そして斥力

 前回(「引力と重力」)では、全ての物質が(理屈は分からないけれど)お互いに引き合う力、引力を持っているということを説明しましたが、宇宙には別の力も存在します。互いを引き離す力、「斥力」です。簡単にいえば、反発する力。もし、地球上で引力よりも斥力が優勢になったら? 地上のものはすべて宇宙へと放り投げられてしまうでしょう。引力が優勢でよかった。


 斥力のもっとも身近な例といえば、やはり磁石でしょう。磁石の同じ極(S/S、N/N)はお互いに引きつけ合いますが、異なる極(S/N)は反発し合います。地球自身も大きな磁石のようなもので、北極近辺、南極近辺に磁場の極があります。この性質を利用したのが方位磁石ですね。また、「リニアでGo(https://kakuyomu.jp/works/1177354054885557884/episodes/1177354054885689262)」で紹介したリニア新幹線も、超伝導磁石の斥力を利用して浮かんでいます。


 さて、話をグ~~ンと大きくして、宇宙の始まりを考えてみましょう。宇宙は大爆発ビッグバンから生まれたと考えられています。この考えは、天文学者のエドウィン・ハッブルが銀河の観測を行っている時に、すべての銀河が赤方偏移していることに気が付いたことがきっかけです。「救急車の音が変わる不思議(https://kakuyomu.jp/works/1177354054885557884/episodes/16816927859357578400)」で説明しましたが、観測者から離れている物体からの光は波長が伸ばされて赤く見えます。すべての銀河が地球(太陽系/銀河系)から離れるように動いているということは、宇宙が拡大しているということに他なりません。では、時間を巻き戻せばどうなるか。宇宙全体がひとつの点に集約されます。当時、宇宙は変化しないという定常宇宙論が一般的だったので、この考えは衝撃的だったことでしょう。


 何によってビッグバンが起きたのかは謎ですが、研究者の仲には宇宙の拡大速度は徐々に遅くなり、やがて停止する――あるいは反転収縮するという考えを持つ人たちもいます。ところが、近年になって彼らの考えを打ち砕く発見がありました。宇宙の拡大速度は衰えるどころか、ある時点から加速していることが観測の結果から判明したのです。しかも、その発見はまったく別個の2チームが同時期に発見したのです。チームを率いていた二人の科学者は、ノーベル賞をもらっています。

 銀河の膨張が加速している。この事実からひとつの謎が生まれました。「膨張を加速させているのは何か?」ということです。膨張させる力、すなわち斥力はどこから生まれているのか。これまでのところ観測されていないその力は、「ダークエネルギー」と呼ばれています。ダークマター同様、暗黒という意味ではなく、まだ未知のものという意味での“ダーク”です。

 そして、ダークマターは宇宙の68.3%を占めていると考えられています。ダークエネルギーの正体を探ることが、宇宙のなりたちを解明することに繋がります。我々の宇宙がどのように終焉を迎えるのかも予測できるようになるでしょう。


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