昭和中期の東京・浅草橋。
工場の音と川の流れに囲まれた下町で、ひとりの男の子が生まれようとしていた。
しかしその誕生は、決して穏やかなものではない。
難産、産声を上げない赤ん坊、張り詰めた分娩室の空気。
生と死の境界が、静かに描かれる。
そして物語は、母フミの意識が途切れた先――
果てしなく広がる花畑という幻想的な世界へと移行する。
現実の痛みと、夢のような安らぎ。
その対比が、この物語に不思議な奥行きを与えている。
これは単なる出産譚ではなく、
「この子が生まれる意味」を問いかける序章。
蝶に導かれる母の行方と、
“王子”と呼ばれる存在の誕生が、
これからどんな運命へつながっていくのか。
静かで温かく、どこか神話的な始まりを感じさせるプロローグ。
王子は自分より4つか5つ上の世代だと思うけれど、超田舎の上牧で育った自分にとっては、共感できるエピソードがいくつもあった。
昭和の暮らしの風景や、親とのやりとり、些細な出来事が子ども時代の心にどう刻まれていたか──それが丁寧に、時にユーモラスに描かれていて、読んでいるうちに自分の記憶と相まって胸がじんわりしてくる。
特に、作中で語られる越後の言葉──魚沼弁に似てるようで少し違う、その“微妙なズレ”がむしろリアルで、妙に沁みた。
ああ、こういう言い方あったよな、いや、うちはこう言ってたな……そんなふうに言葉そのものから当時の空気が蘇ってくる感覚。
派手なドラマがあるわけじゃない。でも、昭和という時代と、そこに生きた子どもたちの気持ちを、まるごと封じ込めたような作品。
静かだけど、深い余韻の残る伝記だった。
序盤を読んでの感想です。
作者自身の幼少期を描いた実話ベースの物語。東京で生まれた主人公が、新潟の田舎で「王子」として大切に育てられるエピソードが綴られています。出産時の母・フミの壮絶な体験、そして霊安室での目覚めという衝撃的な展開が序盤を引き締めています。昭和らしい情景描写が懐かしさを感じさせます。
キャラクターたちは個性豊かで、特にフミの強さと愛情が際立ちます。息子のために奮闘し、商売に挑戦する彼女の姿は、どの時代にも共通する母の偉大さを物語っています。新潟の家族たちも温かく、王子を迎える少女たちの興奮は微笑ましく描かれています。
昭和のレトロな雰囲気を残しながらも軽妙でユーモラス。特に手賀沼の漂流騒動やドジョウ鍋のエピソードなど、リアルな笑いを誘う場面が豊富です。ゲームよりも面白いと作者が語る通り、現実の出来事がそのままドラマとなり、読者を惹きつけます。
母の愛と家族の絆が織りなす、昭和の波乱万丈リアルファンタジー。懐かしく温かな気持ちにさせてくれる作品でした。