学校にもあやかしがいる
キーンコーンカーンコーン
学校中にチャイムが鳴り響く。
「ぜえ…ぜえ…」
スライディングをしながら教室へと滑り込んだ。
教室には先生がおらず、ガヤガヤしている。
「…間に合った」
咲良は笑顔で机にバッグを置き、へとへとの状態で椅子に座った。
「お疲れ様でした」
前の席に座っている賢人が振り返り、ニヤリと笑う。
私はムッとして、
「賢人のせいよ。なぜあのタイミングで私を置いて行くの」
と、言い返した。
すると、
「はあ?逆に何で俺が咲良を待っていないといけねえんだよ」
と、賢人の顔に皺が刻み込まれた。
賢人にはプライドというものがあるようで、学校では爽やかキャラを維持している。そのため、女子の人気は絶大だ。
咲良はそっと手を伸ばし、賢人の眉間に指先をつけた。
「そんなに皺寄せていると、皺が増えるわよ。眉間以外にも」
すっと、賢人の眉間が元に戻る。
嫌なのだ。
奴は年取るや、皺が多いなどの言葉が嫌いだ。
理由はプライドに傷がつくから、だそうだ。
「あっはは。まーた夫婦漫才してる」
「仲良いね。本当に」
隣から声が聞こえたので、二人揃ってそちらに向ける。
そして、口を揃ってこう言った。
「「仲良くないし、夫婦漫才でもない!!」」
ハッと向き合い、睨み合う。
「マネしないでよ」
「こっちのセリフだから」
このやり取りでまた吹き出す声が聞こえた。
「あっはっは。夫婦漫才もそこまでにして。俺の腹にも限界があるから」
「ふふ。揃ったねえ」
金髪の猫っ毛の男子に、ベリーショートの清潔感ある女の子。
「陽太、麻里。やめてよ」
「そうだ。やめてくれ。こいつと夫婦だなんて…。俺の人生潰す気か」
もう、何から何まで突っかかってきて。
君はかまってちゃんなのかい?そうだろう?
内心そう思うが、言うと命の危機なので絶対に言わない。
彼女たちは、小学校からの友達だ。
木瀬陽太に大宮麻里。
二人は二人で幼稚園からの幼なじみらしい。
「あ、咲良ちゃん。あやかしの話、いろいろ聞いてきたよ」
「え!?なになにー?」
私は気になり、麻里に詰め寄った。
それを無理矢理賢人に引きはがされる。
「麻里が迷惑しています。馬鹿は落ち着いてください」
「ば、馬鹿!?」
「め、迷惑じゃないよ…」
あはは、と笑う麻里はわざとらしい。
これは私の悪い癖…らしい。
あやかし関係になると気になって仕方ない。
「あやかし」という単語を聞いただけで、周りが見えなくなるし、聞こえなくなる。
だって仕方ないじゃない。
私は―…。
「遅れてすまん。挨拶するぞー」
がらら、と音を立て、汗だくの先生が入ってきた。
どうやら、忘れ物をして走り回っていたらしい。
「起立」
一斉に椅子を引く音が響く。
他のクラスから遅れての挨拶だ。
「きょーつけー。れーい」
やる気のなさそうな日直の声が教室に広がり、ぺこりと適当に頭を下げた。
先生が何言ったかなんて覚えてない。
咲良はぼーっと虚ろな目で、空を見上げた。
この学校にもあやかしはいる。
気配がするのだ。情報通である麻里にいろいろ詳しい事を聞く予定だ。
ひとまず、授業に集中するとしよう。
*********
「気を付けて帰れよー」
あっという間に授業が終わり、気づけば放課後になっていた。
クラスメートが教室から出て行く中、私は麻里に話しかけた。
「麻里。朝、言ってたこと教えてくれる?」
麻里はああ、と頷くと、準備していた荷物を一旦下ろし、椅子に座った。
「咲良ちゃんさ、七不思議って知ってる?」
「七不思議?」
七不思議って、学校の七つの怪談のことだろうか。
七つ全部を知ってしまうと…死ぬと言われている。
「そうそう。それ」
麻里はうんうん、と頷いた。
勝手に口から溢れていたらしい。
「その七不思議の一つにあやかしがいたんだ。調べてみると、有名なあやかしみたい」
そうして、麻里はスマホを私の目の前に掲げた。
『あやかし:テケテケ』
◎テケテケとは、下半身を消失したあやかしのことである。
◎テケテケは、放課後から夜にかけて学校を這いずり回る。
◎テケテケは、見つけた人を捕まえ、大きなはさみで下半身を切り、自分のものにする。
