第1話「かいがん」part2
「早かったねー、進めそうー?」
「ううん、今日はバスの中で寝るって!明日から行動開始ー!」
砂浜に倒れ伏せているアライグマさんの背中を軽く擦りながら問いかけたフェネックさんにサーバルちゃんは意気揚々と答えた。一日目は野宿になると予想していたけど、まさか砂浜になるとは思っていなかった。一先ずたっぷり持ってきたじゃぱりまんを夜ご飯にして、歩ける範囲で探して見ることに。
「そう言えば...ラッキーさんはバスの置いてある場所は分からないんですか?」
「ボクはきょーしゅーの担当だからごこくえりあの地形はインプットされていないよ。ごこくえりあのラッキービーストから情報を得ないといけないね」
目の前にあった林に入っていったサーバルちゃんを見届けて、かいがん沿いを歩きながら質問してみたけれど駄目らしい。「なら他のラッキーさんを見付けるのも良いですね」と返して再び周りを見渡す。右手には林、左手には今さっき船で通った海。よーく目を凝らせばきょーしゅーの島がほんの少し見えて心なしか安心した。
「ねぇー、ここら辺でウサギコウモリって言う子は見かけなかったー?」
「わぁっ!...あれ、マイルカさん?はい、もう飛んでいっちゃいましたけど」
「えっ、また?最近全然会わないなぁ...」
「また、ってことはよくあるんですか?」
水面から顔を出すマイルカさんはうんうん、と大きく頷いてからこんなことを言った。
ウサギコウモリさんとマイルカさんは昔にたまたまかいがんで出会って今では大の友達だと言うこと。
少し前に海で遊んでいると高波がやってきてウサギコウモリさんは溺れたと言うこと。
それ以来ウサギコウモリさんは水が怖くなり泳げなくなったと言うこと。
「遊びたくても泳げなくていつも申し訳無さそうなんだ、あたしも陸に上がって遊んだりするけどやっぱり心配で...」
「それでさっきも落ち込んでいたんですね...あの、僕も何かお手伝い出来ませんか?」
「本当に!?ならお願いしたいな!」
尾をぱしゃんと海に叩きつけると凄い速さで陸に上がっては僕の手をぎゅっと握る。「は、はい!皆にも相談してみます...」と小声で言ったのも聞き逃さず、奥の水面にも負けない位にきらきらした瞳を向けて「ありがとう!恩に切るよー!」と言って握った手を上下にぶんぶんと振った。
「宜しくねー!」
「はい!気を付けて下さいねー」
後ろを向きながら海に入っても未だに大きく手を振る様子に少し声をかけるもその心配はなかったのか、小さな岩もひょいひょい器用に避けて去っていった。その後は軽く辺りに何か無いか探したりラッキーさんが居ないかを探したりしてからバスの方へと戻った。
「うーん...バスは見つからなかったし、お腹も空いちゃった」
てへへとはにかむサーバルちゃんは誰よりも速くじゃぱりまんを手に取った。すっかり元の調子を取り戻したアライグマさんは「ボスの居るところなら任せるのだ!きょーしゅーでも毎日見ていたのだ!」と胸を張る。「それって、ボスに何をしでかさないか心配されてるんじゃないかなぁー」と自慢気なアライグマさんに呟いたフェネックさんも袋に入ったじゃぱりまんを手に取っていた。
「あの、そういえばさっきマイルカさんに会って聞いたんですけど、どうやら港で出会ったフレンズさんは少し前に海で溺れて泳げなくなったらしいんです。どうにかして助けてあげられませんかね...」
「それなら浅いところで練習すれば良いんじゃ無いかな?」
「泳ぐなら何か浮かぶものを持っていると良いらしいねー」
「板なんかは良く浮くのだ!何処かで見つけてきてそれで練習すればきっと泳げる様になるのだ!」
少し聞くだけで熱心に協力してくれる三人。色々なアイデアを組み合わせながら沈みゆく夕日を視界の端に捉えていた。
そして、その会話は夜がふけるまで続いた。
□
段々と明るくなっていく浜辺にあるバス。そこで僕らは起きた。
「ふわー...おはよ、皆...」
「まだ眠いのだ...」
「無理はしない方が良いよー...」
起きたばかりで皆眠たそうに目を擦る。すっかり夜行性だったのが昼行性になっているのは僕に合わせてくれているのかな、と少し申し訳なくなりながらも太陽が照らすかいがんで四人はじゃぱりまんを食べた。
「よーし!今日は泳げないフレンズの練習を手伝うのだー!」
「おー!」
あっという間に食べ終わると元気良く拳を振り上げて活動が始まる。とはいってもウサギコウモリさんがやってくるのはお昼頃なので、それまでは板等を探す時間。昨日の記憶には結構あった様な気もする木の板も何処へやら、中々見つからない。
