黒髪と赤い瞳キャラクターの自主企画と、タグの「カニバリズム」にひかれて拝読しました。
現代日本でありながら、登場人物たちからは平安貴族いや、それよりも以前の日本の世界に生きている匂いがしました。そして、原初の神や闇、異界の香もまた、濃厚です。
物語は人間として扱われない少年と、それを取り巻く人々の陰謀から展開していくダークファンタジー。謎多き神の襲来と、少年をその神に捧げようとする人々の間で、主人公とそれを取り巻く人々が敵味方入り混じり、葛藤していく。しかしこの葛藤は心の内だけではなく、主人公たちの存在そのものが、葛藤にさいなまれるように語られている。
神とは? その神という存在が本来的に求める物とは?
人とは? 神の現身なのか?
影とは? 物理的にではない、その意味とは?
これは中編ですが、長編を拝読した後のような、満足感があります。
古来系の世界観や名前が苦手な方には、説明書きから入ることをお勧めします。
是非、ご一読ください。
生贄になるため、閉じ込められて育った銃夜。
普通の子供、人間とはかけ離れた生活を送っていた銃夜の環境は、安部家に預けられることで大きく変わる。
大きな変化に戸惑いつつも、少しずつ受け入れて人間せいを取り戻していく銃夜。
それをあざ笑うように現れた異界が、銃夜の世界を再び大きく変えることになる。
和風ダークファンタジー。その一言だけで好きな方はトキメキを覚えるのではないでしょうか。
現代を舞台にしながら歴史が深く、複雑に入り組んだ各家の関係。
恐ろしい神を鎮めるために生贄が必要という状況。
そういった全体的にシリアスな背景を持ちながらも、前半部分はあらすじにもある通りほのぼのとした雰囲気で進みます。
それをぶち壊し、登場人物、読者に牙をむく展開は見事としかいえません。
切なさがありつつも、生きる。という強い決意や、一筋の希望を抱くお話です。
けれど、番外編。とある通り、こちらは本編に登場している一人の少年を中心に見た過去の話。
本編をよんでいなくても分かる構成になっていますが、こちらでは明かされない謎、解決していない問題も多く残されています。
それは今後、本編である「行くも飢えるもこれ一重」で明かされていくことでしょう。
本作主人公である銃夜君の活躍も気になるところです。
番外編から先に読んだ方は、ぜひ本編の方もご覧ください。
絶望の中でも抗い続ける登場人物たちの生きざまを、筆者も一読者として見届けたいと思います。
人間としての扱いを受けず、獣のように育った少年・大宮銃夜。彼はあるきっかけで、大宮支族、安倍家に受け入れられることとなる。
そこで人間らしく愛を受け、人間らしさを知りつつあったが、その地では、謎の児童失踪事件が多発していた――
「行くも餓えるもこれ一重」の番外編となる当作は、是非とも本編と合わせて読んでいただきたい。
「行く餓え」らしく凄惨な事件、神に生贄、憎悪に呪詛、そして陰謀――そういったものが渦巻く世界は、しかし美しい描写で描かれる。陰惨な物語の果てに、銃夜は何を失い、何を得るのか。
「行くも餓えるもこれ一重」を先に読んだ方はこれを読んで「行く餓え」世界にのめり込んでほしい。これを先に読んだ方は「行くも餓えるもこれ一重」への足掛かりとして、その世界に踏み入れてみてほしい。
残酷で美しく、切ないこの世界に、魅了される人が増えることを望む。