終末世界を作る方法論

ちびまるフォイ

終末、いそがしいですか?

「みなさん、そろそろ世界を終末化させたいと思います」


「どうしたんですか教授」


新生活も落ち着いたころ、大学の授業でとった「終末論」という講義。

参加者わずか4名の講義にも関わらず教授は嬉しそうだった。


「生徒の自主性を養うとともに、

 講義のネタが尽きた私の体力温存もかねて、

 みなさんで自分なりの終末世界を作り上げてください」


小学校の遠足で配布されそうな「旅のしおり」ライクな冊子を渡され、

生徒4名は自分たちなりに世界を終末化させることにした。


1人の生徒が出来上がった終末世界を見せにやってきた。


「教授、僕は科学技術を最大限まで発展させたディストピアを作りました」


「ほほう、これはこれは……」


科学技術の発展により、すべての人間は電子回線で接続。

自分たちの行動はすべて監視され、社会システムの一部とされている。

未来もなく、意志もなく、ゾッとするほど事務的で冷たい終末世界だった。


「うんうん。現代の世界の延長線上にありそうでよい終末だ。

 インスタにアップしておこう」


「ありがとうございます」


2人目の生徒が別の終末世界を見せにやってきた。


「教授、俺はエロをメインにした終末世界を創りました」


「なに!? 今すぐ見せろ!!」


性欲のタガを外された終末世界では男女ともどもお互いを襲い合う。

子供は格好の標的とされ、文明社会をかなぐり捨てたケダモノの様相がそこにあった。

金さえあれば、人の心も体も蹂躙できてしまう恐ろしい終末。


「これは……恐ろしい終末世界だな。

 ズボン降ろした自分がちょっと恥ずかしくなってきた……」


「だったら早く履いてください」


3人目の生徒がやってきた。


「先生、私の終末こそキングオブ終末でござるよ」

「どれどれ?」


今度の終末世界では際限なき戦争の果てに待っている世界だった。

動物どころか植物も生えず、人間はげっそりとやせ細っている。

それでもなお終わらない戦争を繰り返す終末世界。


「うわ……これもなかなか辛そうだ」


「デュフフ。戦いの果てに待っている果てしない喪失感を表現したでござる」


「親が今のお前のしゃべり方を聞いたら。

 懸命な育児の果てに待っていた果てしない喪失感が得られそうだな」


教授はこれで終わりにしようかと思っていると、

最後に4人目のおとなしそうな生徒がやってきた。


「あ、あの……私の世界を見てください。動物をメインにしています……」


「動物? はは、それはさぞかわいらしい世界になっているだろうね」


教授が動物の終末世界を覗いてみると、一瞬で背筋が凍った。


すべての動物のサイズが4倍以上にも膨れ上がったその世界では、

生物の食物連鎖の最下層に人間がいて、常に捕食を恐れてびくびく過ごしている。

原始時代以上にデンジャラスな終末世界が構築されていた。


「ど、どうですか……? 私の終末は……」


「めっちゃ怖いね……」


4人の生徒はそれぞれ教授にひとしく太鼓判を押されたので、

今度は誰が一番終末かどうかをもめ始めた。


「どう考えても監視社会でプライベートゼロが辛いだろ!」

「いいや、人間性を失った世界の方がつらいに決まってる!」

「未来への希望がない荒廃世界で過ごすのが一番辛いでござるよ!」

「目が覚めたら死んでるかもしれない恐怖、考えたことある……?」


議論は白熱して、最終的に野球拳がはじまったので

教授は4人の生徒にひとつ提案をすることにした。


「それじゃ、これから終末世界パスを渡そう。

 これでどんな終末世界に行けるようになるから、

 みんなの作った世界や他の世界をいろいろ見てくるといい」


「見てきて、どうなるんですか?」


「実際に見てきて、一番終末化されていた世界を決めようじゃないか」


教授の提案に乗った4人の生徒は終末パスを持って

それぞれの世界を見て回ることにした。





戻ってくるころには、4人とも顔から生気が抜け落ちていた。


「ああ、みんなおかえり。どうだった?

 誰の終末世界が1番終末だったかは決まった?」


「はい教授。みんな全会一致でした」

「けれど、拙者たちの作った世界など赤子同然だったでござる」


「なるほど、他の終末世界も見てきたんだね。勉強になっただろう。

 それで、その世界はどんな世界だったんだい?」


「はい、そこでは衣食住すべてが制限されていて

 自分の思い通りになることなんてひとつもないんです」


1人の生徒は顔を真っ青にしながら伝えた。

人間の生活基盤を脅かすほどの終末だったのだろう。


「それにプライバシーもないんです。

 少しの誤解でも疑われ、すべて勝手に見られるんです」


2人目の生徒は歯をがちがち鳴らしながら話した。

ひどく監視と弾圧の恐ろしい終末だったのだろう。


「しかも、しかもですよ。その生活が半永久的に続くんです。

 辞めるにも簡単には辞めれないようになっていて……。

 やめることすら、今の生活以上に大変なんです」


3人目の生徒は目を血走らせていた。

現状を良くしようと立ち上がる事すら許されない終末だろう。


「そのくせ、その終末世界の入り口は華やかなのでござる。

 誰でも入れて、幸福が約束されているよう擬態されているのでござるよ」


「な、なんてことだ……!」


生徒4人が全会一致というだけあって、

あまりに地獄極まりない終末世界なのだろう。


「それで、その終末世界はなんていう世界なんだ?

 どうすれば行けるんだ? 何がメインに終末化されているんだ?」


がぜん興味を持った教授だったが生徒はみな同じ顔で顔を横に振った。


「そんなこと、教授には口が裂けても言えません!!」


「なぜだ!! どうして、なんの終末世界なのか言えないんだ!!」


なおも聞きたがる教授に生徒は全員で答えた。




「「「 だって、教授! あなた明日結婚するのでしょう!? 」」」

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