拾い食いのキューピッド。
俺はカンチ。
食い意地張り気味のフレンチブルドックだ。
最近夏休みのせいか、ヒロコが毎日俺の散歩に行く。しかも決まって同じコース。
ヒロコは可愛い。
身長も高くて、細くて、顔も丸くて、顎が小さくて、まつげが長い。
目は一重だが、JK必須のアイプチをすると俺のクリクリ目くらいになる!
乳はちっちゃいが、俺は犬だから乳には興味がない。大人になっても乳に執着するのは人間だけだ。
俺ら犬にとってあの突起物は、子犬がベロベロする豆にすぎない。
…貧相だが俺にもついている。
ヒロコはモテる。
ボーイフレンドが何回か変わる。
なかなか面食い。
しかも中学の時の、ケータイのない時代は卒業式近くになって頻繁に電話がかかって告られていた。
仁科家は黒電話だ。(現在も)
俺はコイツが「ジリリリリリーン!」となるたんびびっくりして毛が逆立ち、吠えまくっていた。
……▲__▲
((((((;゚Д゚))))))))
(ユウタはもてない。
あいつはどっちかというと、ちょっと女々しい漫画オタク。)
そしてモテる女というのは、自分がどうすれば可愛く見えるかという売りどころをわきまえている…。
これを世間ではあざといという。
レビューにもあるが俺もあざとい。
種族は違えど、属性は似ているのだ!
仲良くやろうぜッヒロコ♡
「カンチ行こう!」
「ふがふが!」
最近ユウタが部活で忙しいのでヒロコが行ってくれる。
ヒロコはユウタと違って毎日ジャージではない。細身のジーンズに可愛いシャツを着ている。なんとも可愛らしい♡
チヨさんのいつものラジオ体操ポイントをまっすぐ行くと、シラス工場のマルナカがある。
シラス工場は網戸のようなものに茹でたシラスを広げて天日干しする。
道の表脇に、干すための低い雲梯(ウンテイ)のような台がたくさん並んだ道のりを行く。
朝夕散歩の時間、干されたシラスを白い手袋をした人が揉むようにして天地返ししている。
風に吹かれたシラスが、道の脇に吹きだまってたまるが俺はこれをヒロコの隙をついて拾い食いするのが日課だ。
ハグハグ。
ハグハグ。
くぅー!たまらないぜこの塩加減!!
「カンチ食べちゃダメ!」
俺は怒られてやめる。
が、また隙をついて食べる…!
毎回怒るヒロコ。
だが散歩コースを変えないヒロコ。
そしてこの散歩コースが変わらない理由を最近知った。
俺はシラスに夢中になりすぎて下しか見ていなかった…。
「カンチ行くよー。」
「ふがふが!」
今日もヒロコだ♡
「なんだよヒロコ、俺が行くよ。」
ユウタが横槍を入れる。
「フンッッ!」
ユウタ!俺はヒロコと行くんだ!
俺は鼻息をユウタの靴下にかける。
「いいの!お兄ちゃんは日曜日に行って。」
「ふがふが!」
そーだ、そーだ!
俺は四つん這いになって、上目遣いで戦闘モードだ。
俺はヒロコといくんだ!
(じゃないとシラスが食べられない)
「なんだよ。しかも最近色気付いて。きっもー。」
「万年彼女なしの童貞に言われたくない!」
「な!」
「ふがふが、ふがふが!」
そうだぞ!そうだぞ!
ユウタめ!万年彼女なしの童貞め!
ーーーーはッッ!
俺もだった!!
そしてヒロコとの散歩。
俺はルンルンだ🎵
ルンルンで歩くと俺は
右前足と右後足が一緒に出て歩いてしまう。
なので体が左右に揺れる。
あれ、あれ?
