J・H風味

 なんだかね、血まみれの幽霊よりも生きている人間のほうがよっぽど怖いと思うんだ。だって、人は何十年も同じ職場に通って、地位と名誉をむさぼり、出世のためなら同僚を裏切って上司にヨイショとおべっかを使い、自分の部下はけちょんけちょんにけなし、無人島でわずかな饅頭しょくりょうを奪い合って、自分ひとりだけ生き残ろうとするようなもんだろう? 毎日煙草を蒸気機関車のように吸いつづけ、毎晩焼酎を底なし沼のように飲みつづける。肺癌と重度のアル中、「生きている」という感覚があたりまえすぎて、「死んでいる」自覚もないんだろうな。ほら、今日も会社のロビーを死者たちが歩いている《デットメン・ウォーキング》。

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