第6話 時は流れるし忘れるし
年に一度、市役所へ現状報告の書類を直接提出しなければならない。
母子手当に関わる、現在の生活についての報告だ。
その後、お付き合いしている人はいるのかとかその人から援助を受けているのかとか、妊娠はしているのか、結婚する予定なのか。養育費はいくらなのか、祖父母から金銭の援助はあるのか。国民保険か健康保険か、子どもに障害はないか手帳はあるのか。などなど。
私の場合「いいえ」だ。特に変わったことなどない。養育費はと言えば、何だかんだ支払ってるものの……元義母の策略なのか、月末支払いがいつの間にか月初支払いになっており、よくよく見れば一ヶ月誤魔化しやがった痕跡がある。つっこむ元気は最早ない。
その月に報告会があるのはもちろんわかっているので、始まったその日の仕事の合間に市役所へ行った。
着くと、いるわいるわシングルマザーとシングルファーザー。大丈夫か、この市。何気に多いのではと思ってしまう。
というか、この母子手当だって税金だろう。私、いいのかな、皆様の税金もらって……。シングルたちをぼんやりと目に入れつつ、あらゆる人に内心土下座する。多くの人から罵詈雑言を浴びても、生きる為と強く心を持つしかない。
番号札をもらい、項目を書き、提出して終わる。数カ月後に審査結果と証明書が来る。
今年も無事終わり、市役所から職場へ戻る途中、メールが届いた。なんだ、宣伝メールか。閉じようとした時、その上になんと、元旦那の誕生日を知らせるアラームが付いたのだ!
なんということだ!
そんなのすっかり忘れてた! 誕生日って!
何かのアプリを消していなかったショックより、そんな事なんぞすっかり忘れていた自分の脳みそに祝福した。
何だかんだ言っても、記憶の希釈は時間がかかる。そこでの記録も想いも記念日も、忘れたくても、脳みそにしっかり染み込んでいるのだ。ふとした拍子に思い出しては自己嫌悪なんて、ほぼ毎日あった。何年経ってもそれは悪夢のように続く。
それがどうした事だろう! 忘れてるだなんて!
あまりの嬉しさにスキップしたくなった。一つ忘却でき、またアプリによって思い出されてもなんの感覚もない。
前へ進んでいるのだなぁ。しみじみ噛み締め、仕事に戻った。
そんな日々が幸せだ。ここにいる、歩いている、空を見ている、それが幸せなのだ。創作をしている身としては、こんなゆるふわな思考ではいけないだろうし、現に創作の力は衰えている。まあ、きっと別のベクトルで創作できる日が来るだろう。
などと、ふわふわとした帰り道。現状届も大して惨めな作業ではなくなってきている。
シングルマザーの愉快な現実 七津 十七 @hachimanma
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