「幸福」だから「人が死なない」
- ★★★ Excellent!!!
読もうとしたきっかけは、冒頭で「人が死にません」というタグをつけて頂いていることでした。
これなら、安心して読める……
主人公のメグミは、現世ではまったくもって不幸な子でした。その不幸のあまり亡くなってしまうのですが……まずそこに至るまでの描写が不謹慎ながら面白いです。突然、ナレーションのような口調に変わって、風が吹けば桶屋が儲かる的な理由で亡くなります。この描写が転生後にも引き継がれていて、転生した後の世界では、ナレーションによって幸運がもたらされた経緯が語られます(◇マークのあるところが視点の転換点であることは覚えておくとよいでしょう)。なんか、その幸運の訪れ方が「急に巨大な何かが降ってきた」的な、唐突感溢れる感じが好きです。
メグミは、転生後に手に入れた「幸福」という能力(これを「チート」だの「スキル」だの呼んでいないのも好感が持てます)を活かして、フェーベンクロー公国、モリアーナ帝国、イポロークなどの諸国を旅します。これが……なんというか、あの有名な時代劇っぽいんですよね。一話完結の勧善懲悪もの、といった感じです。ドラゴンのピーちゃんを見せるとみんな恐れ入るところとか、あと、やんちゃな2人組のお供とか(この2人はきっと、メグミの「左」と「右」とについてお供していたんだろうな、という絵が想像できます)。
勧善懲悪ものには悪者がつきものなんですが、これがまた、悪いんです。みんな。先般「安心して読める」と書いたのですが、このへんの展開はハードです。ただもちろん、彼らにも「人が死にません」ルールは適用されています。彼らのその後の様子はあまり描かれていませんが、おそらく以前よりも良い生き方になったのでしょう……そう、彼らも「幸福」になったのです。
メグミの「幸福」は、決して自分だけが幸福になる、ということを許さないようにできています。その証拠に、仲間が危機に陥ったときには、泣いて救いを求めます。その根底には「自分だけが幸福になっても、それは幸福ではない」というメグミが持っている「優しさ」があると思います。
本当の「優しさのファンタジー」に出会えたことに感謝します!