中国が宇宙のタグボートを?

 面白いニュースが入ってきました。中国の衛星が、使われなくなったいわゆる“死んだ衛星”を「墓場軌道」に移動させたというニュースです。

 報道によると、中国が2021年10月に打ち上げた「SJ-21(実践21号)」が、廃棄扱いとなっていた中国の測位衛星「コンパスG2(北斗2号)」に接近・補足し、墓場軌道まで運んだというものです。


 おそらく元となっている記事はこれ。


「Chinese 'space cleaner' spotted grabbing and throwing away old satellite」

https://www.dw.com/en/chinese-space-cleaner-spotted-grabbing-and-throwing-away-old-satellite/a-60658574


 以下、抜粋して翻訳すると


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 The Chinese SJ-21 satellite was seen on January 22 changing its usual place in the sky to approach decommissioned satellite Compass-G2. A few days later, SJ-21 attached to G2, altering its orbit.

 中国の衛星「SJ-21」が(2022年)1月22日、軌道を離れ退役した衛星「Compass G2」に接近していることが観測された。数日後、「SJ-21」はG2を捕捉、その軌道を変えた。


Chinese officials haven't yet confirmed that the apparent space tug occurred.

 中国当局は、この宇宙の綱引きが起きたことを確認していない。

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 地球を周回する人工衛星の寿命は、搭載機器の耐用期限や推進剤の枯渇などの理由から、5年から長くて15年程度とされています。その他にも機器の不具合や放射線の影響による故障などで使われなくなる場合もあります。そのような使用済みの衛星(死んだ衛星)は、徐々に高度を落として最終的には大気圏に突入して燃え尽きます。使用直後に残った推進剤で軌道を変えて大気圏に突入してくれれば問題ないのですが、そうした例ばかりではありません。使用されなくなった衛星が、何年も何十年も地球を周回するという事態が起きています。

 そして、衛星の数が増えれば増えるだけ衝突の危険性は増し、スペースデブリが発生する可能性も高くなります。


 そこで、国際的な取り決めとして使用済みの衛星で、大気圏に落下させられないようなものは、「墓場軌道」と呼ばれる高度約36,000メートルの軌道に移動させることになっています。ただ、すべての衛星が墓場軌道まで移動させられるか? といえばそんなことはなく。


 で、今回中国が成功させたような自力で墓場軌道までいけない衛星を運ぶ衛星や、推進剤が空になった衛星に燃料を補充する衛星といったアイディアが考えられ、各国が研究を行ってきたわけです。ですが、実際には衛星を別の衛星に近づけるだけでも大変なことです。宇宙空間でのランデヴー技術に関しては、以前「めぐりあい、宇宙(そら)――ランデヴー技術(https://kakuyomu.jp/works/1177354054885557884/episodes/1177354054894637416)」でも紹介しましたが、とても高度な技術です。

 報道内容が事実なら、これは大きな前進と言えます。


 一方で記事にあったように、中国側からは正式な発表はされていません。中国メディアの新華網が、前述の記事を引用する形で紹介していましたが。

 スペースデブリを減らすことにも繋がる技術ですから、中国は誇ってもいいと思うのですが、ことはそう簡単ではありません。この技術、自国の衛星に対してだけ使うのであれば問題ないのですが……たとえば、他国の偵察衛星を無効化する(墓場軌道まで運ばずとも軌道をずらす、地球に落とすなど)ことも可能になるわけです。軌道上で行われるので、手出しできません。安全保障上、大きな問題なのです。新華網の記事では、「誇大喧伝だ」と書いていますが、記事のカテゴリが「軍事」になっているんですよねぇ。科技(科学技術)ではなくて。


 中国以外の国――といっても、出来そうなのはアメリカ、日本、フランスぐらいでしょうか。あとインドかな。でも政治的には微妙――が、早々に同様の技術を確立し、「やったらやりかえす」くらいのことにしないと。技術的な抑止力ってことですね。構図的には核と変わりません。

 本当はこんなこと、考えなくて済むような世界がいいのですけれど。

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