物語の舞台は終戦直後の日本のどこかにある町・乙浦。
この土地には金魚を姫君として祀る伝統があって、その伝統を守る祭司のような役割を担っていた緋瀬家の少女・緑が主人公です。
戦死した兄の代わりに当世の金魚と結婚した緑ですが、戦争が終わったことによって、金魚とは離婚し、実業家である七橋家の、つまり人間の男性と再婚することになります。
乙浦の町は一見するととても綺麗で、戦争なんかどこか遠い世界のことであったかのようで、金魚のひらひらとした美しさやびいどろの金魚鉢の涼しさなどもあいまって幻想的な異世界のようにも思われますが、それは緑が守られていたから。今まで目隠しをされたように暮らしていた緑は、この町もまた戦争の影響を受けていたこと、世界はもう今までどおりではいられないことを悟ります。
その過程の、なんと残酷で、でも美しくて甘くて優しいこと!
完成された世界はとても綺麗で、同時に緑はただ綺麗なだけではなく、これから先は人間の奥方として強く生きていくであろうことを感じさせるラストシーンでありました。
それにしても、金魚の世話係である朝彦の魅力的なことと言ったら言葉では言い尽くせません。
そんなの好きになっちゃうに決まってる……と思いながら彼の動きを見ていました。
彼も幸せになりますように。
いやきっと放っておいても彼はずっと幸せなんだわ……今も昔もこれからも。