エピローグ

 その後の顛末は、なんとも言えない間抜けなものだ。

 結局、私とお嬢様は、その後ものの十分もせずに警察に保護されることになる。お嬢様はともかく、私の位置を特定するなど造作も無いことだから、仕方のないことだけれど。

 家に連れ戻された私とお嬢様だが、お嬢様は旦那様と奥様に猛反発をすると、私の処分を撤回させ、ついでに旦那様と奥様の管理者権限まで剥奪した。

 そのかわり、お嬢様は二度と今回のような事をしないと誓約させられていたのだけれど、正直に言うと私もその方が安心できる。

 また、これまでの実績から、私の職掌が変更される事が決まった。命令違反までする様なバグだらけの欠陥品では、仕方のない事だろう。

 私が行っていた家事全般は、新しいメイドアンドロイドが担当することになり、私はお嬢様の身の回りのお世話を担当する事となった。

 つまり、私は名実ともにお嬢様のものとなった。

 ちなみに、新しいメイドアンドロイドは私よりも最新型でずっと高性能だが、お嬢様は「メイの方が可愛い」と言っていた。

 そんな事があり、ほとんどお嬢様専属のメイドとなった私は、お嬢様の着替えを手伝ったり、買い物に付き添ったりしている。

 今日もお嬢様と出かける日だ。

 と言っても、いつもの映画館に行くだけなのだが。

 お嬢様の部屋で着替えを手伝った私に、お嬢様は尋ねる。

「どうかな、メイ」

 ふくらはぎまである長いスカートを摘みながら、お嬢様は可愛く笑った。

「お似合いです、お嬢様」

 そう答えると、お嬢様は少しだけ不満そうにしていた。もう一度「お似合いですよ」と念押しすると、今度は苦笑しながら、「まあいいわ」と言っていた。

「行きましょう?」

 お嬢様はそう言って手を差し出したので、私は差し出された手を恭しく握る。

「ええ、我が麗しのお嬢様」

 私がそう言うと、お嬢様は満足気に私の手を握り返した。




 私とお嬢様が「銀幕牢」に赴くと、受付の女性は人なつこい笑顔で出迎えてくれる。

「いらっしゃーい」

 私が軽く会釈をすると、お嬢様は雑談を始めた。

「相変わらず暇そうね」

「そうなんだよねぇ、今日は君らしか来てないよ」

 笑いながら話す受付の女性に、お嬢様は呆れたように嘆息する。

「潰さないでよ」

「あはは、努力するねー」

 そう言って、受付の女性はにこにこと笑っている。

 お嬢様が決済を済ませると、私は横の大きな扉を開き、お嬢様を促す。

 お嬢様が入り、あとに続いて私も中に入ろうとすると、受付の女性が私に声をかけた。。

「ねぇ」

「…はい、なんでしょうか」

 女性は、にへらと相好を崩す。

「今日は、二人しかいないんだよねー」

「…?」

 意図が理解できず、困惑して立ち尽くしていると「メイ?」とお嬢様に声をかけられた。

「はい、ただいま」

 そう言って、私は女性に会釈をしてから扉をくぐる。

 中ではすでに照明は落とされており、スクリーンには注意事項が表示されている。

 中央付近の座席、お嬢様の左隣に私はかけた。

 お嬢様が肘掛けに乗せている白い手が目に留まると、私は先ほどの女性の言葉が腑に落ちた。

 暗闇に、お嬢様と二人。

 そのシチュエーションに、私の『胸の高鳴り』アトリビュートは異常値を示していた。

 横に座るお嬢様を盗み見ると、ぼんやりとスクリーンを眺めていた。

 その表情がとても『愛おし』くて、私はお嬢様の手に、自分の手を重ねる。

 驚いたような表情のお嬢様がこちらを向く前に、私はお嬢様の頬にキスをした。

 はじめて、私からキスをした。

 けれど、そんな余韻に浸る間もなく、私の唇はお嬢様によって、情熱的に奪われてしまった。

 そのまま十数秒後、映画は幕を開けた。

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恋するAIの「胸の高鳴り」アトリビュートは異常値を示す @yu__ss

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