第19話 アイスに賞味期限って無いんだね
「はぁ~」
「はぁ~」
僕とあさ姉が入ったことで湯船のお湯は少し溢れ、排水溝に詰まった泡ごと流れていきました。
「3人だとちょっときついね」
「私とあさ姉が向かい合って、千冬はあさ姉の膝の上に座ればいいんじゃない?」
「そんなの子供みたいじゃん」
「別に良いじゃない、あたしからしたら二人はまだまだ子供だよ」
「確かに、僕達の人生の50倍以上っていう長すぎる時間を過ごしている訳だけど…」
「それじゃあおいでー」
僕はあさ姉に手招きされ、そのまま膝に座りました。
僕の頭はあさ姉の胸に当たり、柔らかい感触に包まれました。
「千冬君は身体が小さいからすっぽり入るね」
「ホントは背を高くしたいんだけど…」
「多分ギルドの女性陣を中心に皆が反対すると思うよ」
うぅ、ホントに背は高くしたいのに、全然伸びません。
「今頃、二人とも何しているんだろうね?」
「多分千冬君の事について話していると思うよ」
「そうなの?」
「そうなの」
一方、リビングでは。
「千冬お兄様って…女の子の裸とかエッチな事とか弱いと思ったのに…私とお風呂に入った時のは演技だったのかな…?」
「多分そうだと思うぞ…見た目は可愛いのに…中身はとんだ変態だったな…」
「私、これから千冬お兄様の事、白い目で見ちゃいそう…」
「私もだ…」
千冬に対し、とんでもない勘違いをしている二人がいました。
昔から3人で入っているから、2人の裸には慣れているだけだと思うんだが…。
え?おれは何者なんだ?だって?
んまぁ、おれは転生者だな。
もらった能力は、見た人物の特徴やプロフィール、その人物の今の気持ち、おまけに今どこにいるのか、今何しているのか、次何をするのかを知る能力だ。
どこぞの海賊漫画の何とか色の何とかの上位互換みたいなものだと思ってくれ。
この能力のおかげで格闘ゲームとかも勝てるんだよなぁ。
それとこの能力だからこそウエストとか図らずに服が作れるんだよ。
んまぁ服は完成したっちゃしたけど、大丈夫かこれ?
依頼したのはフィリアの方だから、フィリアの希望を優先するけど。
千冬は夢にも思わないだろうな、まさかフィリアは心の中で注文するなんて。
千冬は傍から見たら確かに女に囲まれているから、そういう面ではある意味変態ではあるけど。
あいつもあいつで十分変態じゃねえか。
いやフィリアの方がよっぽど変態じゃねえか。
千秋の服は良いよ、うん。
問題はねぇよ。
だって千秋の服に関しては何も言ってなかったもの。
問題は千冬の方だよ。
へそ出しセーラーにショートパンツって…これ女の子向けのコーデじゃね?
なにが男の子向けだよ。
千冬泣くよ?
泣いてあさ姉っていう奴に泣きつくよ?
一応もう1つ別のもので服作ったけどさ。
こっちは半袖Tシャツ&フリーサイズジーンズにしたけど。
他のとこで服買わない限りずっと依頼されてない方こっち着そうだな。
……これから千冬には服を無償であげよう。
そうじゃないと不憫でならない。
おれが思うのもなんだが、こういう性格だから売り上げがでないんだよな。
メールの内容を読んだお前たちの中に、気が付いた奴がいると思うんだが。
明日服を取りに行けば服代はチャラなんだよな。
psのとこを見ればわかるはずだ。
ちょっと長話が過ぎたな。
そろそろ本編に戻るか。
「あとで千冬君と千秋ちゃんの服を作った人には入浴してるとこを覗いたお仕置きを加えるとして、そろそろ身体洗おっか」
げ…バレてた。
何モンだこいつ。
「え、あの人見てたの?」
「ここに窓があるけど、見たところどこにもいないよ?」
この窓から見えるのは、隣の家の壁ぐらいです。
「別の目で見ていたんですよー」
「別の目?」
「皆の心の中にある」
「それって妄想だよね?」
「そうだよ?」
「変な事を言わないでよ」
「でも本当なんだけどな~」
「それより身体洗うんでしょ?早くしよ?」
「そうだね千冬君、それじゃあ千冬君から洗おっか」
あさ姉が身体を洗う時、ゴシゴシタオルは使いません。
全て手で洗います。
石鹸で泡立てた手で、体中を入念に洗い、ゆっくりとシャワーで流していきます。
「それじゃあ今度は千秋ちゃんの番、千冬君、先あがってもいいよ」
あさ姉の言葉に従い、僕はお風呂場から出ました。
先に頭をタオルで拭き、下着は……ウォッシングでいっか。
髪は。
「ドライ」
と言ってすぐに乾燥しました。
フィリアさんの時とは違って、ただ乾燥させるんじゃなく…なんて言ったらいいんだろ?
トリートメントっていうんでしょうか?あれ使ったみたいに髪の毛に艶が出ています。
そういえばアストさんに、魔力の量と質がとても良いって言われてた。
多分、質が良いとこんなことも起こるんじゃないでしょうか?
