第27章 覚醒
目の前に現れたのは、人の形に似せてある岩の塊としかいえない物体だった。
そいつは俺より三倍の大きさがあって、握りこぶしだけでレゥをすっぽりおさめられるほどだ。
人の頭に当たる部分の岩からは、鈍い光が二つ放っていた。
「さあさあ、ゴーレムちゃん、やってしまいなさい!」
フヒヒと憎らしく笑い、ゴーレムの後ろに隠れるドクト。
直後、ゴーレムが大きく右手を振りかぶり、そのまま地面に思いっきりたたきつけてきた。
たたきつけた先にいたのは、レゥだった。
「寄るな!」
彼女はゴーレムの頭上に飛び上がった。
そして、両手を前に向けると一瞬で巨大な火の玉を作り出し、
「死ねぇ!」
その火の玉をゴーレムにぶち落とした。
火の玉がゴーレムを包み込み、激しい爆風とともに火柱がのぼる。
「すげぇ……」
これが、竜神族の力……。
初めて見た彼女の本気に、俺は少し腰が引けてしまった。
「純騎ぃ!ぼさっと突っ立ってるならさがれぇ!」
直後、横からヴォルフが怒鳴りつけた。
ハッと我に返った俺。
このまま下がるわけにはいかねぇ!俺だってやれるんだ!
瞬時にヴォルフの持っているような銃を錬成し、今もなお燃え続けるゴーレムに撃ちまくる俺。
「っ!」
一発撃つたびに体が後ろに持っていかれそうな感覚を覚える。
ヴォルフの奴、こんなのを余裕そうに撃ってたのか……!
すると、俺の脇をするりと抜け、ヒュノがの矢を構えながら前に躍り出た。
「純騎ー!私さんも援護するなの!」
「あぁ!頼んだ!」
右手の親指をぐっとあげた彼女は、レゥの下までたどり着くと、ぴたりと足を止めた。
「『集いし夢のきらめきが、新たな時代を作るなの!光指すがいいなの!
最初は細かった彼女の矢が、詠唱が進むたびに太くなっていき、放たれた時には元の三倍以上の大きさになっていた。
光をまといながら一直線に飛ぶ矢。
「『万物万象私の手の中に!
彼女にあわせるように、後ろからクエスタの魔法が放たれた。
燃えるゴーレムに降り注ぐ矢と火の玉。そして色とりどりの星々。
……勝ったな。
弾切れになった銃を投げ捨て、俺は勝ちを確信する。
「純騎……、やった……!」
俺の横にふわりと降りてきたレゥ。
彼女の目は燃えるような色ではなく、柔らかい赤色だった。
たぶん、怒りはおさまったのだろう。
いまだ燃え続けるゴーレム。
ドクトの憎らしい笑い声も一切聞こえてこない。
これは、何もできずに燃え死んだか?
確認しようと俺が一歩前に進み出た時だった。
「総員!伏せろ!」
ヴォルフの怒号が響く。
「!?」
なにがなんだかわからないうちに俺は伏せる。
その直後、頭上を巨大なサイズの岩がものすごい速さでかすめていった。
岩は、壁にぶつかって粉々に砕け散った。
な、なんだ!?なにがあったんだ!?
冷や汗を流しながら立ち上がると、火柱から「フヒヒヒヒっ!」と憎らしい笑い声。
直後、目が開けられないような暴風が俺らに襲いかかった。
「うわっ!」
両腕で顔を隠す。
その後、聞こえてきたのはあの声だった。
「フヒヒ!敵の死体を確認せずに攻撃をやめるとは!甘ちゃんですねぇ!」
「その声は……!」
ドクト!まだ生きてやがったのか!
前を向き直ると、火柱があった場所には無傷のゴーレムが立っていた。
その横には、当然のようにドクトの姿もあった。
「フヒヒ!わたくしが強化装置を使ってないとでも思いましたか!?甘い甘いですよぉ!」
手にフラスコを持って早口でまくし立てるドクト。
あいつのしゃべり方は本当に腹が立つ。
「っ!」
俺の横にいたレゥがバスケットボールくらいの火球を作り出し、ドクトにぶん投げる。
しかし、ゴーレムが右手で受け止めて消えてしまった。
「おやおや、そんな怖い顔しないでくださいよ、あなたは大切な竜のエネルギーなんですから」
ドクトの言葉にカチンときた。
俺はレゥの前に立ち、力の限り叫ぶ。
「黙れ!レゥは竜のエネルギーなんかじゃねぇ!」
「……」
ドクトはつまらなさそうにため息をつくと、フラスコを思いっきり地面にたたきつけた。
何かの薬品が地面に撒かれ、紫色の霧を作っていく。
「なにしやが……!」
ヴォルフが一歩進み出た瞬間、糸が切れたように地面に倒れこむ。
いや、ヴォルフだけじゃない。レゥも、クエスタも、ヒュノも……。
俺以外の全員の顔が真っ青だ。
これは……毒か!?
