第20話 脳って起きているときより寝ている時の方が活発なんだね

初めは気づきませんでしたが、キッチンの隅に冷蔵庫があり、中はほとんどがお水でした。


 お水の手前にあるのがあさ姉の言っていたアイスのようで、5種類あります。


 ラクトアイスはチョコとバニラ、アイスキャンディーはソーダとコーラ、それと1つで2つのチョココーヒー味がありました。


「どれにする?」


「どれにしよう?」


「あたしはソーダにしようかな?」


「じゃあ僕はチョコで」


 そうして、冷蔵庫からアイスを取り出し、僕はスプーンを持って来てから2人でリビングに戻りました。


 僕は蓋と内蓋、千秋お姉ちゃんは袋から取り出して、2つの蓋と袋をゴミ箱に捨てて、隣り合うようにソファに座りました。


 僕は上から削るようにして食べますね。


 中には内側や外側から、ワイルドな人は容器に触れている部分のアイスをスプーンで外して、残りを全てすくって1口で行く人も。


 1つ確かなのは性格の出る食べ物だという事です。


「おいしいね」


「うん、そうだね」


 僕達がアイスに冷やされていると、あさ姉達がお風呂から上がってきました。


 フィリアちゃんは僕を見てハイライトが無い目を向けるかと思っていましたが、どうやらそれはハズレのようです。


 フィリアちゃんは……というより二人ともあさ姉に夢中です。


 二人とも目にハートマークを浮かべ、あさ姉の事をお姉さまと呼んでいます。


 妹ながらちょっと引いちゃいます。


 見せられているこっちの身にもなってくださいよ。


 何処からかお前が言うなと言われていると思うんですけど、一体どこから?


「うわぁ……」


 千秋お姉ちゃんもさすがにドン引きで、アイスを食べる手が止まっています。


「相変わらずあさ姉の吸引力って凄まじいね」


「どこぞの有名な掃除機作ってるメーカーもびっくりだね」


 吸引力が変わらないどころか何もかもを吸い込んじゃっているんですよね。


「というかアイス食べないの?」


「そうだねー、アイス食べよー、二人とも」


「「はい」」


 そしてあさ姉達が廊下に出て少ししたら戻ってきました。


 フィリアちゃんがバニラ、アイリスちゃんがコーラ、あさ姉がチョココーヒーを手に持って戻ってきました。


「お姉さま、私のアイスはいかがですか?」


「え、いいの?」


「はい、どうぞ」


「私のもどうぞ」


 あさ姉はフィリアちゃん達から1口づつもらって、あさ姉はアイス1本を差し出しました。


 フィリアちゃん達はそれを家宝のように扱い、大事に仕舞いました。


 後でちゃんと冷蔵庫に戻しておいてくださいね。


 少し溶けたアイスをスプーンですくって一口、僕は話しだします。


「ねぇあさ姉、あさ姉って子どもっているんだよね?」


「いるよ、それがどうかしたの?」


「その子どもって、今ジパングにいるの?」


「うん、そうだよ?」


「その子って、あさ姉みたくものすごい子なの?」


「まぁ長女以外はあたしより劣るけどね、どうでもいいけど、転生して能力を与えられた者から生まれる子にはある法則があるんだよね」


「法則?」


「うん、生まれてくるときに、その子のお母さんの与えられた能力を受け継ぐんだけど、第1子の場合はお母さんの能力の2分の1、第2子だと4分の1、第3子だと8分の1と半分ずつ受け継ぐ能力が下がってくるんだよね、でも、身体の転生をしてまた産むと、能力は転生する前の第1子と同じ、あたしの半分を受け継ぐの」


