第3話 ハルルク=ナトリアル
広大な大地、各所に点在する島々。
それをさらに広大な海が囲んでいるのが、ここ。ユーリス大陸。
ただし、これはこの世界のほんの一部にすぎない。
何億年も前から噴火を繰り返し今尚その大地を広げているレスト大陸。
海の上にあり、その真下には海底に沈む都市があるミッドガル大陸。
他に、空に浮かぶマナ大陸や、全てが謎に包まれた深淵大陸がある。
この5つの大陸のあるこの世界のを、俺たちはレギア世界と呼んでいる。
なんでこんな言い方なのか、という疑問があると思うが、最近になって“多重世界説”を称える学者が増えてきたからだ。
なんでも、世界はいくつも縦に重なっていて、より上の世界になるほどそこに住む人や生き物の生命力?とか身体能力が高く、採れる鉱物や食材なんかが段違いにいいらしい。
構造としてはちょうど、大きいビルみたいなイメージかな?まあ、それはいい。
で、どうしてそんな説が出てきたのかっていうのがこの話の本題。
僕の聞いた話によると、レスト大陸のアスガルドってところが未知の生物?だかなんだかに襲われてて、もうだめだって思ってたところに、朱色の髪の女の人とどこからか現れた黒髪の男の人があっという間に倒しちゃったらしくて、しかもその時壊滅的だったアスガルドが気付いたら元どおりになってたらしい。
本当にそんなことはじめからなかったみたいに元どおりだったから、あれは夢か何かじゃなかろうかという人もいるくらいだけど、はじめから戦闘に参加せずに生き残ってた人たちが口を揃えて“救世主様”なんて呼んでるから、そのことについては信憑性はあるだろうね。
なんで言い切れるかって?そんな情報があるのに僕が直接行かないわけないじゃないさ。
なんて、たまたま隣のエルフの樹海に用事があったから見に行っただけなんだけどね。まあ、それはいいとして。
この出来事がどうして研究者の耳に入ったのか。そしてそれがどうしてこんなに早く世界的に提唱されることになったのかだけど、理由として考えられることは2つ。
まず1つ目──この世界には朱色の髪も黒髪の髪も男女関係なく居ないから。ちなみに、多くは白か緑でたまに黄金色。
そして次の2つ目が、大きな問題となっている。
それは2人の戦闘方法だった。
詳しくは誰も見てないからわからないってことみたいだけど、それでも一瞬で現れたり気がついたら空中に移動したり、武器を持って居てあっという間に倒したかと思えばまた消えていくなんてことは、このレギア世界ではありえない。
となると、もう別の世界からきたんでしょう。ということになる。そうでなければ説明が出来ないと、学者は騒いでいるらしい。
世界が階層になっていると考えられたのは、おそらくこの世界の技術では宇宙の呼ばれる空間より上に行くことも、地の底まで潜ることもできていないから、未知の領域にその世界はあるのだという考え方だ。
こじつけ感が凄いなって思ってしまうけど、僕は学者じゃないからその辺はいいかな。
え?じゃあ僕は何をしているか?
そういえばまだ言ってなかったけど、僕はハルルク=ナトリアル。十族の一つ、獣精霊族の出だよ。獣精霊族っていうのは、一言で言うと、精霊族と獣族のハーフなんだ。
ちなみに十族って言うのは、人族、獣族、精霊族、魔族と、そのハーフ達の事を言うよ。獣人族、精霊人族、魔人族、獣精霊族、魔獣族、魔精霊族の十族ね。
あと、僕は世界を旅する情報屋をしてる。
僕の知らない情報この世に存在しないのさっ!って言えるように、今は頑張ってるんだけど、さすがに多重世界線を全部変えるのは骨が折れそうだね……。
「よしっ。これで、もしも僕が今引っ張りだこの有名族だったらシミュレーションは終わりっ!」
鏡を見ながら自分を褒める。偉そうに解説しといてなんだけど、人前に出るとほんとに声出ないの。あれは無理。緊張しちゃう。
なんて、情報を得るとかはそんなこと忘れちゃってるんだけどね。
「さて、今日のレギア世界では、何が起きているんでしょうか!」
そう言って、元気に外へと歩き出す。
後に、レギア世界を救う者の1人になることは、この時の僕の頭には1ミリも入っていなかった。
経験値ゼロの召喚士 NAG @naymya
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