カンチのストレスと寂しい思い。

俺はカンチ。

結構構って欲しがりなフレンブルドックだ。


あれから3年経った。

結局シンロはユウタが短大へ行って、翌年ヒロコは就職した。

卒業と同時に家を出たヒロコ。

ユウタが寮に入ったから、ヒロコが俺を引き取ってアパートで暮らしていた。

ユウタを思うとちょっと寂しいが…。


俺は田舎の瀬名で、ヒロコとぬくぬくラブラブ生活だ。と思っていたのは1、2wkほどで…。

アパートは狭い。

1kで日当たりも悪い。

キャベツもみかんもキュウリもナスも食えない…

あれはトシコさんとチヨさんが趣味でくれていたに過ぎない。

普通の犬にとって嗜好品。猫で言えばチュールだ…。


そしてヒロコも仕事で忙しいから朝の散歩は15分ほど。

帰りも遅い。

休みの日はいっぱい散歩に行ってくれるし、帰って来るとベロベロに甘える俺。

でも、ヒロコが帰ってくるまでの時間は退屈でしょうがないから俺はクッションを噛みちぎったりほねっこ噛んだりしている。


猫もいないし原田のじいじも、ばあばも、写真屋とひもの屋のおっちゃんもいない。


犬は猫と違って社会生活をする。

環境に、ご主人に従順でいるのが犬。

犬はご主人に逆らわないし、寄り添って、ご主人のために生きる。

が。

ヒロコのことは好きだ。

しかし、俺はだんだんお家が恋しくなった。

ユウタ…

チヨさん…

トシコさん…


みかん…。


そんな時間が流れて、ヒロコの彼氏が転がり込んで来てた。

ヒロコが選ぶ男だけあって、ダイスケはいいやつだと思う。

ドックランにも連れてってくれるし、おやつもくれる。

俺とボールで遊んだりしてくれる。

俺はなかなかいい友達ができた。

ダイスケの実家は近い。

実家にはハナちゃんというフレンチがいてたまに近くの河原で遊んだりした。

これはこれで楽しかった!


しかしまたもや、楽しいことは続かない…

ヒロコに子供ができた。

人間は犬と違って10ヶ月も腹のなかに子供を抱えている。

ダイスケも、もちろんヒロコも俺に構ってくれなくなった…。

人間のベイビーの可愛さには敵わない中年期の俺。


俺はまた退屈な日々が続く。

妊婦のヒロコがつまずくからと俺はケージに入れられることが多くなった。

俺はヒロコに迷惑をかけるつもりはないし、すみっちょを歩くようにしていたけどな。


俺は、息苦しい檻に閉じ込められた。

俺は家族として寄り添って、一緒にいたいだけなのにな。


ゲージの世界はとても狭くて、追いやられたようで惨めで。

ゲージの外が、華やかな世界のような気がして俯いて悲しくなった。

この頃から、ご飯がおいしくかんじなくなった。


散歩の時間も不定期。

わがままを言っても、吠えても、俺は『煩わしいコ』でしかないらしい。


ワン!


「うん、もうちょっと待ってね…。ちょっと気分が悪くて。」

ヒロコは苦しそうにため息混じりに言う。


我慢できなくてソソをしてしまった俺に、ため息をついて掃除するダイスケ。


違うんだ。

散歩まで我慢してたんだ…

迷惑かける気は無かったんだ…

そんな目で見ないでくれよ…。


つわりで苦しいご主人に散歩に行けと喚く俺は、お荷物な犬でしかないようだ。


ダイスケが早く帰ってくると、散歩に連れて行ってくれるが、家に帰ると俺はゲージに入れられる…。


俺はとうとう、ご飯を食べるともどすほどにこの生活がストレスになった。


構ってくれよ。昔みたいに。

カンチカンチ!って。

こんなゲージも嫌だ。

こんな茶色いご飯ばっかも嫌だ。

俺は家族として一緒にいたいんだ…。


ユウタ…

チヨさん…

トシコさん…


みかん…



「カンチ、おうち戻ろうか?」


ヒロコが大きなお腹を抱えて、俺のゲロを片付けて寂しそうに言った。


ヒロコ。

ヒロコ。

俺は…



戻りたい。

あの潮くさい用宗に。



ヒロコもわかっていたらしい。

俺にとってこの環境が結構なストレスだったことが。


俺はしばらくして、仁科家に戻された。

ヒロコが帰っていくときの寂しい顔が辛かった。


俺が辛いように

ヒロコも辛かったに違いない。


いいんだ。


いいんだ。


戻った仁科家は相変わらず潮くさくて

チヨさんとトシコさんが迎えてくれた。


ユウタはいない。


4人と一匹の賑やかだった生活が懐かしいほど静かなおうち。


1階建の平屋はこんなに広かっただろうか…?

こんなに静かだっただろうか…?


でも俺ももう中年期の落ち着きのある犬だ。

のんびり余生を楽しむのもいいだろう。

俺はチヨさんとトシコさんとみかんと野菜たちに囲まれた生活に戻った。

今日ものんびりチヨさんの隣で縁側に寝そべる。

もうご飯はちゃんと食べれるようになった。

戻しもしない。

俺は元気だ!


夏が来た。

夏休みに帰ってたユウタはどこか大人びていて、俺は久々の再会に戸惑った。


「カンチ、浜いくか?」


ふがふが!


「お前の好きな田中さんちも回るか!」


田中さんはいつも縁側にいておやつをくれるおばあちゃんだ。


「あとは、じいちゃんの墓参りな。」


おう!墓参り大好きだ!

近所のばあちゃんたちが集まって井戸端会議しているから、せんべいくれるしな!

なでなでゆさゆさポンポン!も付いてくる!


俺は興奮気味だ!


ユウタは変わらない態度で散歩に連れ行ってくれて砂浜を走って…


田中さんにお菓子をもらって…


墓参りにちゃんとおすわりして、なむなむするユウタの横で俺は頭を下げていいコにしていた。そしたらばあちゃんたちが構ってくれた。


いいコだな。いいコだな。って。


俺は幸せだと思った。



だけどユウタが寮に帰っていく日はやはりどこか寂しいものだな…

いつもの道でチヨさんと、ユウタの背中を見送った。


頑張れよユウタ。



もう俺も若くないからたくさんは望むまい。

のんびりできる仁科家に戻ってこれて、

孫ができて大騒ぎな仁科家が幸せなら俺はいいよ!

俺も幸せだよ


俺は仁科家の家族なんだから!




















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フレンチブルかんち の気持ち もちもん @achimonchan

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