ラストエピローグ
「…………どうした?」
ゾン子の景色に、光が差した。アッシュワールドに戻ってきたのを実感する。随分長い時間を戦っていた気がするが、どうやら気のせいのようだ。白昼夢ですらない、一瞬の空白。その刹那を魂の抜けたようだったゾン子に、魂の家族が怪訝に見つめている。二人して転送装置の奥に詰めているのが、少しシュールだ。
今度はちゃんと本物らしい。
「何を仕掛けられた」
「ついにボケた?」
「……いんやー? なんにもなかったさ。あとオグンは後で殴らせろ」
薄ら笑いで流された。怪訝な視線を向けたままのエシュは、ひょっとして何かを感じ取ったのかもしれない。
ゾン子は、どうしてあの戦いについて話さなかったのか、自分でもよく分かっていない。プレイヤーズアンノウン。そんな言葉が、呪いみたいに付きまとう。あの道化の魂は、物言わぬままこの肉体に取り込まれている。いつか、消費される時が来るのかもしれない。もしかしたら、自我を乗っ取られることもあるかもしれない。
そんな諸々を飲み込んで、ゾン子が笑った。
「どした、レグ兄。やっぱり名残惜しくなったか」
「まさか」
そっぽを向くエシュに、ゾン子の顔がにやける。兄貴分の新たな一面が知れた気がする。彼も、カンパニーで刺激的な経験をしたことだろう。もちろん、フェレイも。二人は急かすわけでもなく、ただゾン子が来るのを待っている。
しかし、このままでいるわけにはいかない。屍神の一派は、カンパニーにとっては最早テロリストでしかない。このまま捕まってしまったら、全ての破滅だ。さっさととんずらをこくに限る。
一歩一歩、ゾン子が転送装置に歩み寄った。
アッシュワールドからの離脱は、同時にカンパニーとの決別だった。
(最初は、なんか騙されて戦闘実験に参加させられたんだっけ?)
そして、なんか騙されて異界電力での虐殺ゲームに放り込まれた。そこからの帰り道も謎の化け物たちに襲撃され、そして、なんか騙されて社長戦争に巻き込まれたのだ。
(…………あれ? 私悪くなくね? ま、いいか)
あの歌声も。
渇愛も。
復讐も。
勝利への執念も。
友情も。
憤怒も。
馴れ合いも。
戦争も
茶番も。
決戦も。
一歩、一歩。決別へと向かう。本当のエンディングへと。プレイヤーズ・ウェルネス・カンパニー。その役目は果たされただろうか。
ゾン子が転送装置に乗った。光が三人を包む。
「じゃあな。
――――楽しかったぜ、カンパニー!」
◆
日本皇国。
ゾン子は、ゆっくりと目を開けた。ここは戦場だ。屍舞い散る主戦場で、くるくると踊っている。遠くで、派手な爆音が連鎖する。その身に人類種を背負う人類戦士に挑むのは、ヴードゥーの神官、屍神を製作した彼らの『王』だ。
「ふんふーん、オグンのやつは無事かねい?」
「帝国の尖兵は、あのヘルメスだろう? 穏やかに済むとは考えられんな」
「案外瞬殺してたりしてー?」
鼻で笑われた。ゾン子はぷくぅと頬を膨らませる。どれだけ屍兵をけしかけようが、結果は変わらない。物量戦ではやはり分が悪い。だからこその決戦兵器。七体の屍神が戦場に解き放たれる。
苛烈極まる戦場で、この二人は余裕を保ったままだ。カンパニーでの経験が、活きている。多くの強敵と戦ってきた彼らには、確かな自信があった。
「なあ、レグ兄。もしオケラちゃんとかゼッちゃんとかドラ子がいたら、この盤面も一発で引っくり返るぜ?」
「抜かせ。それでは我々の戦いではなくなるだろう」
骨を被った大男が大地を蹴った。日本皇国が誇るヒーローたちが向かい討つ。ここでも、やはり運命神は一騎当千の実力を発揮していた。敵の中にむかつくポニーテールを発見し、ゾン子も滑るように前に出る。
(さて、どうかね。ここからは本番だ。お膳立てされた茶番じゃ味わえないような刺激を見せてやるよ)
本物の戦場。屍神の本分。過去に生きる彼らが、未来に反逆する。ゾン子は両手をぐわしと広げて、戦場に吠えた。
「レディース&ジェントルメン!
お楽しみはこれからだ!」
―――これが、彼ら屍神の最後の戦場となった。
―――過去にしか生きられない死体たちは、それでも確かに歴史に爪痕を残したのだった。
了。
【アッシュワールド】【vs100】ゾン子(【異世界社長戦争】【vsカリカチュア】)【vsアルファベット】 ビト @bito
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