俺も風邪をひいたようにだるいし……。
だとすれば、まずいんじゃないか!?
どんどん霧が濃くなっていく。
ちらりと後ろを向くと、ヒュノとクエスタがぐったりと地面に倒れこんでいた。
レゥもにらみつけてこそいるが、汗はだらだらと流れていて指一本動かせないような状態だ。
そんな中、ヴォルフは低い声色で恐喝するように言葉を投げつける。
「てめぇ、なにしやがった?」
「なぁに、ただの魔力毒ですよ。魔力があればあるほど体が重くなるものでしてねぇ……」
得意げに説明するドクト。直後、ちらりとこちらを向くと、俺の方を指さして高笑いした後にこう叫んだ。
「あなたも、あの男のように魔力がない無能であればよかったんですけどねぇ!」
「!!」
唇をかみしめ、無意識のうちに落ちていた銃を拾い、ドクトの方に走り出す。
「ドクト!てめぇぇぇぇ!」
銃弾を錬成し、あいつの顔面目掛けて撃ち込もうとした瞬間だった。
「やりなさい!ゴーレム!」
ドクトの声と共にゴーレムが右手の握りこぶしを思いっきり俺に振り降ろしてきた。
直撃こそしなかったが、至近距離に激突し、俺は入口の近くまで吹っ飛ばされる。
「ぐぅっ!」
背中を強く打ち付け、激痛が走る。
「純騎さん!」
クエスタがよろよろと立ち上がり、こちらに近づこうとするが、力なく倒れてしまった。
そんな姿を見て高笑いを上げるのは、ドクトだ。
「フヒヒ!いやぁ、最高ですねぇ!
これなら楽に葬れますねぇ!」
「てめぇ……!」
精一杯のにらみを利かせ、立ち上がる俺。
激痛なら我慢できる。でも……倒す手段がない。
俺は、何も守れずに死ぬのか……?
心のうちから後悔の念が沸き上がる。
もっと、俺に力があれば、もっと、みんなを守れれば……。
「純騎ぃ!なにぼさっとしてやがる!」
ヴォルフの一喝。
直後、床を滑るように投げられたのは、彼の使っていたトランシーバーだった。
俺の足元にあったトランシーバーを拾う。
「純騎!てめぇは動ける!
だったら、上まで戻って増援を呼べ!」
「お、おい!お前らはどうすんだよ!」
ここで戻ったら、レゥやクエスタたちが!
「馬鹿野郎!全員死ぬより一人でも生きれば勝ちなんだよ!」
俺の不安を切り裂くようにヴォルフが叫ぶ。
「で、でも……!」
「純騎さん……!行ってください!」
「純騎、あとはまかせたなの!」
お互いに支えあい、武器を構えるヒュノとクエスタ。
レゥも呼吸が荒かったが、立ち上がって手を構えていた。
「純騎!てめぇはこいつらの思い、無駄にするのか!」
叫ぶヴォルフ。
彼の膝は笑っていたが、眼光は衰えていないように見えた。
俺の後ろには入口がある。
ここを登れば、逃げられる。
でも……!
「いけぇっ!純騎ぃ!」
ヴォルフの言葉に、俺はトランシーバーをポケットにしまい、喉を震わせて叫ぶ。
「それはできない!
俺はみんなを守る!」
そして、右手をぐっと握りしめ、目を閉じてあのアイテムを思い浮かべた。
そう、あれがあれば、みんなを守れるんだ!
「無限錬成!『エルフポーション』!」
目をカッと見開き、俺は言い放つ。
直後、まばゆい光が右手から放たれた。
「なっ!?」
光がドクト達まで包んでいき、やがて俺の右手に収束する。
俺の手に握られていたのは、丸いフラスコだった。
中には透き通るような透明の液体が入っていた。
「錬成、成功……!」
図書館に乗ってた通りのものが手元にある。
その事実に喜びを隠せない。
「あ、あれは、本当にエルフポーションなの!」
ヒュノがフラスコを見て驚きの声を上げた。
クエスタもレゥも、ヴォルフですらも目を丸くしている。
「ば、バカな!こんな、魔力も何もない無能が!」
ドクトが「納得いかない!」とヒステリック気味に叫んだ。
「純騎!早く開けるなの!」
ヒュノの言葉に「あぁ!」と力強く叫ぶと、俺はフラスコの蓋を開けた。
中の液体がどんどん放たれ、紫色の霧を包み込む。
「あれ……?体が軽くなりました……!」
クエスタが驚きの声を上げ、ヒュノが笑顔を浮かべた。
レゥの顔色もよくなったようだ。
「ば、バカな!一級品のアイテムを、なぜこんな小僧が!」
うろたえるドクトと、にやりと笑うヴォルフ。
ヴォルフは「形勢逆転だな」と言ったかと思うと、ドクトに剣の切っ先を向けてこう叫んだ。
「さあ、反撃開始だ!」
【3000PV突破!】錬成技術インフィニティな俺が異世界でハーレムを作るまで 白宮 御伽 @siromiyaotogi
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