深夜~早朝:ラブホテル
格安ラブホテルの一室。
交替でシャワーを浴びてすぐ、俺と望月は二人で缶ビールを飲みながら、並んでソファに腰掛けて……子供向けアニメの長編映画を見ていた。
最近のラブホテルは良く分からないサービスが一杯ある。
この前は、二人で一晩中、対戦パズルゲームをやっていた。
「あははは! ねぇ、今の見た!? 宮野君!」
子供向けにデフォルメされたキャラクターが、画面上で飛んだり跳ねたりするたびに、望月は楽しそうに笑う。
俺は溜息を吐きながら、ただただいつも通りに返事を返す。
「見てる、見てるよ」
「可愛いよね、あの二頭身が何ともいえないというかさー!」
「わかった、わかったから黙って見てろ。初めてなんだろ」
それは、俺からすれば、子供の頃から、何度も見たアニメだった。
この長編映画も、地上波放送で何度も再放送されているし、世間じゃ名作扱いの有名な作品だ。
だから、みんな当然見ている物だと、俺は思っていた。
だが、望月は……今まで、一度も、見たことが無かったそうだ。
というか、小さなころから、ほとんどテレビを見れなかったらしい。
なんで、とは聞かなかった。
何故なら望月は、家の事は、殆ど語ろうとしないからである。
理由なんて、こうやって夜遊びの上、家にも帰らず、不良少年とラブホテルにシケ込んでる時点で……察するに余りある。
初鑑賞を邪魔するのは忍びないので、俺はなるべく黙って見ているのだが、望月は何かにつけて泣いたり笑ったりしながら、俺の身体を引っ叩き、それはもう楽しそうに鑑賞を続けた。
そして、エンドロールが終わるころには。
「……はぁ、凄く面白かったね。宮野君」
望月は、やはり、楽しそうに笑って……微かに目端に涙を浮かべながら、そう言うのである。
まるで、今になって、幼少時代を取り戻すかのように。
……もっとも、コイツの幼少時代なんて、俺には知る由もないわけだが。
「もう寝よっか」
そういって、今日もぽいぽいと服を脱ぎ散らかして、下着姿でベッドに潜り込む。
無論、ベッドは一つしかない。
「ほんとさ……お前、誰にでもこんな事してると、いつか手酷く犯されるぞ」
溜息を吐いて、流石に自分でも赤くなっているのがわかる顔を、片手で覆う。
そして、その度に望月は、くすりと笑うのだ。
「流石に誰とでもこんなところまでは来ないわよ。宮野君だけ。そして、クソ童貞の宮野君には……私に何かする度胸なんて、あるわけないでしょ?」
忌々しげに、舌打ちする。
「……全くだ」
だから、俺は今日も、ソファで横になる。
ただ、いつも通りに。
「おやすみ、宮野君」
「おやすみ、望月」
********************
翌朝。
目覚めると、もう望月はいない。
いつもの事だ。
アイツはいつも先に出ていく。
飲食やら煙草は奢らせる癖に、律儀にホテル代だけは……きっちり半額だけ、テーブルの上において。
おまけに今日は、ちょっと前に貸した小説まで、横に置いてある。
金をポケットに突っ込み、小説を手に取ったところで……若干の違和感に、眉を顰める。
また、何かしやがったか望月の奴……と、思いながら、小説を開いてみると、すぐに、その違和感の正体には気付けた。
「……これ、新品じゃねぇか」
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