第1章

第1話「出逢い」

「うーん……何処にもコドモドラゴン居ないな……」


森の中、魔法使いの姿で杖を持った青髪の少年が呟いた。


「後一体倒して肉と角ゲットすればクエストクリア出来るんだけどな……

そもそもこの場所であってるのかな」


少年はバッグから地図を取り出す。


【ドラゴンの森】

マナフト国の北東に位置する森。

ドラゴン系モンスターが多く生息し中にはボス級モンスターも存在する危険地帯な為、ギルド所属の者以外が入る事は許されていない。


「やっぱり合ってるか……運が悪いだけか」

少年は溜息を吐き水筒の中に入っている水を飲み、歩き始める。

「もう直ぐで日も暮れるし……どうしようかな」


ゴォォォ……

「……ん?」

何処かから、ドラゴンの鳴き声が聞こえる。

近くに敵がいるのだろうか。少年は声の発生場所に向け歩き出す。

声がする方向に歩いていると、開けた平地に辿り着いた。


「……あれって、まさか」

そこに居たのは、目当てのコドモドラゴン……




……とは、かけ離れた巨大、そして燃えるような緋色のドラゴンがそこに居た。

しかし、どうやら今は寝ているようだ。

「あれ、フロガドラゴンだよな……

やばい奴見つけちゃったな……」

自分では敵わないと思った少年はそこから立ち去ろうとし、そっと忍び足で歩き出す。




ポキッ……


しかし、運悪く近くにあった木の枝を踏んでしまった。


『……ぬ?』


「……あ」








人から忘れられた、名も無き神殿。


出口は、意外と早く見つかった……が、巨大な門の外には道と言えるような道が無い。

有るのは生い茂る草木のみ。それ以外に何もなかった。

(仕方ないか……)

私は門を潜り、道無き道を歩き始める。

無数に生えている木々を避けながら考える。とりあえず道を探した方がいいかもしれない。その後は何処か人の居る場所を探そう。声が出せないから話せないけど……

まあ、なんとかなるかな。


(……うわっ!?)


考えるのと木を避けることに夢中で、足元の方を見ていなかった私は足元の石に躓きそのまま盛大に転けてしまう。

(っ……私の馬鹿……)

転けた場所から起き上がり、近くに落ちた剣も拾い上げる。

転げ落ちて土まみれになった服から土をはたき落とし、また歩き始めた。



歩き続けて、どれくらいたっただろうか。

空も朱色に染まり始めているが、未だに見渡す限り無数の木々の光景は消えない。

(このままだと、日が暮れてしまう……)

しかも何も食べていないからもうお腹もペコペコ。

食べられそうな物も何も無いし、どうすれば……


(……ん?)

何か聞こえる。地響きのような音が、微かに。

近くに誰かいるのか……いたとしたら、かなり巨大な生物だろう。

私は微かに聞こえる音を頼りに音の居場所へ向かう。

……すると、少し遠くに開けた平地が見えた。


「ギャアアアア!!誰か助けてくれえええ!!」


その瞬間、突然誰かの叫び声と地響きが大地に鳴り響く。

(え、一体何?)

突然の叫び声に驚いた私は、平地に向かい走る。


……そこで私が見たのは、杖を持った少年が巨大な緋色のドラゴンに追いかけ回されている光景だった。


『何者であろうと、我の眠りを妨げし者は始末する』


「ギャアアアア!!!まだ死にたくないぃいい!!」


少年は必死に逃げ回っているが、追いつかれるのは時間の問題だ。

(よくわかんないけど、助けてあげようかな)

私は持っていた剣を鞘から抜き取り、ドラゴンに向け構える。

(……!?)

すると、剣に埋め込まれた宝石から発されるオーラが突然滝の様に溢れ出し、私の身体を纏う。その瞬間身体が軽くなり、まるで邪神の加護を受けた様な状態になる。

『今度は誰だ、人間』

「あ、そこの君!!僕を助けてくれ!!」

余りのオーラの強さに、少年もドラゴンも私の存在に気がついてしまった。

『……まあいい。二人共々纏めて始末してくれるわ』


バサッ、バサッ……


ドラゴンが空を飛び、私達の真上に着く。


……するとドラゴンが大きく息を吸い、吐いた息が灼熱の炎と化した。


「うわぁあああ!!」


少年は慌ててその場から逃げ出した。


(っ……!)


灼熱の炎はかなりの速さでこちらに向かって来ている。


(まだこの剣の事、よく分かってないけど……


……一か八か、やるしかない!)


