7話「誤解にライアーは笑う」
校門から出れば、
いやもう、どよめきざわめき、高校生
横ではイケメン女子高生な
人前で乗るには勇気がいる高級車。外車だということがますます注目の的だ。
特にそういうの大好きな
中性的な美形。鏡テオ護衛七人衆(仮)な
赤茶の
緑色の
黒スーツだけど、スカートではなく長ズボン。オーダーメイドなのか、体のラインにぴったりしていて細身が
ますます性別がわからない。俺の周囲はそんなのばっかりか。
「お待ちしておりました。雑賀様、多々良様」
顔を上げた樫さんが
いや、うん。俺も
前髪がさらりと動いて、少し夏風に
「
そして自動で開く
ほーら、ひそひそと
心を無にした多々良ララが
静かに発車。遠ざかっていく群衆。
そして俺達は二人
「
「……同感」
俺の
もう
「
「ヤマトはバイト。ヤクモは
どちらも生活と人生に関わるからな。
特にヤクモは受験生だ。夏休み前なのだから、そろそろ
来年は
「では発車します」
昼過ぎでも太陽は元気なまま。夜はまだ遠く見えるけど。どうなんだろうな。
なーんか
着いたのは昼間だとカフェテリア風のお店。
ただ扉にはクローズドの看板がかけられており、店前を
あと和服美女――なんだが、五十代半ばの老女が立ち話をしている。
「おや、お客さんかい?」
姿勢がぴしりと伸びた姿は、銀座のママみたいなイメージだ。
黒壇を思わせる髪に、
「そうです。初めましてのお
オールバックの
少し垂れ目な
まあ
「
「どうも。多々良ララと言います」
ぺこり、と
こういう時はなんだか育ちの良さを感じるよな。いいと思うぞ。
「雑賀様は昨日ぶりですね。まあ大体の事情は電話で聞いたのですが」
少しずつ
すると老女が
「客を店前で待たせるんじゃないよ、
「ああ、失礼。そうでしたね」
藤さんは看板そのままに、店の扉を開けた。
人がいない店内は不気味なほど静かで、冷房が効いていた。
「私も参加するよ。あの青い血からの依頼だからね」
「それってまさか……」
「
鼻を鳴らしながら
あの人も手を回してやがったか。事態をややこしくしないでくれよ。
招かれて入った店内は、
来客用のソファに
俺と多々良ララの
「私は東城カナメ。まあ客からはママって呼ばれてるよ」
「はぁ……」
カナメママは
未成年への
「藤の坊やが店を出すように補助したことがあってね。それを利用されてる最中さ」
「あの大家さんとはどんな関係で?」
思わず気になったことを、そのまんま口に出してしまった。
いやだってこんな美老女と、大家さん――
「育てられた恩があるんだよ。言っとくけど、あいつはジジイだよ」
「え?」
「私より年上さね。困ったジジイさ。いつまでも若者ぶって……」
小さな
だって大家さん、どう見ても二十代のヤンキーにいちゃんな
やっぱり血が青い人外なのだろうか。深く
「まあいい。私も疑問があったからね」
「どんな?」
「
別に固執してるわけじゃねぇよ。
ただ、なんだろうな。明確な理由があるわけじゃない。
運命論なんて信じないし、
「……友達になりたいから」
それも本当に正しいかわからないけど、一番
だっていい奴だ。
それが悲しい顔をするのは、なんか嫌だった。
「くっ……くくっ……あーはっはっはっは!!」
なにがおかしかったのか、大笑いされてしまった。
扇子をぴしゃりと閉じて、それで
「いい返事だ! おい、藤の坊や。この子は信用していいよ」
「カナメさんのお
「当たり前だろう。
「政治界のお客さんをそう言うのはよくないと思いますよ」
目の前に差し出されたのはオレンジジュース。
きんきんに冷えた氷が、
「んー。でもあまり話すことないですね」
「は?」
「だって事故の資料見たのでしょう?
あの
いきなりの
「青路さんって、家の事情とか複雑なんですか?」
そうだった。
「いや、僕は父親の方と親友だったけど、
「でも母親が……」
「うん。そこから
一呼吸をつくように、オレンジジュースに口をつける藤さん。
その目はなんだか悲しそうだが、どうしようもないと
「シュウくんもミチルちゃんもいい子ですよ。二人に問題はないはずです」
「けれど……」
「イコマくん、心が弱かったのかも。
そう言ってから、眼鏡を外して
どうにも聞きにくいよな。もっとわかりやすいところから
「青路さんの固有
いい切り
「知ってますが……でもシュウくんは使わないと思いますよ」
「どうして?」
「彼は自らの固有魔法を
「僕でさえ一度も見たことありません」
「そんなに!? いやまあ、固有魔法も色々だけどよ……」
「確か【
「ララと少し似てる感じかもな」
多々良ララの固有魔法【
けれど
俺も詳しくは知らんし、調べようとも思わない。
「ミチルちゃんは通常者ですね」
「へー。あ、チヅルは?」
思い出して、問いかける。
なにせ二人に一人は当てはまる話だからな。まあ、二人とも通常者の可能性も多大にあるが。
「……
カナメママが発した言葉に、俺の方が疑問を
そして頭を
「私が調べた中に、そんな名前はなかったよ」
「はぁ!? でも戸籍にミチルはいないって……」
「ああ。あれは変だったね」
多々良ララが藤さんを
「なにせ四人目が
戸籍ってのは短所長所はあれど、日本では
そこに
青路ミチルの言葉を思い出す。
でもなんで青路シュウは疑問を覚えていない様子なんだ。
俺の不安を知らせるように、携帯電話の着信音が
「こんな時に……はい、雑賀ですが」
『サイタ、探求はそこで止めて』
タイミングいいな、猫耳野郎。
むしろ悪い。こちとら疑問しか
しかし
『テオが変だ』
……元からじゃねぇの、それ。
個性的と言ってやった方がマイルドじゃないか。
『ありえない高速移動してる』
「なにが?」
『テオの発信機が』
そういえば迷子防止だかで着けられてるんだったか。
まあ本人同意なので、あまり
「つまり?」
『
とんでもない答えが返ってきやがった。
家に帰れば
古ぼけたアパートとはいえ、
しかし
部屋で暴れたような痕跡と、
「チヅル!?」
気絶していたらしく、うっすらと
俺は警察と救急車を呼ぼうと思い、携帯電話に手を伸ばした。
「なぁ……ミチルは?」
チヅルの問いに、俺の背筋が
定期テストが返ってくる夏休み前。中学生は昼に帰宅予定。
テオがいつまでも帰ってこないから、昼過ぎに諦めたのは
「変な男達が入ってきて……うっ!」
「チヅル!」
「
そう言ってチヅルはまたもや気を失ってしまった。
俺は急いで
「藤さん、すいません……」
『どうしたのかな?』
「ちょっと家に
事情を軽く話し、警察の手配や弟の看病をお願いする。
なんだか妙に
「それでは!」
『あ、シュウくん……』
電話を切り、俺は弟の顔を
顔色は今のところ変化はない。きっと受けたショックが大きかったのだろう。
俺は書き置きをちゃぶ台に残し、
もう夕暮れが街を
真っ赤に染まった
「ミチル、待っていろよ」
兄として、お前を救うためならば。
どんな
全身に
歯が
肥大化する足と手を見つめ、アパートの
それを足場に都会の空へと
人間ではありえない
目指すは
醜い獣が
青年としての姿を捨て、青路シュウは獣へと成り果てた。
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