だった。

 一曲だけを歌い続けて、人知れずそっと消えたシンガー。ありきたりな話だ。

 

 だから話題ふっとうのネットニュースで、あっという間に脳内から情報が消えた。

 

「都内を走る化け物?」

 

 ドローンさつえいによる、せんめいな黒いかげ

 ビルの谷間をえて、きょうてきな速度で走っている、

 

ついせきするのが白バイではなく、変態で仮面なライダー?」

 

 商標登録の確認が大変そうな人物が、派手なバイクで二人乗り。

 しかも後部座席に乗っているのが、ドレス姿の少女らしい。夕方のネットニュースは大盛り上がりだ。

 そしてニュース写真の背景から、ようやく外が夕暮れなのだとわかる。

 

 テレビスタジオは基本的に窓がない。ろうも似たようなじょうきょうで、日夜スタッフが動き回っているからか、時間感覚もろんになっていく。

 つまり夜の生放送まで時間がせまっている。ネットで大人気な歌い手は素人同然で、何時間も早くスタジオ入りだ。

 そんな最中、つまらない自分でもこうようするようなニュースがスタジオをさわがせた。

 

「出演予定の白雪さんがゆく不明だそうです! スケ編のへんこうと確認おなしゃーす!」

 

 テレビ業界を辞められない理由その二。

 とつぜんのハプニングに興奮する性格がわざわいしていると、斉藤は自覚済みである。

 

 

 

 長々とした裏話とかは、おれ――雑賀さいがサイタには関係ない。

 今の目的はかがみテオを追うこと。そのためには足、つまり移動手段が必要だ。

 というわけで携帯電話で呼び出したのは、バイトをした大和だいわヤマト。

 

 なお多々良たたらララはあいじんナルキズムと一緒に、なぞの生物を追跡中。ネットニュースですっぱかれたらしいが、今は無視しよう。

 天鳥あまとりヤクモはじゅくがあるため、受験生のじゃをしないという建前で呼び出していない。まあくるるクルリの判断だけど。

 

 バイクで俺がいた場所へやってきた大和ヤマトは、予備のヘルメットを渡してくれた。

 座席の後ろは荷物を入れるスペースがあり、そのふたが座席代わりになる仕様。

 

「俺は地図の見方とかわかんねぇけど、ヤマトは?」

「バイトで身につけたっす。見せてください」

 

 役に立つ筋肉アルバイターこうはい。いつも腹ペコなのも、技能でカバーしていく。

 ヘルメットの顔面保護グラスを上げ、ICカード並みに小さい画面を見てうなずいた。

 

こうとうあたりっすね。じゃあ雑賀の兄貴、乗ってください」

「おう。安全運転でたのむな」

「安心してください。めんきょ習得三ヶ月っす」

 

 ……それって若葉マーク外れてないのでは?

 まあ細かいことを気にしても仕方ない。バイクのルールとかよくわからないし。

 俺を後ろに乗せたバイクは、少しずつスピードを上げていく。車に乗っているよりも不安定で、速さを実感する。

 

 大和ヤマトのこしにしがみつくが、ライダージャケット越しにもわかる背筋。そして腹に回した手の平に伝わる布地越しの腹筋。

 男もあこがれる肉体だ。運動部でもないのに、やるな。俺も腹筋を六つに割りたいが、うっすらと筋がわかる程度だ。

 しかしヘルメットって重いし、視界も悪い。よくこれで運転できるなと感心するぞ。

 

「多々良のあねは?」

「慈愛の魔人と謎の生物追跡中」

「…………りょうかいっす」

 

 簡潔に伝えたつもりだが、混乱させてしまったらしい。

 しかしあの情報量のかたまりをわかりやすく説明するなど、ミステリー小説のトリックを解説するよりも難解だろう。

 

「たまに止まって位置確認してもいいっすか?」

「むしろ頼む。俺は東京の道路はよくわからねぇ」

 

 前に住んでた場所の、山まで続く道路の一本道がなつかしい。

 なんで東京の道路って高低差が激しかったり、円状にぐるっと回ったりするんだろうな。

 地図を見ているだけで頭が痛くなりそうだ。将来車を買う機会があったら、絶対ナビ付きにする。

 

 しばらく走った後、道路わきにバイクを止めて地図確認。

 大和ヤマトはメーターの確認を行い、なんそうな息を吐いた。

 

「燃料が心もとないっす。原油価格こうとうえいきょうで、満タンまで入れてないんで」

「あー、それは大問題だな」

 

 ニュースには聞いていたが、普段から電車とか使ってると忘れがちなんだよな。

 車とバイクでは馬力も、とうさい燃料の数値も違う。追いかけっこであれば、どうしてもバイクが不利な点は大きい。

 

「物流も値上げするし、外食も高値になるし……いいことないっす」

 

