第5話「前日」

第5話「前日」


修学旅行が近づいてくる。そのためか、クラスの雰囲気も良くなっており、賑やかがいつもより増していく。


ましてや、今日が修学旅行の前日ともなれば尚更だろう。あと1回寝たら修学旅行。ただそれだけで頑張ろうと思える。楽しみのためなら何だって出来る気分だった。


僕たちの高校の修学旅行は、グループ行動の時間と自由行動の時間の2種類が設けられている。グループは男女混合で計4人。僕は力也、春菜、そして石垣と同じ班となった。


僕と力也、春菜が同じ班になろうとしており、それは成功した。だが、4人目に石垣が入ったのは予想外。なんと、春菜と石垣は仲が良かったようだ。


「知らなかったの?よく話すし、たまに一緒に遊んだりもするよ?」


春菜にそう言われるが、全く知らなかった。そっと力也の方を向いたが、力也も知らなかったようだ。まあ、別に嫌ではないし、嫌いでもない。だから歓迎だった。


ただ、僕はこの前のことがあった。だから怖い。石垣は僕がオオカミ人間だということを知っている可能性がある。確信もないし、勘違いかもしれない。疑うのは悪いと思っているが、それでも1%でも可能性があるのは嫌でもある。慎重にいかなければ・・・。


しかし、普通は気付いたら誰かに言いふらすものだと思っていたが、僕の噂は耳にしないし、怯えられている様子もない。やはり、僕の勘違いだったのだろうか。


「どうした?何か考え事か?」


「え?ああ、いや。まあ、そんなところかな。」


力也には僕が何か考えていることが分かったようだ。だが、内容までは分からないだろう。僕の悩みは誰にも分からない。バケモノとして生きている、僕のことは誰にも・・・。


「そうか。何か俺に出来ることあれば言ってくれよな。力になるぜ。」


「ああ、ありがとう。」


力になる・・・か。普通の悩みなら相談するんだけどな。


僕の悩みは誰にも相談はできない。知られてはいけないのだから。


「んじゃ、早速グループ行動の時間に、どうやって回るか決めようぜ。」


「そうだね。決めちゃおう!」


力也と春菜は元気そうだ。いつも元気で、ムードメーカーとしては適切なのだろう。僕は、この2人によって楽しい高校生活を送れているのだろう。


それに対して、石垣はあまり楽しそうではない。いや、楽しいのかもしれない。表情に出ないだけであり、感情表現が苦手なのかもしれない。僕は石垣にオオカミ人間だと知られている可能性があり、苦手意識があるようだ。


だが、それは食わず嫌いと同じだ。僕は知っているはずだ。石垣が本当はしっかりした人間だということを。礼儀正しくて、とても良い子なんだ。


知られているから何だ。それは確信ではないし、可能性だ。それに、もし知られていても、周りに話してはいないのだ。僕に危害はない。


知っていこう。関わっていこう。折角同じグループになったんだ。仲良くなろう。友達は多い方が楽しいに決まっている。中学の時、失敗した経験。もう、二度と同じ過ちは繰り返さない。そう決めたのだから。


「石垣はどこか行きたいところはある?」


「え?ああ・・・えっと・・・。」


そうだ。関わっていこう。最高の思い出を作るためにも。


思い出は、自分で作るもの。なら、自分から積極的に作っていこう。それが、自分の信じる道だ。


僕は、何を望む?もし、前みたいな失態を犯すかもしれない。


それでも・・・それでも。


僕が、自分から前に進まないと欲しいものは掴めない。


なら、進もう。僕が信じた道を。


そのためにも、まずは石垣と関わろう。恐れるな。前に進め。


前に・・・前に進め。









☆☆☆









家に帰ると、母がおかえりと言ってくれた。


「うん、ただいま。」


母は、僕がそう言うと、僕のことを強く抱きしめた。


「え・・・どうしたの?」


母は今すぐにでも泣きそうだ。


「いいの?また、あの時みたいに、悲しい思いしない?」


あの時。それはきっと、中学の時の過ち。満月の日と修学旅行がかぶってしまい、僕がオオカミに変身してしまった、あの時。


あの時の僕は弱かった。何も知らず、満月の日がいつなのか全く調べず、結果、幸せを失った。


でも、今は違う。しっかり調べた。満月とは被らない。だから、大丈夫のはずだ。


「うん、いいんだ。今の僕は大丈夫。今の大切な友達と共に、楽しみたいんだ。」


「そう・・・分かった。でも、無理はしちゃダメだからね。何かあったら、すぐ連絡してきなさい。」


「分かった。ありがとう、母さん。」


心配してくれる、母。もう、迷惑はかけられない。


大丈夫。掴みにいこう。今の僕なら、大丈夫。


大切な友達を失うかもしれない。


でも、それでも。


進まないと、何も変わらない。


僕が信じた道を進もう。


この先どうなるか分からない。


答えを知っているのは、未来の僕だけ。


進めるのは、ただ一つの道だけ。引き返すことは、もう出来なくなる。


それでもいい。いいんだ。


この先、僕が望む未来があるのなら・・・・・・









☆☆☆









また、夢だ。


目の前に、二つの道。


どちらを進もうか。


進んだら引き返せない。


この答えを知っているのは、未来の自分。


なら、信じた道を進もう。


それがきっと、最高の未来になると信じて。









『本当に、それでよかったんだね?』









★★★









次回予告


足音は、過去からの囁き。


見えるのは、あの時の自分。


差し伸べられるのは、光り輝く友の手。


次回、“月の光に照らされて”第6話「道のり」


選んだ道は、正解だったの?

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月の光に照らされて ポルンガ @polunga

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