読もうとしたきっかけは、冒頭で「人が死にません」というタグをつけて頂いていることでした。
これなら、安心して読める……
主人公のメグミは、現世ではまったくもって不幸な子でした。その不幸のあまり亡くなってしまうのですが……まずそこに至るまでの描写が不謹慎ながら面白いです。突然、ナレーションのような口調に変わって、風が吹けば桶屋が儲かる的な理由で亡くなります。この描写が転生後にも引き継がれていて、転生した後の世界では、ナレーションによって幸運がもたらされた経緯が語られます(◇マークのあるところが視点の転換点であることは覚えておくとよいでしょう)。なんか、その幸運の訪れ方が「急に巨大な何かが降ってきた」的な、唐突感溢れる感じが好きです。
メグミは、転生後に手に入れた「幸福」という能力(これを「チート」だの「スキル」だの呼んでいないのも好感が持てます)を活かして、フェーベンクロー公国、モリアーナ帝国、イポロークなどの諸国を旅します。これが……なんというか、あの有名な時代劇っぽいんですよね。一話完結の勧善懲悪もの、といった感じです。ドラゴンのピーちゃんを見せるとみんな恐れ入るところとか、あと、やんちゃな2人組のお供とか(この2人はきっと、メグミの「左」と「右」とについてお供していたんだろうな、という絵が想像できます)。
勧善懲悪ものには悪者がつきものなんですが、これがまた、悪いんです。みんな。先般「安心して読める」と書いたのですが、このへんの展開はハードです。ただもちろん、彼らにも「人が死にません」ルールは適用されています。彼らのその後の様子はあまり描かれていませんが、おそらく以前よりも良い生き方になったのでしょう……そう、彼らも「幸福」になったのです。
メグミの「幸福」は、決して自分だけが幸福になる、ということを許さないようにできています。その証拠に、仲間が危機に陥ったときには、泣いて救いを求めます。その根底には「自分だけが幸福になっても、それは幸福ではない」というメグミが持っている「優しさ」があると思います。
本当の「優しさのファンタジー」に出会えたことに感謝します!
本作はユニークな異世界転生ファンタジー作品です。
日本人が一度死亡して異世界へと行くファンタジー作品は、無数にあります。
そして、そのタイミングで超人的なチートをもらえるという作品も、無数にあります。
さらには、そのチートが幸運値という設定の作品も、数多くあります。
ですが本作は、そのうえで珍しさのある作品だと思いました。
他の異世界転移転生ファンタジーと違うのは、その幸運チートが決して自己中心的なものではないという点です。
チートならではの爽快感は十分にありつつも、俺TUEEEを読者に見せつけ続けることが主にはなっていません。主人公メグミが、行く先々でその能力をもって問題解決をおこない、その地の者たちが幸せを享受していくことが主となっていて、とても優しい空気が作品から溢れています。
パートナーとなるドラゴンのピーちゃんも可愛く、その他脇役さんたちも癒し系が揃っています。
読むと自然と笑顔になれる、そんな良作だと思います。
きっと、読者も主人公の幸運によって幸せにさせられる一人になるのではないでしょうか。
ちょっとびっくりするほど不幸だったひとりの女性。
彼女が不遇のピタゴラスイッチで、あわや列車に――というとき、剣と魔法、精霊と竜の世界に召喚されていたのです。
元の世界と違っているところ? それは、外見もだけれど、なぜだかとっても幸運に愛されるようになっていたこと。この引き寄せ力(?)が、彼女の旅をぐいぐいとひっぱっていきます。
幸運の設定で面白いなと思ったのは、偶然が連鎖して働くところ。「ふふっ」と笑えますし、この「偶然感」があることで、メグミちゃんの(幸運以外の)ふつうっぽさが強調されているのかもしれませんね。
忘れちゃいけない、相棒のピーちゃん。ぴーぴー寝息を立てる小ドラゴンなんて、かわいい以外のなにものでもありません。
優しい気分で読めますが、世界観がしっかりしているところも、安心して読める秘訣かも。おすすめします。