 腹減ってんだろうな。話題が食べ物の方へシフトして来てるぞ。

 地図上では相変わらず赤い点が高速で動いており、江東区から少し外れてきたらしい。

 まわむのは可能だが、足止めするとなると――。

 

「なあ、ヤマト」

「なんすか?」

「お前の固有魔法、どれくらいの重さを持ち上げられる?」

 

 まあ俺と大和ヤマトの固有魔法が揃えば、どうにかなる問題だ。

 

 

 

 きらきらと、ゆうを反射する青いうろこが空を飛ぶ。

 UMA出現だの、都市伝説の空に映るぎょえいとか、わずかな注目を浴びる。

 その鱗が一台の小型トラックを追いかける。半分くらいは自家用車で、後ろ部分が荷物を入れるような構造だ。

 

 赤い海の中で、ちんぼつした都市を泳ぐ魚達みたいな綺麗な光景に見えていれば上出来。

 ただのうすわるい群れと感じ取るならば、まあ現代的。駅前のムクドリの群れとかやばいからな。

 

 白い小型トラックはげるように路地へとハンドルを切る。別れ道もない一本道で、りょうわきは小さなビルだ。

 それ以前の別れ道は鱗の群れが全て邪魔をした。さそうように、ゆらりと動いては時折うすく広がってかべになる。

 突然人型の鱗の影が現れれば、けるしかないだろう。なにせ事故はいやだ。だって「止まってしまう」からな。

 

 あと少しで大きめの道路へる寸前。車輪が勢いよく空回る。

 前輪どうだろうが、後輪だろうが関係ない。下からいばら二本がどうたいげ、車輪をコンクリートから離してしまえばいい。

 車体の後ろにバイクをめ、ヘルメットを外す。あせのせいで黒いたんぱつさえもぺたんこになるレベルだ。

 

「よし! おがらだ、ヤマト!」

「ういっす、どうもっす。それで雑賀の兄貴」

「なんだ?」

「この先はどうするっす?」

 

 ……………………ノープランだった。

 とりあえず車を止めてしまえば、なんとかなると思ってた。

 しかしここで怖気ついては意味がない。とにかくゆうかいされた鏡テオの救出最優先。

 

「まずはとびらを」

 

 そう言って指さした矢先、ガチャリといくにも聞こえた。

 こうしつな両開きの扉が動いて、じゅうこうが向けられる。ぶわり、と鱗が広がって壁みたいなたてになる。

 頭で理解する前に、ぼうぎょをしていた。じゅうだんを受け止めた青い鱗は、あっという間に散らばっていく。

 

 まあ割れてないけど。俺の固有魔法【小さな主人リトルマスター】っていうのは、鱗はくだけないしろものなんだが、接合力というか、結びつきが弱い。

 だからしょうげきがれてしまう。一回目は防げても、二回目はもどすのに時間がかかる。

 だがいっしゅんとはいえ、ゆうが生まれた。路地に入る手前の壁まで全速力で走る。

 

 大和ヤマトもバイクを引っ張って、反対側の壁に隠れた。まあ引火したらばくはつだもんな。

 二人して壁を背中にし、顔だけ曲がり角から出す。茨に気づいた運転手が小型のおのを片手に車下へ。後部車両から出てきた男達三人がじゅうを構えてこちらを睨んでいる。

 

 両開きの扉おくは暗くてよく見えなかったが、もう少しのぞもうとしたらかくしゃげき

 音だけでも心臓がありえない速度で動く。じゅうとうほうって大事だと、心底実感するわ。

 

「俺の茨はたいきゅうせいに自身あるっすが、道具使われたら時間の問題かと」

「銃相手に対策できるか!」

 

 冷静に告げてくる大和ヤマトには悪いが、近代武器はさすがに……。

 どうしようかとなやもうと思ったが、現実は俺に思考のすきを与えるつもりはないらしい。

 どごっ、と映画の中でしか聞けないようなしょうげきおん。そろりと視線を路地に向ければ、白い車体の屋根をかんぼつさせた――黒いけもの

 

 ああ、なるほど。そういうことかと思った。

 ベースはおおかみ。けれど突き出るきばはサーベルタイガーで、首回りのたてがみ。尻尾はようみたいな三本。

 ぎらぎら光る金色の瞳に、口から吐き出るなまぐさい息。歯の間を伝うよだれが、黒い体毛をらしている。

 背は曲がっているが、二足歩行らしき体格。おおかみおとこをよりしゅうあくにした姿。

 

「お前らが俺の家をらし、家族に手を出したのか?」

 

 ボイスチェンジャーでも使っているのかと思うほど、不気味な重低音の声。

 けれど聞き覚えがある。本当はもっと気さくで、人当たりのいいやわらかさだったのに。

 

 青路シュウの固有魔法【獣の心ビーストローズ】は、かれに一番似合わないものだった。

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バシリス・クライム 文丸くじら @kujiramaru000

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