深夜:ラーメン屋

 あの屋上での一件以来、俺は、ずっとこの性悪副会長に振り回されている。

 

 やれ、煙草買って来いだの、やれ、パチンコを教えろだの、やれ、夜遊びに付き合えだの……やれ、面白い小説は何だの。

 そのくせ、学校では、屋上以外で一切話し掛けてこない。

 曰く、「普段の学校の私は宮野君を怖がるから」、だそうだ。

 大した面の皮の厚さだ。

 

「うーん、やっぱり深夜のラーメンって格別ね」

 

 人の事をファミレスで待たせておきながら、驚くことにこの女は水だけ飲んで何も頼まず外にでて……その上、今はこうして24時間営業のラーメンチェーン店で舌鼓を打っている。

 しかも、食っているのは濃厚スープで太麺のガッツリ系だ。

 並盛でも200gあるそれを、特盛400gでガツガツと喰らっている。

 勿論、俺は200gでギブアップだ。

 

「良く喰うな、お前は……」

「食い溜めしてるのよ。宮野君みたいな強面男子を連れないと、深夜のラーメンなんて贅沢品は食べられないわ。特に私みたいな可憐な女子高生なら、尚の事ね。いうなれば、これは危険な樹海の奥にある魅惑の果実。そして、アナタは私をサポートする屈強な護衛ってところね」

 

 恐ろしい速度でラーメンを食べ終え、スープまで完飲するが、シルエットにまるで変化がない。

 まぁ、多少あったところで、胸のせいで頂点が若干盛り上がったシャツの下の話だ。

 今の俺には関係ない。

 

「そういう宮野君は、全然食べないのね。不良の癖に草食気取り?」

「元々俺はそんなにくわねーんだよ。それだって、200g食えてんだから及第点だろうが」

 

 ぶちぶちと文句を言いながら、伸び始めたラーメンをすする。

 

「そういう望月は、必要以上にかっ喰らうんだな。全部胸とかケツにいってんのか?」

「だったら、とっても素敵なんだけどねぇ」

 

 そういって、もう十分あるだろう胸とケツをそれぞれ見返す。

 セクハラの応酬も梨の礫じゃ、もう処置なしだ。

 

「まぁ、多分、ここかな。ラーメンってほとんど糖質だし」

 

 そう、上目使いに天井を見上げながら……額に指をさす。

 言わんとする事は分かる。

 体内臓器で最もな器官は、まさにそこだ。

 

「受験勉強って、覚える事多くて面倒臭いのよね。そのくせ、大半が人生で今後使うかどうか、かなり怪しい知識だし」

「……そういえば、望月は推薦じゃないんだっけか」

「当たり前じゃない。私の成績だと推薦で行ける大学なんて、たかが知れてるもの」

 

 そういって、楽しそうに笑った。

 学校での望月の成績は、前述の通り良くない。

  

 しかし、最近分かったことがある。

 こいつ、別に勉強が出来ないわけじゃない。

 ……わざと、成績を落としているのだ。

 

「別にそれなら、普段から勉強しっかりやりゃいいじゃねぇか。お前だったら、簡単な事だったろうに」

「馬鹿ね、宮野君。そんな事、できるわけないでしょ」

 

 中ジョッキのビールを飲み干してから、望月は肩を竦めた。 


「私の容姿でやっちゃったら、なれないじゃない」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る