第3話 作戦成功!

 この話をこのまま続けても仕方がないので僕は話題を戻す。


「それで追われてここに?」

「ご明察」


 ペドロはそう言うと、またしてもあのいやらしい笑みを浮かべた。異次元かどこかからの存在が、そう簡単にこの世界に来れるものなのだろうか? 仕組みとかはさっぱり分からないものの、コイツがそう言うのだからそれはそうなのだろう。常識で考えちゃダメだ。目の前の存在自体がすでに理解の範疇を超えているのだから。

 会話をする度に次々に頭に浮かぶ疑問は取り敢えず置いておいて、今はこのまま話を続けよう。


「でもお前がここに来れるって事は、その内その捜査官がここにも来るんじゃないのか?」

「あはは、それはね、大丈夫なの」


 僕の話をペドロは軽く鼻で笑う。その態度が気に障ってしまい、少し声を荒げてしまった。


「なんでだよ!」

「その私を追いかけたのがリリムって間抜けなやつなんだけど、私の華麗なテクニックでそいつを次元の穴に落っことしてやったのよ! うまく落とせた時のあの爽快感ったらなかったわね! もうあの子は出てこられないわ」


 目の前のモドキはそう言ってケタケタと笑う。やはり僕の推測は当たっていた。リリムはコイツにはめられたんだ。全てが繋がったと言う事で、早速作戦を実行に移そうと、僕は調子に乗って話しているペドロの顔をじいっと見つめる。


「つまり、そのリリムって捜査官にしかお前の悪事は知られていないと?」

「そゆ事よん。あなた、急に賢くなったわねぇ。もしかしてまた気力が戻った?」


 裏に思惑が隠れていると言う事も知らずに、モドキはまた僕のやる気を食べようと目を輝かせ始めた。この食いしん坊め。

 後もう一息と言う事で、僕はドヤ顔でペドロを挑発する。


「かもな。でも今度は奪われないぞ」

「あらあ、何を言ってるのかしら? 私から逃れられる訳がないでしょお?」


 ペドロはそう言うが早いかまた大口を開ける。この時の姿はまるで顔の半分以上が口に見えるほどだ。見れば見るほどに異常な生き物だな。


「いただきまーす」


 ここでモドキがまた僕のやる気を食べ始めた。よし、ここまでは作戦通り。後は、えーと、何だっけ。確か何か動物をイメージすればいいんだったかな。一体何にしよう?

 そう言えばこれって急がないといけないのかな。分からないけど多分急いだ方がいいよな。


「むぐむぐ……うんまうんま」


 今のところ作戦は順調に進んでいる。遅くともこの食事が終わるまでには何か動物をイメージしなくては……動物、動物……そうだ!


「う、むぐ、一体何、これは……」


 僕がある動物を念じ始めたところで、ペドロは自分の体の異変に気付き始めた。ヤバイ、間に合うか。僕は必死でその動物の事だけを強く念じる。

 もし飼う事が出来るなら絶対飼いたいと以前から願っていた、その動物の事を。


「あんた! ハメたわね! この、この私をおおお!」


 ペドロはそう絶叫するとその姿を変容させていく。これはつまり、作戦が成功したと言う事なのだろう。

 しばらく経って断末魔の叫び声が聞こえなくなると、さっきまでそこに確かに存在していたバクモドキは可愛いアメリカンショートヘアの姿に変わっていた。そうしてその隣には夢で見たあの少女が。


「ご協力、感謝するわ。ペドロの能力を借りてこうして私も出られたし」

「あ、うん……」


 何だかよく分からないものの、こうして事件は無事に解決する。厄介なバクモドキは姿を消したものの、この意外な展開に認識がまだうまくついていけない。

 けれど一応助けてくれた訳だし、リリムにはお茶でも出すべきだろうか。土足で畳の上に立っている、この向こうの世界の可愛い捜査官に。

 そんな彼女は言いたい事を言い終えると、僕に向かって右手を上げて軽く声をかけてきた。


「それじゃ」

「え? ちょ、こいつ置いてくの?」


 この言葉に唖然としていると、彼女はその理由を口にする。


「ええ。だってペドロはこっちの世界の生き物になってしまったんだもの。こうなった以上、私の世界にはもう連れてけないの、ゴメンね。大事に育ててね」

「えええ……」


 まぁ、猫は飼いたかったから別にいいんだけど、それにしてもあまりにもいきなりすぎる。リリムはニッコリと笑顔を向けると、それ以上は何のフォローもせずに一方的にすうっと姿を消してしまった。


 ペドロの変化したこの猫はずっと猫のままなのか。地球の猫と同じ世話をしてやればいいのか。そもそもコイツの生態は本当に猫と同じなのか。聞きたい事は何ひとつ聞けずじまい。

 大事な事を一切伝えずに焦るように姿を消したその振る舞いに、彼女を間抜けなやつと言ったペドロの評価も分かる気がするなと、僕はひとり納得したのだった。



 それから猫は僕に飼われている。懐いてくれているし、獣医に見せたところ100%猫そのものだと太鼓判を押してくれた。

 ただ、彼が大口を開ける度にまたやる気を奪われるんじゃないかと、ついつい警戒してしまう。今のところは何の問題もないんだけれども。

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目が醒めたら変な生き物がいて、何だかよく分からないけどダルいからどーでもいいや にゃべ♪ @nyabech2016

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