と思っていると頭がこんがらがるので、
あんまり気に留めないことにした。
マルナカの道を横切る。
俺は電柱でシッコ。
ヒロコを見上げる。
作業員を見る。
数人の作業員がアミの上のシラスを天地返ししている。
「!!!」
若いにいちゃんが1人。
ヒロコに手をふっている!
ヒロコは…。
満遍の笑みだ。
俺はいけないものを見てしまったようで、急いでシラスの吹き溜まりに食らいつく。
「今日もお散歩?」
「はい。」
な、なるほど。
そういうことか…。
ふがふが。
男だからわかる。
会話の言葉に下心ならぬものが存在することを。
そしてヒロコもまんざらではないことを…!
次の日。
俺はまたヒロコと散歩に行く。
ここはひとつお節介を焼こうと決めた。
マルナカの道。今日もあのお兄さんがいる。
「今日もお散歩?」
「はい」
「偉いね、高校生?」
「そうです。」
俺は時間を稼ぐために、道の真ん中でゴロゴロと背中をかく。
このマルナカに面した道には、白い白線で『シルバーゾーン』とかかれている。
用宗がいかに過疎地域かを物語っている。
その少しだけ地面から浮き出た白線が俺の痒い背中にフィットするのがたまらない。
ゴロゴロ。
ゴロゴロ。
ヒロコのために時間を稼ぐ俺。
ゴロゴロ
ゴロゴロ。
「またね。」
「はい。」
俺は気づく。
魔性性の高い女は、次をよんでいる。
だからちゃんとヒロコはわかっているわけだ。
“自分の情報は聞かれるまで言わない”ことを。
ある種の駆け引きだ。
名前や、相手のことを聞いたら曖昧だった関係が、お互いもしくは相手の“下心”を認識することによって関係性が一段上がる。
しかし、魔性性の高い女はそれを自分から言わないのだ。
どちらが先に聞くか。
もしくは“次”というお互いの未来に、そのステップ用語を秘める。
恋とは駆け引きなのだ。
ヒロコ…!
次の日。
日曜日はユウタが散歩の行った。
マルナカの道を通る。
「…。」
俺は理解する。
今日はマルナカがおやすみなのだ。
だから今日は吹き溜まりには干からびたシラスしかない…。
次の日。
またあのお兄さんはヒロコに手を振る。
「いい天気だね。」
「そうですね。」
「部活とかないの?」
俺はシラスを食べたあと、ゴロゴロ。
「ないです」
ただ拾い食いして、だらけているわけではないぞ。
俺は今ヒロコのキューピッド役だ!!
ゴロゴロ。
ゴロゴロ。
「可愛い犬だね。」
「フレンチブルドックで、カンチっていいます。」
「カンチね。」
そうだ。タマはないが俺が今腹を出しているからわかるだろ?
チンがあるんだ!男だ!
ゴロゴロ。
「背中かゆいのかな?可愛いね。」
「可愛いですよね。」
「君も。」
「え…。」
よし、行くぞヒロコッ!
俺はリードを引いた。
男はな!
“かわいさチラ見せ”くらいがいいんだよ!
だからな、今日はここで退散だ!!
次の日。
「ねえ、お兄ちゃん。」
「あ?」
ユウタがベットで漫画を読んでいた。
俺は下のクッションにうつぶせている。
「シンくんに告られた。」
「まーいいやつだよあいつは。お幸せに。」
俺はヒロコを見た。
相手は…。
ユウタの同級生らしい。
多分(いや絶対)シラスのお兄さんではない。
なんだよ。
協力したやったのに。と思うが。
ヒロコの照れた、いたずらな笑顔に俺は憎めなさを感じてすり寄った。
いいぞヒロコ。
俺はどう頑張ったって、一生童貞だ。
ガールフレンドもできない。
だからヒロコのあざとさは同じ種属としては羨ましいし、応援するし、到底かなわないさ。
男の俺には女神だぞ♡ヒロコ
まぁまた一緒に散歩でも行こうぜ。
今度は俺のシラスのために付き合えよ!
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