嘘つきは狼のはじまり
とある高等学校の気怠い放課後の時間に、とある部室でその戦いは勃発していた。その部屋には苦楚芸部と看板が掛けてある。名前の通り、ありとあらゆる遊びを最大限楽しもうという部活動だ。中には四人の男女が座っており、今日遊ぶゲームと罰ゲームについて話し合っているところだった。
「さて、今日遊ぶゲームは人狼ゲームでどうだ? 四人だから、一夜限りの戦いになるが、楽しいだろう」
トキヤがいつものように提案する。残りの三名はそれぞれ同意をした。
「役は何があるのかしら? それと、罰ゲームも決めないとね」
晴海の問にトキヤは四枚のカードを並べ答える。
「村人、村人、占い師、狼だ。罰ゲームはそうだな。今日からはこれを使おうと思う」
机の上に玩具のコインを並べた。枚数は全部で二十枚あった。
「これを五枚づつ配る。ゲームをする度に一枚賭け、勝ったプレイヤーが総取りするという仕組みだ。誰かのコインが無くなった時点で終了、その時点で一番多く所持しているプレイヤーがコインの無くなったプレイヤーに好きな命令を下せる」
「今日の人狼だと、狼側がハイリスク・ハイリターンじゃない? 負けたら三枚払うのよね?」
「何、負けなければいいだけの話だ」
「面白い乗ってやろうじゃないの。始めましょう? ゲームを」
ここで、今回プレイする人狼ゲームのルールを説明しよう。ゲームの進行は、大きく分けて配役の決定、占い師の行動、話し合い、狼当ての順番に行われる。配役の決定は、ゲーム開始時に、配役カードを一枚づつ配り、自分のを確認したら目を瞑る。次に、占い師になった人は好きな人の配役カードをこっそり見る。その後、皆で目を開き、誰が狼なのかを話し合う。狼当ては多数決で行う、皆で一斉に狼と思う者に指を指す。同票の場合は話し合いを続行し、再度、多数決を行う。狼を当てられたら人間側の三名の勝ち、外した場合は狼の勝ちだ。人数が四人の為、一夜で勝敗を決することとする。
「時間の進行はストップウォッチで行う。占い師の時間は一分、話し合いは五分で区切る」
トキヤはそういうとカードをシャッフルし、四人の前に一枚ずつ並べる。早速、カードを捲ろうとする鉄雄を静流が制した。
「待って、まだ捲ってはだめ。このカードにイカサマが無いという保証が無い……」
その時、トキヤの視線が泳ぐのを静流は見逃さなかった。静流は一枚、一枚、カードを入念に調べる。
「……。このカードだけ、端に折り目がある」
静流はそのカードを裏返すと、狼の絵が描かれていた。
「トキヤ、イカサマの罰として、各プレイヤーにコインを一枚ずつ配りなさい」
晴海の発言に残りの二人も頷く、しぶしぶとコインを配るトキヤ。
「イカサマが出来ないように、部室にあるトランプを使いましょう。ハートの一と二が村人、ジャックが占い師、ジョーカーが狼よ」
晴海は四枚のトランプを抜き出すと入念にシャッフルし、四人の前に並べる。四人はそれぞれ、目の前に置いてあるトランプを捲ると目を閉じ、話し合いが始まるのを待った。占い師のチェックが終わり、話し合い開始のアラームが鳴ると、四人は一斉に目を開いた。互いにきょろきょろと様子を伺う、静流は俯き、目の前をカードをくるくると回す。暫くすると、痺れを切らしたように、鉄雄をが口を開いた。
「俺が占い師だったぜ。トキヤは村人だぜ」
少し間をおいて、トキヤは発言をした。
「鉄雄の言うように俺は村人だ。このことから、鉄雄の言うことは正しいように思える。よって、狼は晴海か静流のどちらかだと思う」
反論するように、晴海が立ち上がる。
「待って、頂戴。私が本当の占い師よ。鉄雄くんは嘘をついているわ。私は静流のトランプを覗いたけれど、ハートの二だったわ。静流は村人よ!」
「晴海の言う通り、私は村人よ。鉄雄くんは狼だから嘘をついているのね」
厳しい視線で鉄雄を睨む、晴海と静流。
「俺、嘘とかついてねーし! それを言うなら、晴海が本当の事を言ってる証拠はあんのかよ!!」
「証拠は私が村人なのを当てたこと。私には嘘をつくメリットがないもの」
「それなら、俺も嘘をつくメリットがない。俺が村人なのを当てているから、鉄雄は無実だ」
四人は再び、黙考へと戻る。少し時間が経過した後、静流が口を開いた。
「……。私とトキヤくんの二人は村人で、鉄雄くんか、晴海が狼というところまでは皆の共通認識でいいかしら?」
「仕方ないけれど、私はそう思うわ。私が鉄雄くんの嘘を暴けるかどうかになるのよね」
「俺は嘘なんかつけねーっつうの! そんなに頭良くねぇよ!!」
「ふむ、こうなると埒が開かない気がするな。俺と鉄雄は晴海を狼と言うし、晴海と静流は鉄雄を狼だと言うだろう? 二対二に割れてしまうな」
「簡単な話よ、トキヤが鉄雄くんを狼だと言えば、人間側の完全勝利よ」
「だから、俺は、嘘なんてつけねーっつうの!!」
その時、アラームが鳴る。
「時間だ。では、四人同時に狼と思う者を指差す、いいな?」
全員で顔を見合わせると一斉に指を指した。
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さて、誰が狼だったでしょう?
四人の中から狼と思う方をお答えください。
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鉄雄は、晴海を指さしていた。
晴海も、鉄雄を指さしている。
トキヤは、晴海を指さしていた。
静流は、晴海を指さしている!
「なっ、静流は鉄雄を疑っているんじゃないのか?」
嫌な汗が流れる。トキヤは何か見落としが無いか、今までの会話を思い起こしている。
「トキヤくんはゲームの外側のルールを見落としているわ」
「外側のルールだと?」
「このゲーム、私は晴海と手を組んでいたの。どちらかが、狼の場合、もう片方が占い師を名乗り出て、村人と宣言するという約束をね」
「何故、そんなことを……」
「確実にコインがプラスになるもの。事実、私を狼だなんて疑わなかったでしょう? 私が疑われない時点で私達の勝ちは決まっていたの」
静流は呆然としているトキヤと鉄雄からコインを受け取ると、一枚、晴海へと渡した。
「トキヤくん、明日の部活動が楽しみね! どんな命令をしようかしら?」
晴海はにっこりとした笑顔で、愕然としているトキヤに明るく声を掛けた。
ゲーム終了時の各プレイヤーのコイン所持枚数
トキヤ 一枚
鉄雄 五枚
晴海 七枚
静流 七枚
僕らのくそげーな日常 くるる @yukinome_kururu
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