ジョブが【勇者】じゃなくても『勇者』になれませんか???
乃井 星穏(のい しおん)
第1話:【勇者】になれなかった少年
「——適正【魔法使い】」
「やった」
小さな歓喜の声が静かな教会の空気を震わせた。教会の中には今年10歳を迎える、あるいは迎えた子供達が横一列に並んでいる。神官さんが一人一人の前を歩きながらその頭の前に手を掲げていく
——【成人の儀】——
10歳を迎える少年少女たちが教会を訪れ『ジョブ』を授かる日
この日授かるのは数多ある可能性の中から人生を過ごすのに最適だと【神官】に判断されたジョブで、多くの人が【成人の儀】で授かったジョブのまま一生を終える
つまりは人生を左右する大切な日なのだ
そして2年前のこの日。
幼少期からの勇者になりたいという、俺の夢はこの場で打ち砕かれた。神官さんから「【農夫】になりなさい」と告げられたのだ。しかも【勇者】になりたいとどれだけ言っても「【勇者】になれる適性が低すぎる」と追い打ちをかけられる始末
俺は本当に落ち込み、数日間寝込んだ。いつもは後を継げとうるさい【農夫】の両親も可哀想に思ったのか【勇者】の育成機関である『勇者学校』へと送り込んでくれた
期限は3年。『勇者学校』を卒業するまでに【勇者】になる。それができなければ【農夫】になり後を継ぐ。それが両親との約束だった
——今年こそ【勇者】の適性が増えていますように——
俺はガッシリと手を組んで祈った
11歳の時も【農夫】だった。【勇者】の適性は相変わらずなし。それから更に1年、俺は育成学校の授業にもなんとかついていったし、体力や筋力も他の生徒よりもつけているはずだ(【勇者】のスキルによるステータスの補正がない状態で成績が平均より上なのだ、優秀だろ?)
それに三度目の正直と言いますし……二度あることは三度あるとか言ったやつ、後で折檻な
10歳の子供たちが次々とジョブを告げられ、最後に神官さんが俺の前に来て——またお前かって顔するな、残念な子を見る目で俺を見るな!——手のひらを俺の頭の前に掲げた
——【農夫】はイヤだ……【農夫】はイヤだ……——
神官さんが口を開くまで数秒もなかったはずだが、長い長い時間に感じられた。心臓の音が痛い
「……イサム・フレイマー。適正——【農夫】」
「ぅぇっ……」
神官さんを見上げる——嘘だろ。もう一回言ってくれ、聞き間違えた。多分、間違いなく【勇者】って言ったと思うんだけど……——
神官さんは余った手で頰をかく
「なあイサムくん、前にも聞いたが【農夫】はイヤかね。【農夫】になれば君は偉大になれる、その素質は十分に備わっておる。【農夫】になれば間違いなく偉大になる者への道が開けるのだが……それでもイヤかね?」
「【農夫】が嫌ってわけじゃないですけど……でも、どうしても【勇者】になりたいんですっ」
「イサムくん。君の【勇者】の適正は——ゼロだ」
神官さんがとても言いづらそうに、眉頭を寄せながら言った。いや、そんなことはどうだっていい
ゼロ。
ゼロってなんだ、
俺のこの2年間の努力は無意味だったっていうのか……
厳粛な雰囲気の教会なのだが、こみ上げてくるものが抑えきれなくなる。我慢できない、抑えきれない、どうしようもない——
「ちっくしょおおおおおお【勇者】になりてえええええ」
叫び声は思ってたよりも教会に反響した、教会って思ってたより響くのな。神官さんのゲンコツをくらった。2歳年下のチビどもはクスクスと笑っていて、様子を見に来ていた勇者学校の友人は苦笑い。両親はまたかと言わんばかりに帰っていく
——これは【勇者】になることを夢見る、そんな俺の物語
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます