朝:廊下

 鞄に突っ込んでおいた、よれよれの制服に着替えて、ホテルから直行で学校に行くと……もう望月は、綺麗に制服に着替えて、女生徒達と笑って、廊下を歩いていた。

 無論、俺には一瞥もくれない。

 

 わざとらしく口元に手を添えて笑って、楽しそうに、みんなと歓談を続けている。

 夜の公園で煙草をふかし、皮肉気に笑って、生意気な口を聞く姿は……想像もできない。

 

「月は無慈悲な夜の女王……いや、違う」

 

 誰にともなく、そう一人で呟いて、俺も教室に向う。

 そうしている間にも、望月の周囲には人がたかってくる。


「高き館の主、か」


 名前も知らない連中をみて、まるで蝿みたいだなと、他人事のように思った。

 

「……俺も同じだったな」

 

 自嘲の笑みは思ったよりも深く、俺の顔に刻まれていた。

 また夜が来る。

 それまでは、俺もせいぜい笑っていよう。

 

 月は日が当たらなければ、顔も出せないのだから。

  

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ベルゼブブ うみぜり@水底で眠る。 @live_in_sink

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