深夜:河川敷

 ラーメン屋で会計を済まして(当然のように俺の奢りだ)、今度は深夜の河川敷を歩く。

 目下、条例違反者の非行少年&少女の二人組には、表通りよりこちらの方が都合が良い。

 点々と続く街灯の光に導かれながら、二人で少し遠くのコンビニに向う。

 今吸ってる煙草は、そこにしか売ってないからだ。

 

「私ね、学校じゃ、ああしてないと、生きていられないのよ」

 

 綺麗な黒髪を揺らして、俺の少し前を歩きながら、望月は語る。

 

「女の子社会って面倒くさいの。平均以下じゃ勿論だめ。でも平均以上も、やっぱりだめ。可愛くて勉強もできて男の子にもモテて……なんて、生意気でしょ?」

「同意を求められても困る」

「あら? そうかしら? 男の子社会だって、似たようなものだったんじゃないの?」

 

 くすりと、望月は意地悪く笑って。


「ねぇ? 同調圧力で陸上部に入ってた、文学少年宮野君」

 

 あっさりと、俺の急所を突いてくる。

 こうなってしまうと、最早、俺に出来る事は……忌々しげに、舌打ちする事だけだ。


 実際、望月の言う事は、何も間違っていない。

 本当に好きな事よりも、世間の期待を優先した。

 確かに、高跳びは得意だった。

 でも、別に好きじゃなかったし、熱意もなかった。

 だけど、周りが「宮野ならできる!」なんて囃すから、渋々続けた。

 

 結果、潰れた。

 たった、それだけの話だ。 


 そんな、昔話で渋面を作っている俺に振り返った望月は、満足そうに……嬉しそうに、可憐に笑った。


「いつも、言ってるじゃない。だから私は、情けなくて、いくじなしの宮野君を選んでるのよ」

 

 いつも通りの台詞。

 いつも通りの甘え。

 だから、いつも通りに……返してやるしかない。


「誰にでも、お前はそういうんだろ」

 

 やっぱり、望月は……くすりと笑った。


「それが分かるんだから、宮野君は楽でいいわ」

 

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