Seal and compensation

プロローグ

プロローグ「目覚め」

最早今では誰が作ったのかも分からない、人間から忘れられた神殿。

神殿の中心には大木がそびえ立ち、周囲には美しいと言わんばかりの花が咲き乱れ、太陽の光がその美しさを一層輝かせている。


その神殿で一人、ずっと静かに眠っていた少女が目を覚ます。




……ここは何処だろう。


起き上がり、周囲を見渡してみるけど誰もいない。

……一体、私はいつからここに居たんだろう。


解らない。


自分が何者かという事も。

自分の名前すら、思い出せない。


……一体、私は誰なの?

そう叫ぼうとした、が……


……声が出ない。何故か。

自分が何者なのか解らない上、声が出せない。

頭を抱えた。解らない。解らないよ。何もかも。

私は一体何者なの?何で声が出せないの?

暫く私は頭を抱え混乱し悶えた。


……ふと、足元に剣がある事に気がついた。

鞘に剣が収められている様だが……何か身震いする程のオーラを感じる。

(なんだろう……この剣)

気がつくと、その剣に引き寄せられるかの様に剣の柄を握っていた。


(……!?)

突如、視界が歪み激しい頭痛に襲われた。

私は剣を放し咄嗟に頭を押さえる。目の前の放した剣すら歪んで原型すら掴めない。


と、視界の中に入っていた全ての物質が消えた。


(っ……!!何これ……!?)

そして視界に映し出されたのは。


地は血で染まり、死体という死体が埋め尽くされ。


かつての青き空は業火によって赤き空に染まり。


近くの街の建造物は全て無残に破壊され。


……そして最後に映し出されたのは人……いや、「怪物」だった。

殺気に満ちた眼と不気味に笑う口。強い悍ましいオーラを放ち、歩いた場所を不毛の地に変えていき、闇の魔力を破壊のエネルギーに変え生物を無残に殺害し建造物を破壊する姿。それは外観は「人」であったが……どう考えても「怪物」に見えた。



(今のは、一体……?)

気がつくと、元の視界に戻っていた。頭痛も治った。

(さっきの光景は一体何だったんだろう……)

下に落ちている剣に視線を当てる。剣から感じ取れるオーラはさっきより弱くなった気もするが……私は恐怖心を抑えながら恐る恐るもう一度剣の柄を握ってみた……



……何も起こらなかった。安堵の息を吐いたと同時に、さっきの現象は一体何だったんだろう、と疑問を抱く。私は剣を収めている鞘を抜き取る。

剣身には黒色のオーラを纏った宝石が何個か埋め込まれているようだ。

(……この剣、どこかで……)

何処かでこの剣を見た気がするのに、記憶を失ってしまったせいで思い出せない……


(……もしかしたら)

さっきの現象で映し出された物と何か関係あるのかもしれない。

取り敢えず剣を鞘に収め、腰のベルトホルダーに収め立ち上がる。

とにかく、ここを出ないと何も始まらない。私は近くにあった階段を見つけ降りる。


(……ん?)

階段を降りて少し歩いた所でふと、近くに泉を発見する。それと同時に忘れていた喉の渇きを思い出した私は泉に近づいた。


(……これが、私……?)


泉の水面に映し出されたもの。

腰まで届いた純白の長い髪と薄緑色の眼、少し土が付着した白色のワンピースを身に付け腰に剣を差した姿だった。

それを見た私は一瞬だけ何かを思い出す。

脳裏に浮かんだのは……殆ど同じ格好で鏡の前に立っている自分。

しかし、それ以上思い出せることは無かった。

しゃがんで泉の水を手で掬い、口に含ませてから飲む。渇ききっていた喉が潤った。


(……私は一体、何者なんだろう)

一体何故、この場所でずっと眠り続けていたのか。

一体何故、記憶を失ってしまったのか。

一体、自分は何者なのだろうか。

……とはいえ、早く此処を出ないと。私は出口を求め探し始めた。




これは、記憶と声を失った少女の自分自身の真相を探す物語……

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