※以下、敬称略
「あの時ビルボがゴクリを殺しておけば良かったのに、情けない!」
「情けないじゃと? ビルボがゴクリを殺さなかったことこそが、その情けなのじゃ。お前さんは死者を生き返らせることができるのか? 違うのならそうせっかちに死を与えるものではないぞ」
トールキンの『指輪物語(瀬田貞二訳、評論社)』で魔法使いのガンダルフがフロドにそんなセリフを述べていた。原作からはるか後年に生まれた映画版(『ロード・オブ・ザ・リング』)ではゴクリではなくゴラムと表記されるが、その残忍で狡猾で卑小で腐敗した人格は本作に登場する敵役の一部にも当てはまる。
さて、本作では竜から一方的に慕われ困惑する主人公の少々滑稽だが真剣な留年回避(?)譚が骨格になっている。主人公の抱える真相を見せ隠ししながらも、波乱に満ちた剣(と、弟とやらの魔法)捌きで読者を飽きさせない。どうでも良いがフジツボは甲殻類であり、現実に食べようと思えば食べられる。本当にどうでも良かった。
個人的には、弟とやらがゾンビを怖がる場面が面白かった。現実社会でホラー映画など見せようものなら失神するだろう。
概ね一冊の文庫本と同じくらいの量だが、是非とも読み味わっておきた力作である。