「そうなんだ…え?それってどうやって知ったの?」


「そりゃあたしが実際に子どもをそれだけ産んだからだよ?」


「え?あさ姉、子供何人いるの?」


「今は6人、でもこの身体だけじゃなかったら7人産んでるよ」


「産みすぎじゃない?」


「育児ほっぽって私達?」


「うん」


「基本的に優先するのは自分の子供たちだと思うけどなぁ」


「育児放棄じゃないの?」


「あたしの能力を受け継いでいる長女がいるから大丈夫」


「知力でどうにでもなる訳じゃ無いと思うんだけど…」


 長女に期待を持たせすぎだよ。


 千秋お姉ちゃんのアイスが少し溶けだし、液体になったアイスが千秋お姉ちゃんの親指と人差し指を濡らしました。


 千秋お姉ちゃんはアイスの持ち手を上にして、そのままアイスを1口で口に入れます。


 おかげで少しの間、話ができるような状態ではなくなり、そのままだんまりです。


「あさ姉の子どもかぁ、ちょっと見てみたいかも」


「じゃあ会いに行く?」


「へ?」


「もちろん明日にだけど」


「うーん、明日ねぇ…どうする、千秋お姉ちゃん」


 千秋お姉ちゃんは、溶けかけたアイスを棒から抜いて、数回噛んで飲み込みました。


「私達は明日は特にこれと言って用事は無いけど、急だなぁ、多分だけどあさ姉は子供たちに会ったことって出産のとき以来でしょ?」


「え?わかるの?」


「そりゃ、いつもお世話してくれているわけだからね、前世では子どもたちの事は一切言ってなかったし、それに会いに行く時間とかも無かったと思うし、全宇宙・全世界の記録アカシックレコードからみんなの顔や感情、性格や癖とか、ありとあらゆることを知っているわけだから、寂しくないどころか成長を見守ってあげられているからね」


「そっか、でも僕達は会ったこと無いから気になるなぁ、明日会ってみようかな」


「そうね、服を取りに行ってから会ってみましょ」


「それじゃあ決まりだね、明日ジパングへ行こう」


 溶けてしわしわになった容器の中身を全部すくいあげてアイスと食べ終え、皆もアイスを食べ終えたところで、しっかりと歯を磨きておやすみなさい。


 僕はベッドの端っこで寝ています。


「ねぇやっぱり1つのベッドに5人って窮屈よね?」


 千秋お姉ちゃんもそう思ってたんだ。


「それじゃあ、えい」


 アイリスちゃんがあさ姉の胸に抱き込まれ、窒息しそうになっています。


 でも心なしか呼吸が深くなったような気もします。


「これで少しは余裕ができたと思うよ」


「アイリスが呼吸困難になると思うんだけど……」


 状態異常(あさ姉の魅惑)が解けたフィリアちゃんが冷静な意見を出してくれました。


「呼吸が深いから大丈夫よ」


「そうなのですか?」


「そうよ、それに死んでもあたしが迎えに行けばいいだけだし」


 あっちからのお迎えとあさ姉のお迎え……縁起でもないですね。


 早く寝ましょう。


「千冬くんはもう寝ているよ」


「それじゃあ私達も寝ますか」


「はい、それではおやすみなさい」


「「おやすみなさい」」


(ひははへへふ、ほほはへんほふへふは?)


 幸せです、ここは天国ですか?