「全然見つからないね......」
「うん......どうしようかな」
「おーい!二人とも!こんなのはどうー?」
意気消沈していた頃、少し遠くからマイルカさんの声が聞こえてその手にある手頃な大きさの板が見えた。
「良いですねー!それを使いましょうー!」
「やったー!これで後はあの子を待つだけだね!」
しっかりとした板はちゃんと水面に浮いて、手を乗せてもいい感じ。わくわくとした様子でウサギコウモリさんを待つフレンズたちはそれまで銘々に自由な行動をしていた。
暫くすると港に大きな耳を持つ影が見える。待ってました!と駆け出す皆にウサギコウモリさんは少し驚いた様子だった。
「あ!昨日の...ってどうしたんでしゅか?そんなに慌てて...」
「えへへ、もしかしたら君の苦手を克服出来るかもしれないんだ!」
「本当でしゅか!?克服したいでしゅ!」
僕らの熱気が移ったようにわっと嬉しそうに笑顔を浮かべたウサギコウモリさんはふわふわと飛びながら浜辺に向かった。
「とは言っても...だ、大丈夫でしゅか?何だか沈みそうでしゅ...」
「ちゃんと試したからへーきなのだ!」
「自分のタイミングで良いからねぇー」
拾った板を渡して自分たちは彼女が溺れないよう水に浸かって支える。少し不安そうに両手で板を握る姿に応援を送った。
「じゃ、じゃあ行くでしゅ...」
「頑張って...!」
恐る恐る足を水に入れていく。少し大きな波に悲鳴をあげて後退りながらも確実に歩みを進めていった。水の高さが足首までになり、膝になり、腰になり...
「わ、わ、お、溺れ、溺れるでしゅ!」
「大丈夫大丈夫!板を掴みながら顔を水面につけてみて!」
ふるふると肩を震わせながらもぎこちない動きで板を掴み、その顔を水面につける。けど少しすると水しぶきをあげて再び顔を出した。
「む、無理でしゅ...目を開けられないでしゅ...」
「頑張って、次は上手くいくよ!」
マイルカさんが肩に手を置く。ウサギコウモリさんは大きく深呼吸すると、もう一度と空気を思い切り吸い、ばしゃんと水面に顔をつけた。
「...あれ、マイルカさん?」
しー、と人差し指を口元に当ててから潜ったマイルカさんと、未だ水面に顔をつけているウサギコウモリさんは少しだけ長く顔を出しはしなかった。こぽこぼと泡が浮かび、二人同時に顔が上がる。
「あはははは!!!マルカちゃんそれはないでしゅ!」
「そっちこそ!!あれは反則だよ!」
その顔に恐怖はなく、楽しげに笑っている。ぱしゃぱしゃと水をかけ合い始めた二人の流れ玉が「もうすっかり大丈夫みたいだね」と呟いたサーバルちゃんの顔に当たった。したり顔で笑ったウサギコウモリさんに「もう!やったなー!」とサーバルちゃんが腕一杯に水を溜めてばしゃんと放った。それがフェネックさんとアライグマさんにかかって、より一層水しぶきは大きくなる。僕の体にもそれがかかった。
「よーし!誰が一番多く当てるか競争なのだー!!」
アライグマさんの合図と共に一際多くなった水でずぶ濡れになる。ぶるぶると水を弾くと満足げにハイタッチする二人の姿。「お返しです!」僕は手のひらに水をすくって二人に放つ。お役ごめんになった木の板が遠くへぷかぷか流れていき、遂に見えなくなった頃には全員がへとへとになってかいがんに寝転がっていた。
「ありがとうでしゅ、お陰でもうすっかり水が怖く無くなったでしゅ!」
「いいのいいの、私たちも楽しかった!またいつか遊ぼうね!」
満面の笑みでお礼を述べるウサギコウモリさんとマイルカさんは仲良く手を繋いでいて。「そう言えば、バス乗り場は分からないけどボスならあっちで見かけたよ!聞いてみると良いんじゃ無いかな?」とマイルカさんに聞き、僕らの目的地が決まった。
「じゃあねー!またいつかー!」
海へ帰るマイルカさんとぱたぱたと飛んで帰るウサギコウモリさんの後ろ姿が見えなくなるまで僕らは手を振っていた。二人のお陰で目的地も見つけ、いよいよ僕らの旅が始まって...
「でもその前に腹ごしらえだねー」
「もうお腹がぺっこぺこなのだ!」
「今度はじゃぱりまん食べ競争だね!負けないんだから!」
夕日も傾き、赤い光の中僕らは袋に包まれたじゃぱりまんを頬張って今日の余韻に浸るのでした。
けものフレンズ「IFすとーりー」 あおぞら @ohima1721
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