独白の体をなして

 歩き回っていつしかボロボロの街に辿り着いていた。

 まだ物資のある商店を漁り、何で生きているのと笑った。傷跡だらけのスカートの下を見られないように、人だった頃を思い出しながら笑った。きっととうにばれている。

 街は今や一度訪れた終焉の爪痕を鮮やかに伝えるただ一つのシェルターに過ぎず、独学の知識で繋いだ延命措置で体だけは取り留めていた。歌うことだけは忘れないようにと何度も取り換えた関節が、元の形も知らないくせにギターを弾こうと手を伸ばす。

 成り果てたロボットと成れの果てのゾンビが語り明かす夜を、私は何度も繰り返した。新しい歌を覚えて、弾けないピアノにすら触れて、かつての街ですらないことも忘れた夜が幾度も来た。

 そしてある朝、自分の指先が腐り始めるのを見た。口がうまく回らなくなって、歌う気力も無くなっていくのを感じながら、せめて泣かないようにだけした。

 入れ替わった機械が元の体より増えたとき、一人ずつシェルターを去るのを見た。友人の旅支度を毎朝見ているが、そのボストンバッグ一つにおさまる荷物にどうも悲しくなる。いつだって去れるまま、浪費みたいに時間を過ごしているだけだ。

 行くならいっそ私も行きたい。生きているうちに、意思のあるうちに、歌を忘れて歩いていきたい。最後の勇気だけが叶わないまま、自分の寝床を振り返る。鞄なんて一つもない。

 焚き火の灯りは未だ消えない。

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街に捧ぐ 細矢和葉 @Neighbourhood

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