第3話 半透明の正体と少女の使命
「キョエエエエエエ!」
な、なんでメガネを戻したのに声が聞こえるんだ? 予想外の展開になった俺は更にパニックになった。怖くて後ろを振り向けない。そうしてまだ一歩も足を動かせていなかった。
未知の恐怖が重りのようにじっとりと体にまとわりついている。やべぇ、俺、もしかしてこのまま――。
「行くよっ!」
少女に肩を担がれ、俺は間一髪でバケモノの攻撃からの離脱に成功する。彼女のSF的な服装はマジモンだったようで、その服の装備のジェットパックで俺達は空を飛んでいた。空想科学読本的な説明で言えば、絶対に空を飛べなさそうな腰についた小さな噴射口から出る出力のジェットでだ。
上空から改めて化け物の姿を見ると大きさは更に大きくなっており、大体倍の大きさの20メートル以上にはなっている。
「嘘……だろ?」
この状況に俺が口に出せたのはこの一言だけだ。この言葉にはメガネを変えたのに見えてしまっている嘘だろ? と、バケモノが大きく成長してしまっている事に対しての嘘だろ? と、これだけ巨大なバケモノがすごい機敏に動き回ってるのに周囲が全く騒いでいないって言う事への嘘だろ? の3つの意味が混在していた。
「ゴメンね、巻き込んじゃって」
今更ながらに少女が俺に謝罪する。空中に逃げた事で少し安心した俺はここで改めて彼女に質問した。
「君は一体……」
「私はリリム、次元捜査官。アイツを追いかけていたの」
「えっと……」
この言葉、普段の俺だったら100%信じなかっただろう。
けれど、状況が状況なだけに100%信じるしかなかった。
「アイツは一体……」
「集合霊体2013号。元々は私の世界にいた浮遊霊体」
「え?」
リリムの言葉を俺は真顔で聞き返す。あのバケモノは最初から俺の世界のものじゃなかった? もっと詳しく聞かねばと思った俺は前のめりに質問を返した。
「アイツはどうしてこの世界に?」
「私はアイツを追い詰めた。そうしたらバラバラになってこの世界に逃げ込まれてしまったの」
「じゃあ、今の姿が本来の姿だと?」
俺の質問に彼女はこくんとうなずく。つまり、この状況を生み出したのもリリムのせいらしい。そりゃ謝罪もするか。
「でもあんな大きいのをどうやって……」
「今度こそ一発で仕留める」
彼女はいつの間にか手にしていた昔のSFで見るような可愛らしい銃を構えると、バケモノに狙いを定める。的がアレだけ大きいのだからまず外す事はないだろう。
けれど、仕留めたとして爆発とかはしないのだろうか? ゲームのモンスターみたいに自然消滅してくれるなら有り難いんだけど。
「あのさ、それって……」
「黙って! 気が散る!」
俺の質問は彼女の気迫に打ち消される。次の瞬間、彼女の銃はキュルルルルーンと言う謎の音を立ててカラフルな光を解き放った。うわあ、なんてメルヒェン。
「ひゃああんっ」
カラフルな光を浴びたバケモノは何とも形容し難いような叫び声を上げて――無数の小さな半透明の浮遊体になって飛び散った。うんんんんんん?
「あ……」
「なあ、これって……」
「てへ、間違えちゃった」
どうやらさっきの攻撃は消滅させる光線ではなく、分裂させる光線だったらしい。無数に飛び散ったその半透明を俺のメガネが可視化する事はもうなかった。
「これから君はどうするんだ?」
「私は飛び散った霊体をひとつずつ処分するよ」
「そっか……じゃあ元気で」
「うん、じゃあね」
リリムは最後に別れの挨拶を交わすと、幻のようにスーッと消えていった。きっとその言葉通りに自分がやらかした半透明を退治しに行ったのだろう。
ただ、あのドジっぷりから考えるとそんな簡単には行かない気がする。
俺はいつの間にか染まり始めた夕日を眺めながら、彼女の奮戦を勝手に思い描いてひとりクスクスと笑うのだった。
その眼鏡は不可視なものを映し、やがて俺は途方にくれる にゃべ♪ @nyabech2016
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
スキマニュース日記最新/にゃべ♪
★80 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2,861話
日刊ネットDE小ネタ(不定期)/にゃべ♪
★69 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2,213話
日々徒然カクヨム日記/にゃべ♪
★305 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1,013話
日々徒然趣味日記/にゃべ♪
★45 エッセイ・ノンフィクション 連載中 963話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます