彼彼女らの決断
「・・・さすがに彼に会いたい」
私はかなり焦っていた、そして環ちゃんも。
「そうだよね。私たちもそろそろ帰らないといけないからね」
ここに泊まってから、もうしばらく経ったが、環ちゃんにはれんしゅうがあり、そしてもちろん私にも仕事があるのだ。
「どうにかして出てきて欲しいね・・・」
私と環ちゃんは、唸り声をあげながら悩んでいた。
「あれ?お二人共頭なんか抱えてどうしたんですか?」
そこには、私たちを不安そうに見つめる双葉ちゃんの姿があった。
「どうしたらあなたのお兄ちゃんが出てくるのかな、と思って考えてたの」
「引きずり出すだけなら簡単だと思いますよ」
「私たちは何度かやったけどダメだったよ」
「それは2人だからですよ。今のお兄様は、ただこの状況で出てきづらいだけだと思いますよ」
「彼らしいかもね」
環ちゃんが苦笑しながら言った。
「なら今からでも連れてきましょうか?」
その言葉に私たちが目を輝かせるのと同時に、双葉ちゃんの目も鋭くなった。
「ただ、本当に2人に覚悟はあるんですか?私たちがしようとしている事は、正しいことだと言いきれますか?」
その言葉から、彼女の本気が強く伝わってきた。
「・・・それでも・・・それでも彼と話したいことたくさんあるから!」
どうやら環ちゃんの心はすでに決まっていたようだ。
「・・・凛さんはどうなんですか?」
「私も・・・伝えたい事たくさんあるから」
「そうですか。別々に話してもらうように聞いてきますね」
打って変わって、双葉ちゃんの態度が柔らかくなった。
それだけ兄のことを真剣に考えていたのだろう。
「やっぱり双葉ちゃんって、お兄ちゃんのこと大好きなんだね」
「家族だから心配しているだけです。まあ大切な人ですし、あながち間違ってはないかもですが・・・」
※
環ちゃんが入ってからしばらく経った。
中の話し声はほどんど聞こえてこない。
そうしているうちに、扉が開いた。
そこには涙を流しながらも、どこか安心したような表情をした環ちゃんがいた。
「・・・環ちゃん」
「ごめんね・・・何でもないから」
そう言うと、そのまま環ちゃんは廊下を走っていった。
「環ちゃん・・・」
しかし呆然と立ち尽くしている時間などない。
私は彼の気が変わる前にと、扉を開けて中に入った。
「凛もいたのか」
「・・・・・・」
私はその顔を見ると、少しづつ近づいていった。
「そこの椅子使ってい・・・
乾いた音が、部屋に響いた。
私は目の前にあった彼の頬を躊躇なく叩いた。
「凛・・・」
「なんで環ちゃんを泣かせたの!」
「・・・ごめん」
「私に謝らないでよ!どうして泣かせたか聞いてるの!」
血が上ったように頭が熱い。何とも言えない感情が頭の中をグルグルする。
「・・・理由は言えないし、それに環にも謝れない」
「・・・どうしてもなの」
「どうしてもだ」
その目は先程の双葉ちゃんを思わせるほどに、真剣な目だった。
「だから・・・本当にごめん」
私はその言葉を聞き終わる前には、彼を抱きしめていた。
「辛いなら1人で抱え込まないでよ・・・」
私が彼を叩いたのは、環ちゃんが泣きながら出ていった後にも関わらず、そのことを私にまで抱え込ませたくない表情が気に入らなかったからだ。
「辛いなら私に言ってよ・・・こんなにあなたを好きなのに、信用されないのは私も辛いんだよ・・・」
抱きしめていたから顔は見えなかったが、確かに私の背中を強く抱きしめた。
「ごめん・・・本当にごめん」
しばらく抱き合った後、私は彼から「凛の近くに居るべきじゃないと思った」「環の告白を断った事」を聞いた。
「バカ!アホ!頭脳は学歴だけですか!」
「なんで学歴知ってるんだよ・・・」
私は思いつく限りの言葉で罵倒した。
「何が釣り合わないよ!私があなたに釣り合うために頑張ってたのに喧嘩売ってるんですか!?」
「えっ、ごめん・・・」
「あなたはあなただけで出来てないの、そこには私や環ちゃん、千咲さんや双葉ちゃんがいてあなたがいるの。抱え込むのだけは2度としないって約束して」
「・・・分かったよ。これからは困ったら頼ることも考えるよ」
その言葉を聞くと、私は彼の手を引いた。
「だったらみんなで考えよ!」
私が軽く手を引くと、不思議と力はいらなかった。
演者は今日もソナタを奏でる 安里 新奈 @Wassy2003721
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