第2話 エラー

「ねえ×××君は、コーヒーの事が好き?」

「好きだね、少なくともお前よりはな」

「そう、でもコーヒーは君のこと好きじゃないと思うんだけど」

「物と相思相愛になろうなんて思うヤツはいねーよ」

「二次元キャラクターに恋をする人間は、恋をしていないと思うの?」

「あんなもんはどこの誰を取ったって、過激な一方通行の恋愛だろうに。複数人に配られた愛情を返してるから相思相愛だなんて踊ってるだけさ」

「踊らされてるよね」

「いや、好きなだけ踊ってるのさ。

 ――オレはお前が好きだ――

 だから踊る。単純明快に踊りたいから踊る。どうあがいたって」

「……」

「どうかしたか?」

「いや別に。話を続ければ恋愛は何をもって成立すると思う? どの一線を越えれば恋愛になるの?」

「そんなの個人の勝手だろ好きなら好き。人でも物でも恋愛だと思えば恋愛だよ。相手に問わず相手の考えに寄らず、さ。なんだよさっきからお前……まさか恋愛でもしてんのか?」

「ええ、ずっと前からね」

「……マジか」

「私、コーヒーのこと、好きなの」

「やっぱりか」

「私はコーヒーのことが好きなのに、コーヒーは私の事を愛してくれないわ」

「そりゃそうだろうな」

「どうしたらコーヒーは私のことを好きになってくれるのかしら」

「コーヒーと相思相愛になりたいなんて奇妙奇天烈な女もいたもんだ。ブラジルに渡ってコーヒー豆でも作れば相愛なんじゃない?」

「コーヒー豆を作っても、コーヒーの淹れ方を研究しても、私はコーヒーが好きなことは変わらない。でも、コーヒーから愛されることはない」

「じゃあ、どうされたらコーヒーに愛されてると思うのさ」

「コーヒーにキスされたい」

「飲むときに毎回キスしてんだろ」

「そう、だから私は思うの。私からコーヒーにキスをすることはあっても、コーヒーからキスをされることはない。私はコーヒーに何度もキスをするのに、コーヒーから私にキスをしてくれたことは一度も無い」

「ははは、最高にクレイジーだな」

 冗談抜きにコイツは言っている。その迫力に思わず舌が乾く。オレはコーヒーを飲もうとカップに手を伸ばす一瞬だけ、彼女の唇を見た。

 コーヒーと毎日キスをするという唇を。

 本当に一瞬、さりげなく。

 オレは彼女の表情も眼も見なかった。

 同じ学校の同じクラスの、誰とも絡まない異形の彼女。

 黒髪が長くて誰もが不気味に思い近寄らない。

「お前の髪はブラックコーヒーみたいに真っ黒だよな」

「本当に⁉」

 ダァン! とテーブルを怒突いて身を乗り出し聞いてきた。

「私の髪の毛、ブラックコーヒーみたい?」

「お、おう……」

 ああ思い出した。コイツの瞳はどす黒い、ブラックコーヒーなんてもんじゃない。もっと底知れない、暗闇みたいに真っ黒い目をしているんだ。

「はは、はははは!」

 乗り出した身を起こすと、くるくると回り出した。

 黒い髪が広がる。白いカチューシャはコーヒーミルクみたいだ。

「ははは、あははははははははは」

 何が楽しいのかわからない。でも学校じゃ見れない彼女の喜ぶ姿を、オレはこの目に、頭に、心に焼き付いて一生離れなかった。

 エラー。

 嬉しそうに笑う彼女に、

 エラー。エラー。エラー。

 オレは、次になんて言葉をかければ、

 エラーエラーエラーエラーエラー。

 喜んでくれるのか、言葉を探していた。

 ERROR

 なんでオレはコイツと会話してるんだ?


 ――END――

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