第5話 炎

「スライムっていうのは剣を振るうだけでは殺せない。バラバラにしてもそこからくっついて再生するだけだ」


ようやく体力が戻ってきた私に対し、ヨーフが私の周りをうざったらしい程のドヤ顔をしつつ、周回するようにゆっくり飛び回っていた。

キツネは続ける。


「故に、魔法で一気に焼き去るか、再生不能なまで微塵切りにするのが得策だ。例えばこのように……」


そういうとヨーフは空中で静止し、近くに沸いた(スポーン)したスライムめがけて、口から火を噴く。


それは50センチほどの体からは想像できない程の、それこそ業火と言って差し支えない程の猛火だった。


5メートル先のスライムを中心として、半径3メートルほどの範囲までに、円柱状の炎が広がる。


私は発生源の真横にいるにもかかわらず、不思議と熱さは感じなかった。


全てを焼き尽くす業火による煙が晴れると、そこには早速スライムなんて存在しなかった。

それどころ草すら跡形もなくなっており、土のみ残っていた。


「こうすれば向こうも再生はできない。これぞ裏の世界が誇る魔法の力だ。ハッハハハハハ」

惡の化身の様な笑い声をヨーフは上げる。


「お前も気づいていると思うが、これは自然現象ではなく、あくまで魔法だ。だからお前が真横に居ようとも、熱さを感じることもないし、着弾地点で延焼する事もない」

「……質問ですが、魔法ってどうやって使うのですか」

「簡単だ。やろうと思えば、やれる。それまでの事だ」

「簡単に言ってくれますね」

「表の世界から来たものには確かに分かりずらいであろう。だが、ここは裏の世界、表の世界の物理法則など適用できないのだ。さっき吾輩が放った炎を見て、『火を起こす』というイメージを脳内でしてみるがよい」

「『火を起こす』……」


ヨーフに言われるがまま、私は頭の中で自分の指先に火が灯るイメージをする。


しばらくすると、イメージと同じように、マッチほどの火が指の中でともされた。

すぐさまその小さい灯は消えてしまったが、私を驚かすには十分すぎた。


私は思わず声を上げて、腰を抜かしていた。

びっくりしてヨーフを見ると、「どうだ、簡単だろう」と言わんばかりのドヤ顔で私を見ていた。


「……火を起こすのは、この世界で魔法を使用する上での基本中の基本だ。なにより一番理解しやすいからな。『火』を起こすのに必要なものは何か分かるか?」

「燃料と可燃物と火種……だったかな?」

学校で覚えて科学の基礎を私が言うと、ヨーフは満足げにうなずく。


「その通り、魔法の基礎も同じように、燃料と火種だ。この場合可燃物と燃料は同じ、エーテルから生み出される」

「エーテル?」

「表の言葉で第五元素とでもいおうか。この世界は火、水、風、土の四元素を万物の基として、エーテルという第五元素にて支えられている。この辺りは難しいから後々話すとして、エーテルは燃料と考えればいい」


「……つまり、四元素を火種に。今回の場合は「火」を火種に、エーテル?とやらを注ぎ込む感じですか?」

私は表の世界の物理をベースにこの結論に至った。


「その通りだ。四元素は殆どの場合、さっきみたいに『念じる』だけで発生する。ただし個人差はいっぱいあるがな。人によっては火が強く、人によっては水が強かったり……吾輩の場合は……火だ!!」

ちょっとため込んで、ヨーフはドヤ顔で叫ぶ。


「とまあ、こんな感じで、とにかく試してみろ」

「はあ」

そういってヨーフは尻尾で、先ほど沸いたスライムを指さす。


◇◇◇


私は先ほどのヨーフの解説に従い、試してみる事にした。


まずは火種。

火を灯す様なイメージをすると、先ほどの様な火の粉が指先に発生した。


次はこれに燃料を注ぎ込むようなイメージ……。


とりあえず指先をスライムの方に向け、体のエネルギー?を注ぎ込むようなイメージをする。


すると瞬く間にヨーフを上回る、とんでもない規模の炎が発生した。


その範囲はスライムなんてどこへやら、視界を埋め尽くすほどの軽く30メートル四方の炎が立ち上がった。


あれ?思ったよりも簡単?


こんな感じですか、とヨーフの方へ振り向くが、何か様子がおかしい。


「ヨーフ様?ヨーフ様―?」

私は呼びかけるが無反応。


目を見開いたまま、その細長い口が開いたまま塞がってない上に、完全にこちらの呼びかけが聞こえてないのだ。


そこから「うっ、うむ、そんな感じだな。まだまだ吾輩には及ばぬがっ。はっ……ははは……」と、少々引きつった答えを返すまでしばらくかかった。

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