 アイリスちゃんの状態異常は解けてないようです。




 ふぅ、今日も疲れたなぁ。


 ん?あぁ、あたしだよー、安桜お姉ちゃんですよー。


 ここは夢の中、あたしだけの世界。


 ここでいつも考えるのは明日は何をしようかってこと。


 ここで明日のごはんの献立も決めるの。


 明日の朝ごはんは……おっと、どうやらお客様が1人来るようだね。


 パジャマ姿のお客様が千冬くんを抱いて寝るようだ。


 ただでさえ狭いベッドにやって来るとなると平日の通勤快速ぐらいの密度になるから、ベッドをもう1台増やしますか。


 ワープを唱えて、前世で2人と一緒に寝る時に使っていたベッドを、あたしの隣に持ってきてと。


 あたしぐらいの実力者にもなってくると、夢の中でも2つの世界の壁すら超えられるから、皆も頑張ってみて。


 決めた、明日の朝ごはんは焼き鮭と白米のおにぎりにしよう。


 唐突だったけどこういう決め方をしているからね、あたしは。


 お昼はミートスパゲッティ、どうでもいいけどスパゲッティはパスタの1種で、ナポリタンはスパゲッティを使った料理のことだね。


 晩御飯は……そうだね、オムライスにしよう、デザートはプリンにしてと、よし、明日の献立は出来上がり。


 あ、そうそう、1つ言い忘れてたけど、あたしの家系は性欲が強いのが特徴なんだよね。


 でもあたし達は性行為には走らないから、そこら辺を期待していた人、さっさと諦めてね。


 向こうは性行為に走ったみたいだけど。


 しおんも欲求不満だったし、まぁ人間の三大欲求の1つでもあるから、仕方ないっちゃ仕方ない。


 おやおや、そうこうしているうちにお客様が来たようだね、早く寝返りを打ってスペースを作らなきゃ。


 アイリスちゃんは笑顔で寝ているようだね。


 向こうからのお迎えは無いようだね。


 さてと、お客様がベッドにやってきたところで、この世界の話でもしましょうかね。


 この世界は、この世界以外にも幾つもの世界が存在して、その中の1つがこの世界。


 あたし達が使える魔法は、『マナ』と呼ばれる体内にある魔力を使って発動させるの。


 でも日本ジパングではまた別の魔力を使うんだ。


 それは『エーテル』と呼ばれるもの、エーテルで使った魔法は属性を与える魔法なの。


 でもここではエーテルを使った魔法は使う事ができない、エーテルとは『人工魔力』、自然に存在するマナとは違う、人の手で作り出された魔力。


 だから使えるのは日本のみなの。


 マナが体内に存在する自然魔力、エーテルが空気上に存在する人工魔力。


 勿論日本にいる人も体内にマナがある、でもそんなことを知っている人はほとんどいない。


 これには特にこれと言った理由はない、行い次第ではマナの存在が一般常識になる未来もありうる。


 でも諸外国の人々は決して知ってはいけない。


 日本を除く、この世界の技術レベルは、いわば中世の時代、イギリスでは産業革命が起こり、技術の進化が加速する時代でもある。


 だからこそ知ってはいけない、あたし達人間には限界がある、諸外国の人々が進化の加速に滅ぼされかねない。


 技術の発展には犠牲や代償は仕方がない、でもその犠牲や代償が国単位でのものだとどうかな?


 発展という欲に囚われ、国や文明すら壊しかねない、それがエーテルという悪魔。


 それでも人間は文明発展の為に幾重にも犠牲や代償を重ねて来た、それで得るものもあると言えば聞こえはいいかもしれない、でもその犠牲や代償は全て取り返すことはできない物、取り返しのつかない事を技術と言う悪魔は要求してきた。


 人々を魅了し、災厄を生み出す魔物、それが技術。


 別に技術の発展や文明の発展を否定しているわけじゃないよ。


 ただ知っていてほしい、君達の生活は、数々の犠牲の上に成り立つもの。


 そしてこの話を、そっくりそのまま、今いる所の周辺諸国に当てはめてみよう。


 まだ見ぬ、まだ知らずにいる者達に、このエーテルという技術を見せてみよう、新たな魔力、人工的に生み出すことのできる魔力とその技術、欲しくないと思う国はほとんどない。


 ご主人様の国は使わないけど、他の国からしたら新たな文明の発展の鍵ど同時に脅威でもある。


 おまけにこの技術を巡って戦争まで起こりかねない、ただでさえヨーロッパの情勢は不安定、あたしとしおんの能力の半分を使って分かるけど、数十年数百年先の未来でも存在は守られている、絶対に知られてはいけない災厄の種、今でも燃え盛る業火に油を注ぐようなことはしてはいけない。


 ところでだけど、ここまで読んできてそろそろ目が疲れて来たと思うんだ、少し目を休めようか。


 目を閉じて、ゆっくりと横になるんだよ。


 それじゃあみんな、おやすみなさい。

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早死に生徒達はチート生活を望む 鈴ヶ森あゆみ @hirose2002

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