8話「多方面トラブル」
ニアミスと言えばいいのか、ニアピンなのか。
そして
聞き耳を立てる俺――
カナメママは
青路シュウの家に
そのことで警察を呼んでほしいとか、
なにを急いでいるのか、あっという間に通話が
「サイタ、アタシ達はどうする?」
「そこで俺に
あの
「あー、ちょっと待て」
考えろ、俺。なにか大事なことが置き去りになっている。
ここに来た意味がなくなる前に、それを
事態が混迷している。きっとまたやばい目に
「藤さん!」
「は、はい!?」
警察への手配を準備してるダンディに、申し訳ないが声をかける。
俺が青路シュウに出会って数日。
そこへ
「シュウが本当に父親を
多分、本当の答えを知っているのは本人だけかもしれない。
だから藤さんに聞いても、それは確証には至らない。
けれど俺がほしい答えは、単純だ。
「
じゃあ、それで突き通そう。
俺が勝手にその答えを信じるだけだ。
この気持ちが裏切られる結果が待っていても構わない。
「教えてくれてありがとうございます! 俺達はテオを探しにいきます!」
「わかりました。ご武運を」
なんかもう焦っているからか、藤さんの
カナメママにもお
気づけば太陽が
「……今日の夕暮れ早くない?」
確かに。午後七時くらいに赤くなるような時期なのに。
今は午後四時だ。そんな日もあるだろうという感じで、周囲の人々は生活の方を優先している。
けれど変な事態に
「夕焼けこやけの赤とんぼ〜」
なんか遠くから高らかに
そして俺達の目の前で止まった。
黒く長い
というかノーヘルは交通法
「はーはっはっは! 久しぶりだな、少年少女よ!」
ミュージカル俳優の張り上げた声が、耳の
頭が
「ナルキー……だったけ?」
「その通り!
できれば今後の人生ずっと関わりたくない相手上位だったけどな。
俺は大和ヤマトの事件時に会ったきりなんだが……このインパクトのせいで忘れにくい相手だ。
「さて……いよいよ鍵が
少し
ナルキズムの視点からは、なにが見えているんだろうな。
「しかし裏で糸を引く相手が気に食わん。こちらの意向を無視している」
「……
多々良ララが目を細め、声を低くして問いかける。
新たな勢力追加とかはやめてくれよ。ややこしくなって混乱するから。
「知っているはずだ。見ようとしないだけでな」
こちらを
でもまあ心当たりがあったりする。なんか明らかに変なのが残っている。
「青い鳥はどこへ飛んでいったのだろうな?」
ハンドルに
もしもそんな色の鳥が飛んでいたら、
けれど目に
「今のって……」
「なあ、どこだと思う?」
俺達の
それは有名な童話だ。兄妹が様々な国を旅する、一種の
けれど俺はあまり好きじゃない。なんだか
「どこでもいいだろ」
別に適当に言ったわけじゃない。
「探しに行けばいいんだから」
そういう話だ。幸せの
どこかへ消えていなくなっても、もう一度見つけるだけだ。
「では青い鳥の幸せはどこだ?」
そんなもの、考えたことがない。
兄弟の手をすり
幸せの象徴というだけで、鳥自身にとっての幸せは
「同じことでしょ」
息を
「探してみないとわからない」
いつものレオタードドレスではなく、
舞踏会に
ナルキズムの
「アタシがあの黒い影を追いかける。サイタはテオを探して」
「ヘルメットー!!」
届かない気はしたが、一応注意しておく。
バイクの二人乗りは
さて、任されたものの……どうするか。
貸し自転車を探してもいいが、都会だと歩きの方が便利なんだよな。
ゲームとか
俺は身近な女子を
…………ろくなのいないな、まじで。なんか泣けてきた。
「はぁ」
なんだか美少女の気配。急いで
黒の
「ど、どちら様?」
実はちゃっかり覚えている。こんな美少女、忘れるはずがない。
大和ヤマトの事件が起きた夜、群衆でぶつかった女の子だ。服装も変わっていないしな。
それでも初対面を
「能なしめ」
俺の上向き気分が、
この声に覚えがある。忘れるはずがない。
けれど――まかり
「………………フェデルタ」
「ようやく理解したか」
「なにか用かよ?」
「助言しにきた」
いやだ! こいつを真ヒロインだなんて認めないからな!
でも対応に困っていた俺としては、なんだかんだでありがたい話だ。
今はわずかでもいいから情報がほしい。用心深く耳を
「
帽子のツバを
これで忠義の魔人フェデルタというのが、俺にとって最大の不幸だ。
そう。誘拐犯が錬金術師機関であることは、予想の
「結果、四つの
「は?」
水に絵の具をぶち込んだように、不安が一気に
確か鏡テオ達が
わけがわからない。なにがどうなっているのか、
「これで錬金術師機関は錠四つと鍵候補を一人手に入れたわけだ」
「っ!?」
鏡テオを誘拐したことで、錬金術師機関が
そうしたらカーディナルは動くか――俺は
「さあ、どうする?」
お前も俺に問いかけるのかよ。
夕暮れの下、真っ赤に染まったコンクリートを
目の前が真っ暗になりそうなほど混乱しているのに、赤い
「……」
背中が痛い。じりじりと夕日に焼かれて、燃えそうなくらいだ。
頭からの
「探しにいく」
真っ向からフェデルタの瞳を
「どれを?」
「全部」
きっと鏡テオが考えていたのは、こういうことなんだろう。
全部手に入れようとして、どこかで
でも俺は――あいつの
「テオも、シュウも――全部探して見つけてやるさ」
「……はぁ」
帽子で顔を隠し、溜め息を
けれど口元は少しだけ
「ならば、もう一つだけ」
もったいつけやがるな、こいつ。
「
夏の風は
ちょっとした
「まずはテオだな」
錬金術師機関だ、と犯人の正体がわかっているからな。
この情報をまずは枢クルリに
『……』
電話口での長い無言はつらいぞ。
しかしここで短気を発動しても無意味だ。なにかしらの声が聞こえるまで待つ。
『土中の
全くわけわからん。
蝉なんて周囲でうるさいくらいに鳴いているが、それが関係しているのか。
『とりあえずヤマトを呼んで、足を確保して』
「だな。ヤクモはどうする?」
『今は放置』
冷たいのか、むしろ温情なのか。
受験生である天鳥ヤクモに無理はさせられないからな。
『俺も外に出て、テオを追う。位置情報はテオの護衛がドローン使うって』
猫耳野郎が
言ったそばから、赤い空を横断してきた飛行物体。
それは俺の目前で空中静止し、音声を流してきた。
『
真剣な
ポイントカード並みに小さいが、画面の
衛星からの映像みたいな、上空から東京を
そして常に画面の中央には
『樫が追っていますが、
「こっちの移動手段はバイクになりそうなんだけど……」
『ええ。しかしお二人の固有
ドローンに話しかけているのも変な図だが、仕方ない。
それになんとなく枢クルリの作戦もわかった。
俺は
「
『店長に早抜け許可を貰うっす』
話が早くて助かる。
駅前を合流地点とし、真っ赤に染まった道を
遠くから
長い夜の始まりを覚え、背中をなぞる不安を無視する。
まずは鏡テオ救出だ。
俺も映画のヒーローみたいに、たまには美女を助ける側になってみたいんだけどなぁ。
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