とあるお伽話
岩清水
とあるお伽話
この世界は神や悪魔、
創造神が世界を作り、創造神が生まれた時に一緒に悪を司る神も生まれ、悪魔が生まれた。創造神が自分そっくりの人間達を生み、悪魔達から人間を守る為に龍を作った。
その中で人間は神や守護する龍から魔術を学び、科学を産み出し、人間独自の文化を産み出し繁栄していった。
数を増やしていく人間が気に入らなかった暗黒神は、悪魔に好き勝手する許可を出した。自由に行動が出来る様にお許しを貰った悪魔達は人間を惨殺したり、誘拐したり、そそのかして殺し合うさまを見て楽しみとしていた。
それは時間が過ぎていく事に、酷さを増していった。
「うわあああああああああああ!!」
最終的に誘拐した大量の人間を使って、『人体実験』のモルモットとした。
実験体となった一人の青年が悪魔の住む誘拐された屋敷の外を出て、川に辿り着くまで走った。着いた川で水を飲もうと覗き込むと、青年の顔が映る。
自身の顔を見た青年は、驚きを感じて大声をあげた。
青年の顔は鱗だらけ。その鱗は龍の鱗そのものであり、顔以外に腕も足も見える皮膚全てに黒色の鱗が覆っていた。
人間でなくなった。それが青年の精神に大きな衝撃を投げつけた。
――――――――――――
青年は顔を隠せるほどの大きな布を被り、世界を放浪する事にした。
自分がいた国から見慣れない所に、悪魔に誘拐された。気を失って、次に起きた時は両手両足を縛られた状態でのベッドの上でだった。
メスを持った悪魔が笑う。
悪魔は青年にある実験をした。人間の体に龍の細胞を入れ、人間でもあり龍である、人間でなければ龍でもない存在を作り出そうとした。
造ったその存在を使い魔として、奴隷にしようとしたのだ。
「この化け物!!」
「粛清騎士を呼んで来い!早く!!」
青年が被っていたフードが取れる。黒い鱗で覆われた姿、そこに鮮明に輝く赤い眼、口からは鋭い牙が覗く。
龍でない、町の男が言う様に化け物だ。
只、町によって残飯でも恵んでもらおうと思っていた。悪魔の元から脱走して、数えきれない程の時間が過ぎた。空腹を紛らわす為に水を飲み、今日まで生きてきた。それでも水だけでも生きていられない程の時間が過ぎていた。
生きている。水だけでも生きている。それが自分が人間じゃなくなったと、知らしめる。
町人は無慈悲に色々な物を投げてくる。
痛い。鱗があるとしても、人間の皮膚とも変わらない。
鋭利なものまで投げられ、それが青年の肌に食い込んで傷を作る。流れる血は赤色。人間と変わらない、ヘモグロビンの色。
悔しくって、悲しくって、涙が出る。青年は直ぐにフードを被って、粛清騎士が来る前に町を出る事にした。
「大丈夫ですか?」
空腹と元々疲労で極限状態だった為か、青年は木に凭れ掛かる様に気絶していた。青年の肩を揺すり、声を掛けた人間がいた。
分からない。でも心地の良い声に青年は目を開ける。
「誰……。」
「良かった~!意識があった!!」
安堵を見せた見知らぬ少女の顔。笑顔を見せる少女の顔が、紅色の彼の目に鮮やかに映る。
「酷い傷……。今、手当てしますね!」
彼の数ある傷を見たのか、眉間に皺を寄せて触ろうとする。青年は、伸ばされる少女の腕を叩き落とした。
青年の行動に、少女は傷から青年の顔に目を向けた。
「何やってるんだよ!!」
「え、傷の手当ですよ。このままでは、化膿してしまう。」
「良いよ、別に化膿しても。悪魔に実験されて人間じゃ無くなった僕は、このまま死んだ方が良い。君は良く、こんな鱗塗れの醜い僕に優しく出来るね……?何?偽善?……町の人は僕の顔を見ただけで『化け物』って言った。襲ってもいないのにね。」
気絶する前に寄った町を思い出して、怒り、悲しみ、悔しさ、その他諸々の感情が出てくる。
今日だけで無かった。『化け物』と呼ばれて、石や包丁を投げられる事も棍棒で殴られる事も、剣で切られる事も。
身体中に傷が出来た。化膿して腐っている所もある。
自分自身でも自虐して笑ってしまう程、以前の自分よりも醜くなっていた。
「……分かっていますよ。これが欲しかったんですよね?」
少女は青年に1個の林檎を渡す。
「お腹……空いてたんですよね?これ、あげますし、傷の手当をしましょう?このままじゃ、貴方は死んでしまう。死んで欲しくない。」
名も何も知らない少女が、悲しそうに眉を八の字に下げる。
だが、青年にとって少女の行為は何か裏がありそうで、怖かった。恐ろしかった。
そんな彼女に対して、青年は無意識に雷を落とした。落雷の轟音が耳に入った瞬間、自分が何をしたのか、知った。
魔術を以前から身につけていた自分では、有り得ない程の魔力。大地を真っ二つにしてしまいそうな雷が、少女の上に逃れる術を失す様に落ちた。
青年は願った。どうか無事であってくれ!と。だが、どう考えても、生きている事の方が有り得ない状況だ。
「貴方……凄いね!何処で覚えたの?この魔術!!」
雷によって生み出された砂煙から、少女が姿を現す。スカートについた土を払いながら、興奮した様に口を開く。
生きている。無意識の内に青年は安堵した。生きている事が不思議であったし、何よりも、少女の皮膚からさっきの青年が出した雷が吸い込まれていく事が、彼に驚きを与えた。
「私もね、悪魔に実験材料にされたんだ~。魔力の吸収。相手の攻撃魔法や体力、力、全てを自分のモノに変える。ある意味、生きているだけで色んな生き物を殺しちゃうんだ……。だから、正直に言うと君に同情したんだ。あ、自分と同じなんだって。」
木に寄り掛かっている青年に歩み寄り、手を差し伸べた。
「私は”メア”。貴方の名前は?」
「……”ラグナリオ”。」
「ラグナリオ……。カッコイイ名前!!さあ、早く怪我を手当しよう!!それと、私の家に来なよ!」
少女は花が咲いたような、美しくも愛らしい笑顔を青年に見せた。青年は、少女の手を取る。
これはとある一族のオリジンである──『ラグナリオ』と、彼が唯一愛し、唯一彼の隣にいられた少女──『メア』とのお伽話。
とあるお伽話 岩清水 @iwasimizu
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