深夜:公園

 望月の分の煙草も買って、二人で、小さな公園のベンチに座る。

 流石に望月が買うのは顔的に若干難しいが、見るからに不良の俺が買う分には然程問題でもない。

 年齢認証で止められた事がない面構えとタッパは、こういう時に幸いと言えば幸いだった。

 マイナー銘柄の洋モクを二人で吸いながら、ぼんやりと、月を見て過ごす。

 今更気付いたが、今日は満月だった。

 

「月が綺麗ね、宮野君」

 

 思わず、俺は苦笑いを漏らす。

 

「文学少年相手と知っていうんだから、本当にひでぇ台詞だな」

「そこで耳の一つも赤く出来ないから、宮野君は宮野君なのよ」

 

 望月も、嘲弄するように笑った。

 終春に散る、遅咲きの夜桜が、ただ夜風に舞った。

 

「なぁ、望月。大学……どこ受けんだ?」

「東大」

 

 即答だった。

 

「ふふ、ごめんね、宮野君。同じ大学にはいけなくて」

「別に期待しちゃいねぇよ」

「あら、それは残念」

 

 口先だけでそういって、また紫煙を燻らせる。

 空へと舞いあがった紫煙は、そのまま月に掛かって消えた。

 

「大丈夫なのか……なんて、それこそ愚問か。だから、こう聞きなおす……どうして、東大なんだ?」

 

 言わずと知れた最高学府。

 卒業はともかく、入学するまでなら間違いなく本邦最難関の狭き赤門。

 確かに、箔を付けるってんなら、日本国内なら、これ以上ない選択だろう。

 だが、学校での「望月あかり」というキャラクターの選ぶ選択肢とは、到底言い難い。

 

 それでも、望月はただ、可笑しそうに笑うだけで。

 

「簡単な話よ。宮野君」

 

 何でもない様に、俺に答えた。

 

「勉強できなかった女の子が、努力の末に東大を目指して……ついには念願かなって、東大に合格する」

 

 どこか、自嘲の笑みを浮かべながら。


「いかにも、世間の皆さんが好みそうな……劇的で、素敵なシチュエーションだと思わない?」

 

 ただ、ただ、望月は笑う。

 

「あと、私が好意を寄せてた先輩が、東大にいるのよね。その先輩に会いたくて東大を目指しました!! なんて、ほら、頑張ってる私アピールできてて、一石二鳥……いやいや、東大でさらに先輩と結ばれて、そのまま東大卒の高級官僚もしくはエリート企業戦士の妻になれると思えば……一石三鳥ってところかしら?」


 指先をくるくると回しながら、得意気に語る。

 それに合わせて、煙が揺れる。

 揺れた煙は、また天へと上り、ついには消える。

 それが、繰り返される。

 望月の手の中で。

 それでも、望月は、どこか名残惜しそうな顔で。

 

「だからまぁ……先輩とキスをする段になる頃には、これともお別れね」

 

 煙草の煙を見つめながら……ただ、そう呟いた。

 

「それとも、宮野君も……東大まで、私を追いかけてきてくれる?」

「出来る訳ないってわかって言ってんだろ、それ」 

「ふふふ、勿論よ。さて……そろそろ良い時間になってきたわね」


 パッと立ち上がって、ぐっと伸びをしながら、望月は振り返る。

 そして、いつものように。何でもない様に


「ホテルいこっか。宮野君」

 

 あっさりと、俺にそう言った。 

 

 

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