双葉無双(ボキャ貧)

「うーん・・・最近やけに肩痛いのよね・・・」


雅さんは肩を軽く回しながら、少し辛そうな顔で言った。


「お母様大丈夫ですか?私でよければ肩を揉みますよ」


「あら、助かるわね」


そう言って気持ちよさそうに肩を揉まれる雅さんの顔はかなり上機嫌だ。


「お加減大丈夫ですか?」


「えぇ・・・とってもいいわよ・・・」


「それは良かったです」


うっとりした目で言う雅さんの顔を見て、双葉ちゃんは自慢げにこっちを見てきた。


このままでは・・・


「千咲さん!」


「ん?どうしたの凛ちゃん」


「肩凝ってませんか?」


「そうだね、事務の仕事ばかりでパソコンとのにらめっこが日課だからね」


「だったら肩揉ませてください」


「本当?ならお願いしようかな」


そう言われ、私は千咲さんの肩を気持ち強めに親指でマッサージした。


「どうですか・・・?」


「う、うん気持ちいよ・・・」


「・・・本当ですか?」


明らかに顔色がおかしい、もしかしたら無理しているのかもしれない


「大丈夫、凛ちゃん上手いから・・・」


「そうですか・・・そう言うならこのままの強さでしますね」


「えっ」


「え?」


「ナ、ナンデモナイヨー」


しかししばらく続けた後、千咲さんはピクリとも動かなくなった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「・・・さすがに掃除屋さんだけだとこの家の掃除って行き届かないのよね」


小さく雅さんがそう呟いたのが聞こえた。


「あー!どうしてか掃除したくなってきたなー!」


私はそう言って立ち上がった。


「奇遇ですね。私も思っていたんです」


「だったら一緒n「手分けしましょうか」


コイツ・・・徹底的に倒す気だ・・・


しかし私も負けてはいられないのだ。


私と双葉ちゃんは二手に分かれた。


〜小一時間後〜


「おかしいですね。半分ずつのつもりが7割近く私がやってしましましたね」


私は元々のスペックの違いを納得しながら項垂れた。


そんな私をどうしてか双葉ちゃんは侮蔑の目で見てきた。


「呆れますね。今のあなたの状態はピアノをしていた頃のお兄様と変わりないんですよ?」


圧倒的スペックの差を見せつけられ、自慢だったはずの「彼の横」に私が居てはいけない事まで嫌でも理解させられた。


「でもかつてのお兄様は、そこからでも必死に足掻こうとしていました。たったこれだけの事で諦めてしまうような人なんてお兄様の隣に相応しくはないです」


言い返せなかった


「凛さんの抱いている気持ちはただの執着です。これ以上、お兄様を傷つけないように、今すぐにここから出ていってください」


「それは・・・」


「あなたの意思で決める問題ではない事が分かりませんか?」


少しづつ双葉ちゃんの声に怒気がこもる。


「あなたにとってお兄様は所詮そのて「それは違う!」


廊下に私の声が響き渡った。


「・・・何がですか?」


「確かに私なんかが彼の近くに居ちゃいけないかもだけど。それでも、私には彼が必要なの!」


そう言いながら、私の中に彼との思い出が蘇ってくる。


「みんな私のピアノしか見てくれてなかった。けど彼だけは違ったの!私自信を見てくれて、それでも私を肯定してくれたの!」


「・・・・・・」


お互いにしばらくの静寂が流れた。


「私も言い方が悪かったところがありました。そこについては謝罪します。それにお兄様の友人について口出しする権利なんてそもそもありませんでしたね」


今まで強気だった双葉ちゃんの謝罪に、私は呆気に取られてしまった。


「でも二人の関係を認めたつもりはありません、それでは」


そう言い残し、双葉ちゃんは廊下を歩いていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


私はその夜。お兄様の部屋に夕ご飯を届けた。


「お兄様、夕ご飯を持って来ました」


「双葉か?」


「はい、千咲さんが今起きられない状態で、代わりに私が持って来ました」


「わざわざありがとう。外に置いてくれて構わないから」


素っ気ない態度に少し腹を立てながら、部屋のお兄様に一つ質問をしてみた。


「お兄様にとって凛さんってどんな存在ですか?」


「凛?どうしてそんなことが気になるんだ?」


「ごく僅かな可能性としてあの方がお兄様と結婚するかもしれないのであれば聞いてみたいです」


「ごく僅かな可能性って・・・」


否定はしないんですね


「凛の存在って言われてもな・・・まあ同居人で、友達で、元同業者ってところかな」


やはりお兄様から出てきた言葉は見えている事実しか出てこない、その程度の関係性で少し色々な感情が駆け巡った。


しかしお兄様から、もう一つだけ言葉が出てきた。


「そういう所も含めて、あいつは俺自身を作ってるんだと思う」


「・・・どういう意味ですか?」


「そのままだよ。どれだけ冷たく接しても嫌うどころか、俺のことを考えてその時にあった言葉を言ってくれる。そんな人が近くに居るから俺は優しくなれていたんだと思う」


「・・・そうなんですね」


「でも、そうだったから俺は自分の弱さで逃げてきたんだけどな・・・」


「お話を聞けてよかったです。夕ご飯は外に置いておきますね」


「ありがとう。それとこの話は誰にも言わないでくれよ」


「兄妹だけの秘密にしておきますね」


私は軽くこめかみを抑えた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「凛さん、ちょっといいですか?」


「えっと・・・いいよ」


私は凛さんを呼び、人がいない静かな場所で立ち止まった。


「・・・兄のこと大事にしてくれるんですよね?」


「もっ、もちろんです!一生そばに居たいです!」


その言葉を聞いて、私はふかくためいきをつくと、静かに頭を下げた。


「兄のことお願いしてもいいでしょうか」


こんなにもお兄様のことを大事に、そしてお兄様に大事にしてくれる人を否定できるわけがない。


「こちらこそ・・・」


「形式上はこれくらいでいいですね。お兄様の事をみとめたうえでも、私はあなたのことが嫌いですから。そこはかんちがいしないでください」


「お兄さんとそっくりだよ、本当に・・・」


私は不覚にも、この人と兄が結ばれて欲しいとも思ってしまったが、きっと気のせいだろう。






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