第1話「かいがん」part1

 地平線がどこまでも伸びる海の上。こんなにも綺麗なのに実は細菌が多いんだって言うのだから驚きだ。僕とサーバルちゃん、アライグマさん、フェネックさんは水の上でも移動できる様に改造されたジャパリバスでごこくえりあへと船を漕いでいた。


「わっせ、わっせ...あ!島が見えてきたのだー!」


 今はアライグマさんが船を漕ぐ番で、ごこくえりあを指差しながら言った。


「そろそろだね!これでかばんちゃんが住む場所も分かるかも!」


 後ろの座席からぴょいと跳ねて僕に抱き付いたサーバルちゃんは嬉しそうに話すと「よーし!次は私の番だね!」と意気込んでくたくたのアライグマさんと代わって再び船を動かし始めた。


「アラーイさーん、無理しちゃあ駄目だよー」


 静かにごこくえりあを眺めていたフェネックさんが疲れて動けなくなっているアライグマさんの背中を擦っている。ぜえはあと息を荒げるアライグマさんは小さく「駄目なのだ...かばんさんにもっと恩返しするのだ...」と呟いていた。


「だ、大丈夫ですよ?程々にしてくれるだけでありがたいですから...」


「そーだよー、毎回疲れてちゃあ遊びも全然楽しめないよぉ?」


 ばしゃんと音をたてて水面から顔を出したマイルカさん。ここまで案内してくれたのも彼女だ。すると彼女は「もう見えたから大丈夫よね!じゃあまたねぇー!」としなやかな尾で水を叩いてかいがんへ帰っていった。そうこうしてる内にもごこくえりあはもう目の前だ。


「このスピードなら...あれ、このままじゃ......さ、サーバルちゃん!もう止めても大丈夫だよ!」


「みゃ!りょうかーい!」


「...あれー、ぶつかっちゃうねー」


「はぁ...はぁ...んぅ?ま、まずいのだ...このままだと、このままだと......


...バスの危機なのだー!!」




...がこん!!!










「いやぁ、かばんさんが乗ってきた頭の部分が無かったら今頃バスがへこんでたよー」


「ごめんなさい...つい気が緩んでしまって」


「ううん、私だって全然注意してなかったの...とにかく無事で良かった!」


 誰もいない かいがんは波の音だけを辺りに響かせている。僕が乗ってきた部分のバスは少し大きな岩にぶつかってへこんでいる所があった。それもあってか皆が乗っていた後ろの部分は無傷で皆は怪我一つ無くピンピンしている。


「このままだと陸を走れないのだ...」


「うーん...あっ、あそこのフレンズに聞いてみようよ!」


 遠くに小さな影を見つけ、耳を立てたサーバルちゃんはおーい!と大声を出して手を広げる。しかし、その影がこちらに気付いた様子は無くて動いたりしなかった。


「あれぇ...?気付かなかったのかなぁ」


 首を小さく傾けるとサーバルちゃんはとことこ、とその影に歩んでいく。僕は残りの二人を見たけれど、アライグマさんが動けそうにないからとバスの中で待つらしく結局既に半分以上進んでいるサーバルちゃんの背中を追い掛けた。


「ねぇねぇ!貴方は何て言うフレンズ?」


「こんにちは...」


 きょうしゅうにもあった港らしき場所で座り、足をぶらぶらさせながらひたすら水面を見つめるフレンズ。僕たちが声をかけても全く反応しなくて、誰に向ける訳でもない溜め息をついた。


「あの...大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫でしゅ......うわぁっ!?」


 すっかり落ちている肩をとんと叩くと初めて反応が返ってきて、ワンテンポ遅れて肩をびくっとさせる。


「き、君たちは...?いつからいたんでしゅか!?」


「割と前から声をかけてたよ?初めまして!私はサーバル!」


「僕はかばん、ヒトです...あの、どうかされたんですか?」


 軽く自己紹介をするとそんな質問。大きな耳をぴくんと跳ねさせてから折り畳んだ彼女は、心なしか潤んだ瞳を再び海へ向けた。


「...泳げないんでしゅ、昔溺れたことがあって...でも、泳ぎたいんでしゅ」


「あれ、でも貴方って見たところ海のフレンズじゃなさそうだけど...」


 しゅんとしたフレンズの様子を見て移ったように眉を下げるサーバルちゃんは小さく呟く。その言葉に相手は何も答えなかった。


「...ううん、大丈夫。いつかまた泳げるようになるでしゅ!誰だか分からないけど、ありがとうでしゅ!」


 少し頭を振って立ち上がり、ぱたぱたと埃を払うとお礼を言うフレンズ。この子の初めてみた笑顔がどこか無理やりくっ付けたような物に見えたのは気のせいかな...。何となく考えていると彼女は鳥のフレンズだったのか、ふわりと体が浮く。太陽の光が邪魔で彼女の表情は読み取れなかった。


「私は自由気ままにパトロールし隊、昼間担当のウサギコウモリでしゅ!よくここには来るからまた会うかもでしゅね!じゃあまたねでしゅ!」


「じゃあねー!......あっ、バスのこと聞くの忘れた!」


 ぶんぶんと手を振っていたサーバルちゃんはしまった、と口にする。「大丈夫、あの子パトロールって言ってたし明日も来るかもって言ってた。きっと今度は聞けるよ」と僕が言えば少し安心した表情を浮かばせた。


「そろそろアライグマさんも回復したかな?バスに戻ろっか」


「うん!今日はバスで寝るんだね...!楽しそー!」


 結局何の収穫も得られなかったけど、取りあえず明日から考えよう...


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る