K・H風味
♪ル~ルル ♪ルルル ル~ルル~
徹子の部屋風のスキャットを思わず口ずさんでしまう。
「今日のお客様は、どマヌケな俺の弟、
♪ラ~ラ~ララ~
兄の部屋の中には誰もいない。
作業はできるだけ迅速に行う必要がある。
修策は机の引き出しの取っ手に手をかけた。
引き出しを開けると、そこには大量のエロ本が置かれていた。
ビンゴ!
尊敬する兄の性に対する趣味嗜好を知りたい。
修策はわくわくしながらエロ本を手にとった。
血走った目で獲物の表紙を見る。
『週間Pボーイ』
なんだ普通じゃんか。
すると、机の上には彼にとって大好物の和菓子が置かれていた。
よくコンビニで売っている税込108円の桜餅だ。
修策へ
これ食べな
留守番よろしく
兄より
メモ用紙に黒マジックで書かれた書置きがあった。
ヤバイ!
なんと弟思いの兄なんだろう。
俺は一体なにをやってるんだ。
兄が留守中をいいことに、俺は陰険なアサリ屋みたいなことをやらかしている。
「兄貴、ごめんよ……」
修策はいったんエロ本を引き出しに戻した。
桜餅に包まれた透明のビニールを破る。
「いただきまーす」
修策は桜餅をひとくち頬張った。
甘いアンコの味がする。
うまいなと、修策はにんまりと微笑んだ。
次の瞬間、それはすべて鋭い辛さに一変した。
「うえっ!」
修策は慌てて口にいれた桜餅をぺっと吐いた。
唇と舌と喉にびりびりと激痛が走った。目の前で桜餅の中身を確かめた。
真っ赤な香辛料。
無数に細かくみじん切りにされた鷹の爪だった。
「どうして、兄貴はこんなに本物と見分けがつかないほど完璧な桜餅を作れるんだよお! おまけにちゃんとビニールで包まれていたし……」修策は口から火を吐きブサイクな顔のまま泣きながら叫んだ。「兄貴半端ないって!」
この一部始終を見届けた正輝は、くすくす笑った。
「やっぱ、スマホ対応の防犯カメラにして正解だったな」
正輝は近所の喫茶店で、黒く冷えたアイスコーヒーをストローですすった。
これをYouTubeに投稿したら動画再生回数は何件になるだろうか。
でも、こんなのは、ほんの序の口にすぎない。
ゆくゆくは収益をがっぽり稼げるほどの人気YouTuberになるんだ。
誰かさんのようにCMやTV番組の出演も決して夢ではない。
だから、次はもっと過激に!
もっとショッキングに!
例え弟がくたばってしまっても構わない。
もっともっと面白い動画を撮らなくっちゃ。
色んな風味がきいた饅頭 レックス・ジャック @suteibun
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