ユウタの家出 男同士の絆

俺はカンチ。

何だかんだユウタが好きなフレンチブルドックだ。


最近ヒロコがトシコさんと言い争っている。毎回だ。

どうやら『シンロ』というボーイフレンドが原因らしい。

「よく考えなさい!」

「ちゃんと考えてるよ!だって私の将来のことだもん。」

「うちには、お金なんかありませんよ!」

「何とかする!だから許してよ!」


どうやら『シンロ』というやつはなかなか貧しそうなヤツで、二人でやって行くにはお金がかかるらしくトシコさんは猛反対だ。


俺はユウタの部屋でダラダラしているが耳だけは会話をとらえている。

ユウタは、嫌そうな顔をしながらヘッドフォンをかぶる。

まぁわからないでもない…。


ヒロコはボーイフレンドが3人ほど変わった。

どいつも何度か散歩に行ったことがるが、ヒロコはなかなか面食いだ。

でも男を見る目は有ると思う。

先月会った『ケン君』はコンビニで俺のおやつを買ってくれるしな!いいやつだった。


ただ今回のこの『シンロ』とやらはなかなかトシコさんに受け入れられないらしい。


「お母さんは何にもわかってない!私はもう心に決めたの!」

高校生にしてえらい決断だ。

「ヒロコ!うちはお金ありませんからね。自分で奨学金借りるなりしなさいね!」

交際資金をまさかの借金させるトシコさん…ひぇぇ。

「お兄ちゃんには私学行かせたんだから、公立行って浮いた分私にだってかけてよ!!」

おいユウタ。なんかお前呼ばれてんぞ?

ユウタはベットで寝転んで漫画を読んでいる。

「お兄ちゃんは就職するんだからね。」

「お兄ちゃんはシンロを諦めたわけじゃなくて自分で選んだんじゃない!」

なんだって!?

「ワン!」

ユウタお前もシンロと付き合ってるのか!!?

「ワン!」

信じられないぞ!このうつけ者!

「どしたカンチ?」

ユウタがこっちを見てヘッドホンを外して俺を見る。


「お兄ちゃんが学だったから、あなたには立受けてもらったんじゃねない。わかってちょうだいよ!」



次の日。

ユウタは朝までは普通だった。

俺の散歩に行って、俺に茶色いご飯をくれて。

おすわり、お手、おかわり、伏せ。

悪質に長い待て。


そのあとユウタは普通にご飯を食べて、普通に出かけて行った。


ふつうじゃなかったのはベットの上にケータイが置きっ放しなだけ。

忘れて行っただけだと思った。


が、ユウタは帰ってこなかった。

ユウタが帰ってこない。

そのことに気づいたのは俺の散歩を、会社から帰ってきたトシコさんが代わりに行ってくれたあたりからだ。

俺はユウタが部活のせいで帰りが遅いのかと思っていた。

じきにヒロコも帰ってきた。


夕飯は3人。

「お兄ちゃんは?」

「さー。ケータイ忘れて行って連絡が取れないの。なんかきいてる?」

「しらなーい。」

「ユウタはいないのかね?」

チヨさんが聞く。

「まー、お腹が空けば帰ってくるでしょあの子のことだから。」


8時になっても、9時になっても帰ってこない。

チヨさんが、何度も何度も外に出てユウタを待つ。

帰ってこないユウタ。


俺はヒロコのそばでほねっこを噛みながら、ヒロコを見上げる。

ヒロコは俺を撫でながら、何件か電話をしている。

「うちのお兄ちゃんそっちいってない?」

…。どうやらいないようだ。


いつもならほねっこに夢中になるが、今日は何だか気が気じゃない。


俺は11時にユウタのベットの脇のクッションに伏せて寝ようと思ったが、静かでがらんとした部屋。寝る気がしない。

今日はヒロコのそばで寝ることにした。


「カンチ、いびきうるさい!」

「ウガガッ」

と深夜に怒られて目を覚ましたが、結局ユウタは帰ってこなかった。

(フレンチブルは、いびきがうるさい)


どこ行っちまったんだ?ユウタ。


朝はヒロコが散歩に行ってご飯をくれた。


昼間はチヨさんのそばで昼寝とおやつ。


夕方ヒロコが帰ってきた。

「ワン!」

ヒロコ!ヒロコ!

「ワンワン!」

ユウタのケータイ光ってるぞ!!



ヒロコがユウタのケータイを見る。

当時はガラケーだからすぐみれる。

「んー何もないね。」

ユウタは俺を置いて、どこ行っちまったんだ…。


ユウタ。

ユウタ…。


やたらに吠えて悪かったよ。

わがまま言って悪かったよ。

鼻水鉄砲も悪かったよ。

帰ってきてくれよ。


18時。

「カンちゃん、そこまで一緒に行くかね?」

珍しくチヨさんが俺のリードをひいた。

ふがふが。


チヨさんはすぐそこの角まで行ってユウタが帰ってくるはずのまっすぐな道を待つのだ。

俺は知っている。

ヒロコやユウタの帰りを待つ時いつもチヨさんはそこにいる。


俺は大人しくついて行った。

日が落ちる。

俺はおすわりして待っている。


チヨさんはラジオ体操をしながら待っている。

チヨさんが腕を振るたび俺の首がつる…。



「!」

遠くの方に見覚えのある姿を俺は見つけた。


ユウタだ!

ユウタだ!


俺はチヨさんの不意をついて、リードを引っ張った。

手から外れるリード。


全力疾走だ!


全ッ

力ッ

疾ッ

走ーーーーーーー!


ーーーーーーー!!


ユウタ!ユウタ!

「ワン!ワン!!」



ユウタが俺に気づく。

「カンチ?」

俺はユウタに飛びついた。

ユウタ!ユウタ!


どこ行ってたんだユウタ!

「へっへ。ハッハ。」


俺を抱きしめたユウタ。


ユウタは。

ユウタはちょっと泣いていた。



お兄ちゃんにはお兄ちゃんの苦悩があるのだ。

お兄ちゃんなりに色々考えていたのだ。

あのヘッドホンも2人の口論聞かないようにわざとだったのだ。


ユウタ。ユウタ。



俺にはタマはないが

うまくやろう。

な!



俺は初めてチヨさんのそばで大人しくしていなかった。

ごめんなさいチヨさん。



でも俺も同じくらい心配していたんだ。




俺も仁科家だからな☆





で、俺は今日もユウタとジーンズを引っ張りあう。


「がるるるる!」

ユウタめ!ここは譲れねーよ!


「ガウガウ!」


まぁ、今日はちょっと手加減してやろう。


俺は優しい、できる犬だからな!







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