第4話:オートレイル食堂

俺たちが王都に帰って来た翌日


なんでも昼辺りまでギルドで用事があるとユートが言っていたので、それなら早速ダーナーのおっちゃんのところで一緒に昼ご飯を食べようと決めていた

テキトーにギルドの周囲を散策し、そろそろ探すのも億劫雨になって来たと感じ始めた頃、空腹を刺激する匂いを嗅ぎ取った。俺はその匂いの先に行くことにした。腹が減ったしこの際なんでもいいや、後でユートにも謝っておこう


匂いにつられてたどり着いた先に、昼時ということもあって多少ざわついている飲食店を発見。その建物の上にはでかでかと『オートレイル食堂』という看板が突き刺さっている……まあ結果オーライってことで

すでに2回ほどこの店の前を通り過ぎた気もするがなぜ俺は発見できなかったんだろうか——なんてこと思いながら店内へと歩みを進めた


店内は思いの外広く——というか広すぎだ、厨房を一人で回せる広さじゃないことは一目瞭然。しかし店内はかなり賑わっていて、席数も結構埋まっていた。ダーナーのおっちゃんが以前、というか昨日言っていた『王都一の店にしよう』というのも夢物語ではなく本気だというのがうかがえる



「おーい、サム! こっちこっち!」



店内を見渡していると手を振り上げた人物が一人、ユートだ。奥の方の席で何かを頬張りながらこっちに手を降っている——



「なんで先に食べてるんだよ」


「ごめんごめん、イサムがくるのが思ってたより遅かったからさ。この美味しそうな匂いの中耐えるのはムリだったんだよ」


「まあ、それもそうか。外で嗅いだだけで空腹を刺激されたし」



店内には俺が路地で嗅ぎ取った匂いが立ち込めていて——もういいだろうさっさと注文しよう——


店員を呼んで注文をすませ(見回せば店員も数人いる。この店の規模、王都でもそうそうない)それでも待ちきれなくなった俺はユートの皿から少しずつ奪っていた。ちなみにユートは相当不服そうな顔をしている

お前は俺のと一緒にもう一人前頼んだじゃないか、いったいいくら食うつもりなんだよ



「それにしても、繁盛してるな」


「うん、味ももちろんだけど店を経営する手腕も相当だ。僕が気づいてない部分でも工夫が相当されているはず……」


「そうか? 俺はこの旨そうな匂いにつられてやって来たけど?」


「それも多分作戦のうちなんだよ。食欲をそそる匂いでお客さんを店に誘導してるんだ」


「へえ……前ユートが言ってた食虫植物ってやつみたいだな」


「……仕組み的にはね、仕組み的にはあってるよ。でも店を食虫植物に例えるのはイメージ的に如何なものか」



というかなんで匂いにつられて店に入ってるのさ、一緒にここで食べようって約束してたじゃないか……

ユートが呆れた声でそう呟いた気がするが、聞こえなかったことにしよう。目の前の食事を食すのが先だ

肉にフォークを突き刺す、程よい柔らかさ、あふれ出る肉汁、ジュウジュウとなる鉄板。天才か、ダーナーのおっちゃん天才なのか



「……で、大丈夫なの」



一口目を口に入れて大満足な俺にユートが心配そうな声で問いかけた——といってもユートの喋り方だと大抵心配そうな声に聞こえるのだが、俺が毎日心配をかけているだけだとかいったやつ表に出ろ?



「ああ、昨日はぐっすり寝たからオムニ疲れも残ってないぜ」


「そういうことじゃなくって——」


「大丈夫、大丈夫。俺様今日も元気元気っ」


「……まあそういうことならいいけど」



これまたやれやれといった感じでユート首を振った。全然そういうことなら良さそうな顔はしていないぞお前



「心配すんなって、確かに2年間の努力で勇者になれる適性がゼロのままってのはショックだけど、ショックだけど……ああ、言葉にするとすんげえショックだわ。うん、やっぱ大丈夫じゃないかも」


「お、おわ。何その顔っ。ごめん、ごめんってば。掘り返した僕が悪かった」



なんじゃい! と俺は目の前にある食べ物を全部かっこんだ。ユートの分も

なんだよなんだよ、頑張った分だけ返って来たっていいじゃんかよ!

空になった食器をドンッと机の上に置いた。ふん、こうなったらやけ食いじゃ。てかこのメシ美味しいな。昨日食べた弁当も美味しかったが、これはその100倍美味しい



「うん、大丈夫そうかな。ははは……」


「やっぱ美味い飯ってのはすごいな! 元気が湧いてくるぜ」


「まったく、僕の分まで食べるなんて……すいませーん」



ユートが手短に追加の注文をした——こいつらどれだけ食べるんだよ、といった店員の引き笑いを尻目に——やっぱり美味しいご飯だけは正義だなあ



「そういえば、なんでペリスさんあんなところにいたんだろう」


「おいおい、人の故郷をあんなところ呼ばわりかよ」


「それはごめん。けど……」



ユートは何かを少し考えこんでいた。俺はやって来た料理に手を伸ばす。



「上の方は【勇者】というコマを大事にしているだろう。【勇者】しかも人気度合いでいうとぶっちぎりのペリスさんを王都から外に派遣するようなリスクを背負ってるのは……なんだかなあ」


「うんうん、確かに変だなあ。大変だあ」


「絶対思ってない! 絶対思ってないでしょ!」


「おいおい、飯を食べるのに夢中でテキトーにしか返事してないなんてなんて人聞きの悪いこと言わないでくれよ」


「まだ言ってない! いや、まさにその通りだし、今から言おうと思ってたけどね!」


「そんなカッカするなって、美味しいご飯食べて落ち着け?」


「さっきから僕の分まで平らげているのは君だけど!」



グゥオーとレインタイガーのような雄叫びをあげるユート。荒ぶっていらっしゃる。というか、確かに俺はユートの分もいくらかつまんでいるけど一口ずつだけだ。美味しいんだから許して欲しい


「あっ、やっぱりユートくんとイサムくんだ。美味しそうなもの食べてるね」


凛と鈴が踊るような声

声のした方を向く。ふんわりと輝く金色の髪、視界を奪う存在感。


そこにはお姫様がいた

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