◎テケテケは、車より足が速い。
◎テケテケは、角を曲がるのが大の苦手。
結論
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
●テケテケから逃げるには、角を曲がるしかない。
…との事。
画面上にまとめられた情報はとてもわかりやすかった。
だが、一つ問題がある。
「この情報が本当かがわからない」
あやかしは実際にいる。それは断言できるのだ。
前に一度、麻里に情報をもらった時と実際に会った時。
だいぶ印象が変わるのだ。
それは相手にとって有利だし、私にとってはとても不利なこと。
「えー。でも本当かしれないよね?」
「ええ。麻里を疑っている訳ではないわ」
それも断言できると思い切り頷く。
ふわり、と笑う麻里はとても可愛い。
「実際にあってみるしかないわね…」
「危なくない?はさみとか。大きいみたいよ」
「まあ。どうにかなるでしょ」
「軽い!軽いよ咲良ちゃん」
今日は一旦帰るとして、また後日作戦を立てよう。
心配している麻里を促し、私は準備をした。
玄関では、賢人と陽太が喋りながら待っていてくれたらしい。
「遅いっつーの」
「ごめんごめん」
片手でごめん、と表すと、はあ、と大きなため息をつかれた。
「またあやかしか?」
「ええ」
「お前、あんま学校でその話するなよ。変な目で見られるぞ」
「大丈夫よ。それは気を付けてるつもり」
適当に返事をすると、賢人はまた大きなため息をついた。
まあ、心配して言ってくれていたようだから、今回のは聞かなかったことにしよう。
学校からの帰り道。
四人を真っ赤な夕日が射して、地面に影となり映る。
「それじゃあ、またね」
途中の分かれ道で、陽太と麻里と別れた。
二人二人で帰る方向が違うのだ。
ゆっくり話ながら帰っている内に、夕日は沈み、当たりはすっかり暗くなっていた。
「咲良さ。次は何が相手なんだ?」
もうすぐ我が家であるボロアパートに着く前に、賢人が小さく聞いてきた。
照れているのか。いつもより、声が聞き取りにくい。
「んーと。テケテケ?ってやつ」
「はあ?テケテケ?」
「そうよ」
賢人はスマホを取り出し、テケテケを検索しだした。
知らないようだ。
ちらり、と横を見ると、検索で出てきた想像画像を見て、青ざめている。
「なに、コイツ。気持ち悪くね?」
大きな体が上半身までしかない。大きなはさみを持ち、真っ暗な廊下でニヤリと不気味に笑う画像だった。
確かに気持ち悪い。
「ネット情報よ。想像画像なんだから、仕方ないじゃない。本当とは限らないわ」
「まあ…そうだよな」
珍しくしおれている賢人を横目にやっと着いたボロアパートの階段を上った。
一歩歩く度にみしみしと音が鳴り響く。
咲良も最初は驚いていたが、もう慣れてしまった。
賢人も後ろからついてくる。
自分の家の戸の前に立ち、鍵を開けようとしたその時、盛大にぐー、と咲良のお腹がなったのだ。
静まり返る空間。
数秒後、隣の部屋の戸を開けようとしていた賢人が大笑いをした。
涙目でこちらを指さし、笑いこけている。
「おまっ…!女の欠片もねえな」
「仕方ないじゃない。どこぞの鬼のせいで、食べられなかったのよ」
ふんっと鼻を鳴らすと、鍵を開け、慌ただしい音を出しながら部屋に入った。
勢いでいろんな所に足をぶつけてしまった。
痛い、より照れと怒りが湧いてくる。
「今日は何食べよう」
結構時間を費やし考えたが、結局昨日作った卵入り味噌汁を温め、白ご飯と一緒に食べた。
シンプルだが、とても温かく、心もぽかぽかになる。
軽くぺろり、と食べ終わり、皿を洗う。
(明日は、野菜炒めでも作ろうかなあ)
そんな事を考えながら作業をしていると、あっという間に終わってしまった。
「極楽…」
疲れた後の風呂は最高だ。
体の芯まで温まっていく。
(…テケテケか。手強そうだなあ)
咲良は眉を潜めながら、ぶくぶくと頭まで湯につかった。
あやかしは人間に化けて暮らしている 一期あんず @kag6963
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