#3 矢澤夏海side
「あっれー…ここどこだっけなぁ。」
矢澤夏海、27歳。迷子です。
M中学校の近くに大型の本屋チェーン店があると寺田先生に聞いて勤務終わりに車を走らせた。聞いていた限りでは、車で5分かからないらしいのだが20分車を走らせてもまだ見つからない。カーナビで本屋を検索しても出てこない。神崎先生に騙されたのか?いや、あの人はそんな意図で言っている雰囲気がなかった。私のカーナビが古いのか?
「もういいや。気分転換にCDでもかけよう…。」
車のプレイリストを見るとCDの情報が1曲も入ってない事に気が付いた。車を変えた時にリセットされたのだ。こうなったら仕方ないと20分かけて唯一みたCD屋さんに寄る事にした。
入ってすぐには最近流行りのアイドルの特設コーナーがあった。ピンク色で可愛い雰囲気に飾られている。特設コーナーの奥に進むと、90年代のヒット曲がずらりと並んでいた。昔から大好きだったバラード系バンドを50音から探す。ようやくサ行に辿り着いたところで、誰かにぶつかってしまった。
「あっ、すみません。」
「いえ、こちらこ……矢澤先生?」
「…貴女は、今日ベンチに座ってた……」
「永倉です。」
確かに彼女はテニス部のミーティングの際にそこにいた。彼女は大きなギターを担いで90年代CDコーナーに居たのだ。そして彼女が手にしていたのは、私が大好きなバンドのCDだった。
「そのバンド…好きなの?」
彼女はハッとしてCDを背中に隠した。そしてクルリと向きを変えてレジに向かって走り出そうとしていた。
「待って!…私もそのバンド、好きなの!」
彼女は足を止めてこちらを向いた。そして、柔らかな笑顔で
「ギターがかっこいいです。ボーカルの優しい声も。ベースの安定感も。ドラムのソロも。有名にならずに解散したけど、私の中ではトップスターです。」
と言って、今度は軽やかな足取りでレジへ向かっていった。
放課後、理科室で… 南萠衣 @Minami-moe
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