私は渾身の力を振り絞り、剣を灼熱の炎に向け振る。


……刹那、邪悪なオーラが剣を纏い巨大な斬撃と化した。


斬撃が灼熱の炎に衝突する。


……なんと、灼熱の炎は一瞬で消滅した。


『グハァッ!?』


斬撃は、そのままドラゴンに向かい巨大な身体を斬る。


身体を斬られたドラゴンは、そのまま地面に落下した。



(……え?)

まさかの一撃。一撃だけであんな巨大なドラゴンを倒せるなんて。

(……この剣、強すぎでしょ)

心の中で呟く。この剣もやばいが……今まで自分が何者なのか一文字も分からなかったがとにかく凄い人物だったのかもしれない。自分で言う……いや、思うのもあれかも知れないけど。

「……え、嘘でしょ!?

あのフロガドラゴンを一撃で倒すなんて!?」

今迄逃げる事しかしてなかった少年が突然私に近づいてきた。

「君って、一体何者なんだ……!?」

私の顔と目と鼻の先まで近づいてきた。私は少したじろぎ後ろに一歩下がる。

「……あ、ごめんごめん。

先に僕から名乗るね。僕は『アスル・フォード』。

さっきは助けてくれてありがとう。……で、君の名前は?」

……どうしよう。

喋れない上に名前を忘れてしまっている私は何も言えなかった。

十数秒間の沈黙が流れる。

「……あれ、もしかして……喋れない?」

流石に察したのか、アスルが言った。

「ちょっと待ってて、えっと……」

するとアスルはバックに手を入れ、何かを探し始める。

「お、あったあった」

すると、紅色の宝石が埋め込まれた腕輪を二個取り出した。

「この腕輪を右腕にはめてくれる?」

と、アスルから腕輪を一個渡された。

言われるままに私は右腕に腕輪をはめ、アスルは左腕に腕輪をはめた。


……すると突然両方の腕輪埋め込まれた紅色の宝石が光り始め、紅色の光が私たちを包んだ……かと思ったら、すぐにその光は消えた。

(今のは、一体……?)

「この腕輪の効果だよ」

(へぇ……って、え?)

突然、心の中を覗かれたような気分になった。というか覗かれた?

「この腕輪は『心の腕輪』っていってね。心に関して特殊な力を持った人……まあ、僕がそうなんだけど、特殊な力を持った人と他の人がこの腕輪を違う腕同士で付けたら、両者とも腕輪をつけた同士の相手の心を読めるようになるんだ。特殊な力を持ってない人同士でやっても意味ないし、視界の中に入ってないと心は読めないけどね」

(へ、へぇ……なるほど……)


「……で、君の名前は一体?」


(……ごめん。分からないの、名前)

「え?分からない?」

(私がどこで生まれたのか、私が何者なのかすらね)

「そうか……記憶喪失、って事?」

(……まあ、そうなるかも)


数秒間の沈黙が続く。


「……じゃあ、僕が君の名前決めてもいい?」

(え、名前?)

突然のアスルの発言に私は思わず驚く。

「あ、いや別に嫌なら嫌って言ってくれてもいいんだけど……ただ君のことをどう呼べば分からないから、君が名前を思い出すまで呼び名を決めた方がいいかなって」

(……まあ、いいけど)

「ありがとう!じゃあえっと……


……あ、『メル』はどう?」


(メル、か……いいよ、それで)

「え、いいの!?やった!」

アスルはかなり喜んでいるようだ。


……ここで気がついた。

もう空が朱色に染まり、日が暮れかけていることに。

(ねぇ、もう日が暮れるけど大丈夫なの?)

「え?……あ、ほんとだ!!早く国に戻らないと彼奴らが起きちゃう!」

そう言うとアスルはバッグから地図を取り出した。

(彼奴ら、って?)

「君がさっき倒してくれたフロガドラゴンだよ。

彼奴らは夜行性だからね、夜にここに居ると危ないんだ」

(へぇー……成程ね)

「えっと……地図的にはこっちで合ってるかな。

行こう、メル!」


(……うん、アスル)


目覚めてから初めての人間、アスルとの出逢いがまさかこんな形になるなんて思ってなかったし、アスルが持っていた心の腕輪で会話もできるようになったし。

目覚めてからはどうなるか不安だったけど、何とかなりそう。


初めて名前を呼び合った私達は、森から出ようと歩き出した。

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