「ふ~、さっぱりした~」
「それじゃあ千秋ちゃん、パジャマに着替えよっか」
千秋お姉ちゃんとあさ姉はパジャマに着替え、ドライと言って髪の毛を乾かしました。
やっぱり魔法を唱えたあさ姉にも、髪の毛に艶が出ています。
「ねぇ、魔力に質ってあるの?」
「あるよ~、でもどうしてそんなこと聞いてきたの?」
「いや、ギルドに入る時、アストさんに魔力の量も質もとても良いって言われてね」
「あ~、てことは入ったんだ」
「うん、ところであのギルドって、名前って何なの?」
「あ、そういえば聞いたこと無かった」
「名前?名前はねぇ」
その名前と聞いた時。
「集いし星々」
アストさんが設立するのにぴったりだと思いました。
「集いし星々ってことは、星座って事?」
「そうだよ千秋ちゃん、幹部は何人かいて、その中の最高幹部は11人、トップのアストライアーさんが1人だね、それと、最高幹部にはそれぞれ称号が与えられるの」
「へぇ、ちなみに、あさ姉はギルドは入ってるの?」
「うん、千冬君のお母さんご主人様とあたしは最高幹部で、称号はフェールト、あたしはシャーフ、なんだ」
「この世の真理に辿り着いたり、ギルドの最高幹部だったりで忙しいね」
「まぁ、その分楽しさもあるから、逆にこのギルドでなにも無い方がおかしいしね」
「まぁ、アストさんの性格を考えたらね」
「カリスマ性とか全然ないしね」
「それは今が平和だっていう証拠だよ、本気のアストライアーさんが戦場に立てば、敵はすぐさま遠くに逃げるから」
「やっぱりアストさん、怖いなぁ」
「怒らせなきゃ怖くないよ、いつもは自由奔放で、受付の仕事もサボり気味だからね」
あぁ、だからあの時自分の役職を誤魔化そうとしたんだ。
結局はエミリーさんに連れていかれたけど。
「それと、もう脱衣所ここから出て2人の所に行こ?多分待ちわびているから」
「そうだね、出よっか」
「冷蔵庫にアイスあるから食べてもいいよ」
「あれ?この家に冷蔵庫なんてあったっけ?」
「あったよ?でもいつもは地下にある食糧庫から取ってるから、キッチンの隅っこにあるの、その様子だと気づいてないみたいだけど」
「そうなんだ、それじゃあ食べよう」
「食べよう食べよう」
脱衣所から出て、リビングに戻ると、僕の事を白い目で見てきている2人がいました。
なんででしょうか?
「千冬お兄様」
「は、はい?」
怒りと色欲の感情を合わせて2で割ったような目をしています。
怒りの矛先を僕に向けられると、例え妹でも敬語になっちゃいます。
「千冬お兄様、私のカラダを見て、どう思いますか?」
「え?どうもなにも、特に変わったとこは」
「そうですか、それでは」
と、言うが早いか、それとも同時か、フィリアちゃんはその場で全裸になり、僕はすぐさま目を塞ぎました。
せ、説明できているのはそう意味じゃなくて…その。
「フィリアちゃんもアイリスちゃんもお風呂入ろっか、それじゃあ行こ?」
「え、あ、ちょっと」
あさ姉はフィリアちゃんとアイリスちゃんの腕をつかみ、そのまま脱衣所へ戻っていきました。
僕の心が解放されて、ちょっとだけ身体に力が抜けました。
それと同時に、安心感も得ています。
二人きりになった今、ちょっと特別な時間を感じていました。
僕と千秋お姉ちゃんはソファに座り、僕は千秋お姉ちゃんの腕に抱き着いてます。
千秋お姉ちゃんからいい匂いがして、とても落ち着きます。
今日の疲れが吹っ飛んでいきそうです。
さっきの恥ずかしい場面は…記憶の彼方に封印しましょう。
「今日は疲れたね」
「初めての戦闘だったからね」
「戦闘って言っても、千秋お姉ちゃんが1発撃っただけだけどね」
「でもあの感触は忘れられないなぁ」
「あの感触?」
「スナイパーライフルを撃った時の」
「あぁ、確かに、それは一生残るよね」
「そういえばさ」
「何?」
「一つ疑問に思う事があるんだ」
「それってなに?」
「神器はさ、あの2つ以外は全部ジパングにあるって、千冬のお母さんが言ってたじゃん?」
「うん」
「じゃあ、なんでその事を知っているんだろ?」
「え?」
「だって、考えてもみなよ、神器が残り2つになるまで回収しつくして、それでいてジパング側は別にこれと言った脅迫や不平等条約締結をもちかけたりしていないんだもん」
「まぁ、確かにね、でもさ、もしかしたらそれに気が付いたのは、神器をほとんど回収した後かもしれないよ」
「それでも、やっぱり何もしてこないのはおかしい」
「うーん、ていうかさ、その事実って、他の国の王様たちは知っているのかな?」
「多分知らないと思う、知っていたらレーヴァテインを狙いに来ると思うし」
「ん?あれ?」
僕は1つ忘れていたものがありました。
テーブルの上には僕のタブレットノートパソコンが。
それとは別に、テーブルの下にこんな書置きが。
『アフロディーテはギルドマスターの家で暮らすことにしました、使っていたパソコンはお返しします』
「……アフロさん、寝床を変えたみたいだね」
「そうだね」
アストさんが消えた気持ちは置いといて、僕達はアイスを取りにキッチンへ向かいました。
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